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沈黙の教室

 4月。校庭の桜が散り始めるころ、れんはまた新しい教室の隅を選んで座った。


 静かに、そして誰にも見つからないように。息をひそめるように生きてきた。それが蓮の「生存戦略」だった。


 教師の声も、周囲の笑い声も、耳に届いているようで届いていない。全部、薄いガラス越しの音のようだった。


 家に帰れば、父親の怒鳴り声。皿が割れる音。物が壊れる音。母のすすり泣き。蓮は耳を塞がずに、ただ黙ってそれを聞いていた。自分が泣かなくなったのはいつからだっただろう。


 蓮はそうして毎日を過ごしていた。心の中には灰色の霧がたちこめ、何も感じないまま時間だけが過ぎていく。そんな日々の中、ふと目に入ったのが、そうという名の同級生だった。


 彼は教室のもう一つの隅にいた。誰とも喋らず、目も合わせず、声も発さない。蓮のように「自分から距離を取っている」のではなく、誰からも近づかれることのない存在だった。


 蒼の机には、落書き。背中には小さく笑われる視線。靴箱には時折、真っ黒に汚された運動靴があった。


 その姿に、蓮はなぜか目を奪われた。


「壊れそうだ」と、思った。

 そして、「自分と似ている」と。

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