1-2 結婚式当日の話
そう言われると弱ってしまうな。
たしかにあのときの私はこの婚姻に違和感を抱いていた。いや、話としてはわかるんだ。これで縁ができたから仲よくしよう──もとい、縁を作るために仲よくしようというのは。
でも、私もきみも物じゃない。人間だ。
それを外交の手段として使う。そのことにずっと疑問を持っていたんだよ。
王族に生まれれば巷に言う恋愛結婚など望めるはずがない。それはきみも同様だっただろう。だから、『なぜ?』と問うほうが間違っているのは承知しているけれど……
──ほんとうにいいのだろうか?
きみとの結婚が決まってから私はずっと自分に問いかけていたんだ。
ひょっとしたらきみは私との結婚など望んでいないかもしれない。胸の奥に想いびとがいるかもしれない。それを家のため国のためにすべて押しころし、私のところに嫁いできてくれるのかもしれない、と。
そう考えるとこの結婚がとても理不尽なものに思えてきたんだ。きみがゆるせなかったんじゃない、きみにそうさせた結婚が私は赦せなかったんだ。
それに──きみは知っているだろう。私の父がどのような人間か。
父が正妻である母をつめたく扱うところをずっと見てきた私は、自分もそうなってしまうのではないかと不安だった。きみを『夫』として愛せるかどうか確信がなかったんだな。それでこんな顔になったんだ。
──あなたは考えすぎ? そうだな。まったくそうだ。
あのときの私はほんとうに余計なことばかり考えていた。ほんとうに考えなければいけないことは、すぐ隣にいるきみのことだったのに。
でも、あのときの私はきみへの愛を拒絶することが正しいと思っていたんだ。私にきみが望むような愛情など与えられない。だからきみに期待なんてさせてはいけないと。
ウエディングドレスを着たきみを見たとき────私はもう、きみに恋に落ちていたというのに。
瑞々しいオレンジのような髪に、蜂蜜色の瞳。私は、こんなに美しい女性が私のもとに嫁いでくることに動揺してさえいたんだ。
……ああ、ほんとうだよ。このことを話すのは初めてだったか。
きみはそれまで私が見てきたどんな女性ともちがっていた。容姿だけじゃない。きみは無垢な輝きを内面に宿していて、それが私の目には眩しくて仕方なかったんだ。
いまだから言える。
私はきみにずっと恋をしていたんだよ。マレリーナ。
あらためて話すと恥ずかしいな。いったん休憩にしよう。なにか飲めそうか?……ああ、わかった。なら私もいらない。
写真はどうするかって?……
……つらいよ。私たちはこのときにはもうもどれないんだ。なにも知らなかったときのふたりには。
だからこの写真は見たくない。
それでも飾っておいてほしい? 私が一番きれいだったときの写真だったから、って?
そんなこと言わないでくれ。きみはいまが一番きれいだ。どんなときも、目のまえにいるきみが一番きれいだよ。
……だいじょうぶ。約束する。この写真は、もとあった広間の壁に。
もしこのときにもどれたら私はもっときみを大切にするのに。あんな冷たい態度を取ったりはしなかった。馬鹿だったな、私は。
もしやりなおせたら? もちろんきみを甘やかすとも。
毎日こんなふうにして髪をくしけずって、きみが着るドレスをえらんで、食事を運んで……そして、きみが病気にならないように……
…………
マレリーナ、すこし横になるかい? ああ、わかった。疲れたらすぐに言ってくれ。
おや、鳥がきたな。この国ではあまり見かけない種類だが、あたたかいところを探して移動しているんだろう。あれはつがいかな。
見てごらん、片方が片方の毛づくろいをしてやっている。仲がいいな。
私たちと同じだ……。