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もしも、あの子がいなければ

『初めまして。美月さん。弟さんとお付き合いさせていただいている音羽唯です』


 初めてあの子と会った時は驚きと嫉妬で気が狂いそうになった。


 子供離れした礼儀正しさ。朗らかだけど起伏の乏しい声。全てを見透かすような青い瞳。陽の光を思わせるような金色の髪。人形のような白い肌。童話から抜け出してきたような少女だった。


 私はあの子のことが大嫌いだった。少女らしい可憐な容姿は歳の割に既に体が大きかった自分のコンプレックスを強く刺激した。なにもかも見透かすような視線は向けられるだけで鳥肌が立った。私が自分のことを嫌いだと気付いている癖にそれを全く気にせず作り物めいた笑みを見せてくるのが不愉快で堪らなかった。


 けど一番最悪なのは、一番私が嫌いなのは、あの子が行方不明になったと聞いた時喜びを感じた、諦めたつもりでいたのに結局弟に手を出してしまった自分自身だった。


「なんで来たのよ……」


 来ないと思っていた。あんな雨の日にわざわざ何キロも離れた場所まで傘なんかのためだけにやって来るなんて思うわけがない。けれど同時に期待もしていた。だから嬉しくて、離れるのが嫌になってあんなことをしてしまった。


 翼はどう思ったのだろう。私のことを気持ち悪いと、嫌いだと思ったのだろうか。もしそうだとしたら、まあ十中八九そうだろうが、泣いてしまうくらい悲しいけれど、それでもよかった。いっそのこと嫌われてしまえば彼のことを諦められるから。



 ベッドから起き上がって指をティッシュで拭いてから消毒した。毎度のことだが後片付けをする時の虚しさが尋常じゃない。本当に嫌になる。後でちゃんと手を洗わないと。


「……」


 まずいな。気分が最悪で眠れそうにない。一階の台所から酒でも持ってこようかと思った時、スマホが振動した。


 新田からだった。相も変わらずコナをかけてきている。あそこまで強く拒絶したのにまだ諦めない根性は見上げたものだが本当にいい加減にしてほしい。他に女なんていくらでもいるのになんでよりによって私にばかり近づいてくるのだろうか。


 いっそのこと着信拒否しようかと思ったが、ある考えが浮かんで指が止まった。あまり気乗りはしないどころか反吐が出るような考えだが、私のしでかした行為へのケジメとして、翼への恋慕の区切りとしてやってみるのもいいかもしれない。


「……」




 断頭台に向かっていくような気持ちで返信を打った。



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