姉として、女として
「あ…う…」
朝陽が顔にかかるのを感じて目が覚めた。隣に目を遣ると裸の翼が眠っていた。そして昨夜のことを思い出す。
私も翼も体を重ねることなんて経験がなかったから、お互い随分ぎこちなくみっともない様を晒していたと思う。
「いっ…た」
秘部の痛みで自分の中に異物が捻じ込まれる感覚を思い出す。声が抑えられないくらい痛かったけれど、翼にされているのだと思ったらそれだけで得も言われぬ幸福感が湧いてそんなもの気にもならなかった。
いつもしていた淫らな妄想よりも荒々しくて、優しくて、苦しくて、幸せだった。思い返すだけで陶然とした気分になって、胸の内で燻っている残り火に熱が戻りかける。
翼の姉としての私は自分を強く嫌悪していた。弟は心に決めた人がいるのに、それを邪魔するなんて。そう言って自分を責めている。
けれど、女としての私は昨夜の出来事にどうしようもなく陶酔しきっていた。
「…本当に最低」
翼を無視して弄んで、弱さを見せて離れられなくして、誘惑して自分のモノにした。我ながら呆れるほどに計算づくの行為だった。
もちろん、全てが演技だったわけではない。後ろめたいから避けていたのも、心に整理をつけるために大して好きでもない、むしろ嫌いな新田と付き合おうとしたのも、弱さを吐露したのも、全部本心からだ。
けれどあの日からずっと、頭の半分はどうやれば彼が私に振り向いてくれるか考えていたのも本当だった。彼が本当に好きな人は他にいることを知っていたのに。
「う…」
小さな唸り声が突然聞こえて心臓が止まりそうになった。翼が目を覚まそうとしているみたいだ。。
あどけない寝顔を晒して眠っている。背丈は大きくなってとうとう私を超えてしまったけれど表情はまだ子供のそれだった。
愛おしさと同時に強い罪悪感が湧き出て、 顔を撫でようとする直前で手が止まった。もし起きてしまったらどんな顔をすればいいか分からない。翼が私になにか酷いことをするわけはないのだが
静かにベッドから抜け出てシャツとパンツを着た。そのまま部屋を抜けて一階の浴室に向かう。
シャワーに当てられながら頭を抱える。諦めかけていた歪んだ願望を叶えてしまって、自分でも酷く当惑しているみたいだ。 こうなるから叶えてはいけないと自分でもわかっていた筈なのに。
「でも…」
何度も繰り返しそう自分に言い聞かせる。
「でも、あの子はもういないんだから。私が隣にいてもいいじゃない」
生きていても何年も心配し続けている翼に対して連絡の一つもよこさない女なんて隣にいる資格はないし、死んだのなら猶更だ。あんな奴に愛される資格なんてない。いつだって、隣にいて支えあったのは私なんだから。
あまりにも醜い言い訳じみた言葉は、流れ落ちる水が浴室の床を跳ね回る音でも掻き消すことが出来なかった。




