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もしもあの日、雨が強かったら

 十月も半分を過ぎたある雨の日のこと。中学三年生であるオレ、黒羽翼は学校の図書室でそれなりに受験勉強に励んでいた。周りを見ると同じように三年生が参考書と睨めっこしている。

「……」

 志望校の難易度は高いとは言えないが低いとも言えない、要は死ぬ気で準備しなければいけないわけではないが気を抜くことも出来ないということだ。

 正直なところ勉強はあまり好きではなく成績も真ん中程度しかない。かといって他に趣味や打ち込んでいることがあるかと言われればそうでもない。我ながら恥ずかしい限りだ。

「はあ…」

 数学の図形問題から目を離し、天井を見上げる。二歳年上の姉、美月は県内でも有数の進学校に合格していた。美月ならこんな問題難なく解いてみせるだろう。

 頭の出来が違うと言いたいところだがそれは姉に対する侮辱になる。二年前の今頃、美月は毎日のように塾に通い、必死に勉強していた。勉強だけじゃない。何に対しても美月は人一倍の努力や準備を重ねて物事に取り組んでいた。

 多少うっとうしいと感じる時もあるが尊敬すべき姉だと思っている。本人の前で言うとつげ上がるから絶対に口にしないが。

 呆けているとスマホがポケットの中で振動した。取り出して画面を確認する。

『おい弟よ。雨降ってるから傘持って来い』

 姉からの横暴極まりない要求だった。噂をすればなんとやらとは言うが考えているだけでやってくるとは。

 溜息を吐いて返信する。

『行くか。どんだけ離れていると思ってるんだ。自分で何とかしろよ』

 オレの返信から十秒後に中指のスタンプが飛んできた。クソ姉貴め。

 無視して参考書に目を向けようとしたがガラス窓に雨粒がぶつかる音が大きく響いて気が散った。

「結構すごいことになってきたな…」

 屋内にいても分かる凄まじい降水量だ。今朝天気予報でここまで降るなんて言ってただろうか。

 さっきはああ言ってみせたがこれだけ降っているとやはり心配になる。少し悩んでもう一度文章を送った。


『十分はかかるけどそれでもいいのか?』

 ニッコリマークのスタンプが返ってきた。どうやらいいらしい。断ってくれれば行かずに済んだのだが。

「まあ…いいか」

 勉強にも身が入らなくなってたし、ここらで体を動かすのも悪くないだろう。そう考えることにして席を立った。

 もし受かればの話だが、来年の春にはオレはこの街にいない。やりたいこと、探さなければいけない人がいるから。

 せめて最後の数か月間くらいは姉のためになにかしてやってもいいだろう。

 荷物をまとめて校舎を出る。とりあえずは家に戻って鞄を置き、美月のために二本目も用意しよう。全力で走れば家には二分で行けるはずだ。

 誰も見ていないことを確認してからすぐ近くにあるビルの屋上まで跳び上がる。雨が全身を打ち付けるが仕方ない。走りながらでは傘をさせないから。家から美月の高校までの道のりも雨に打たれながらになるだろう。

 今朝傘を持ってくよう言ったのに美月は重たいからと言って持っていかなかった。だから言ったのに。

「…傘持ってきたオレはずぶ濡れで持ってかなかったアイツは濡れないって…」

 ため息が出るがやると言った以上やらなければ。思考を切り替えて走ることに集中した。



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