愛情スパイシー
あいじょうスパイシー
天候は曇りだった。
こんな真夏の夜に曇りなんて…雨が降ったら凄く蒸し暑いだろう。
やっぱり私はなんて運が悪いんだろうか。
「やっぱ勉強はかどらない。頭ん中パーだ…」
柴田は私に告白した。
半ば強制的に。
全然嬉しくもないし、ときめかないし、でも、最後のあの笑い顔に、照れの意味で少し放心状態になったのは本当。
「……ふぅ」
なんなんだ、あの男。
馬鹿な不良。私なんかに告白しちゃって。
「馬鹿な奴……」
シャープペンを置き、ベッドに寝転がる。今日一日の疲れが、とれてるような気もしない。
明日からは土日休みで、来週の木曜日が学力テスト。
なんか、柴田に振り回される気がするよ……。
うん、まぁ、もう振り回されてるんだけど。
あー、なんか疲れたなー。
最悪な一日。
*
「うー…」
五月蝿い。五月と縄の『糸』を『虫』と書き換えて、うるさい、だ。
「ぅあー……」
苦しい。誰かに乗っかられているような。
「がー……重い…」
「じゃ、起きろよ」
「っぬ?!」
聞き覚えのあるようなないような声。
……あぁ、目ぇ開けたくない。
「…誰デスカ?」
目を開けずに、まずは質問。
「あ? そんなん決まってるだろ」
ぐいっと、瞼を親指の平で持ちあげられる。
「痛った……!! ちょ、何すんのよ?!」
「…いい目覚ましになっただろ。しかも俺の顔も見れるし、……一石二鳥? じゃん」
「目が痛い、重い、苦しい。逆の意味で一石三鳥よ……。ていうか……今日土曜でしょ?」
「うん、だから。俺とデートして」
「やだ。あ、てかどうやって家入ったのよ、泥棒! まず私あんたの彼女でも友達でもないただのクラスメートだから! 帰って!」
「あ、間違った。『して』じゃない『しろ』だ」
「え、何。命令系?! なんつー俺様」
相変わらずの、私にまたがる柴田という格好。俺様ボケの突っ込みに、重さと苦しさを忘れる所だった!
すぐさま腕に力をいっぱいいれ、後方に押した。観念したのか、柴田はゆっくりと私の上を下りた。
「ふん、強情な性格だ」
「あんた人の事言えないでしょ」
「いーんだよ、俺は」
何が良いんだか。
「……とにかく、今日は起きて朝ごはん食べたら勉強なの。悪いけど帰って」
「無理、じゃあ俺もここで勉強する」
「それこそ無理、独学で頑張んなさい」
「はぁ……」
柴田は溜め息を吐きながら、浮かない顔をしてあたりを見回している。
「大体、インターホンなんか聞こえなかったよ?」
「あたりまえじゃん、窓から入ったんだから」
「はぁ?! それ不法侵入なんですけど!」
駄目だ不良は。
常識が通用する相手じゃない。
「おい、青山」
振り向くと、柴田が何かを見つけたのがわかった。
「何?」
「これ誰」
昨日やさっきとは違う、低い声。何かに怒ってる?
そして、柴田が手にしたもの。
目に映る、四角い写真立て。中には私と、一人の男。
みられた。
「青山?」
体がだんだん放心状態に近づいてくる。
だめ、体の動きを止める前に、一つやらなきゃいけない事があるだろ?
柴田の手から、写真を奪え。これは、誰にも見られちゃいけないものだよ。
「っ……!」
足が重たい、だけど! これだけは……。
「返してっ!!」
駄目なんだ。