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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

何があっても君を

作者: じゃみ

「すごい! 咲いたらこんなに綺麗なんだ!」



 教会の庭には、道を作るように黄色い花が咲き乱れていた。


僕は、目の前の花たちに目を奪われ、駆ける。


これは、あの時種を埋めた花、あれは──



「いたい!」


視界の外から声が突き抜けた。


「え!? あ……大丈夫!?」


「う……痛いわ……」



僕を覗き込む青い瞳、その目には大粒の涙がみるみる溜まっていく。


教会中に聞こえそうな泣き声が、耳を貫く。



「ご、ごめんなさい!」


どうしたらいいか分からない、反射的に逃げ出してしまった。


急いでドアを閉め、外の様子を伺う。


まだ、あの子の声が聞こえる。


少しのぞき見る。



 修道服を来た女性が、肩まで伸びた布をたなびかせて走る。


蹲る(うずくま)少女は、腰まで伸びた金髪で顔が覆われていた。


ごめんなさい、その一言しか言えなかった。


僕はなんで酷いやつなんだ。


後悔を胸に、扉を静かに閉めた。







次の日、また金髪の少女が来た。


昨日と同じ花を見ている、あの花が好きなのかな?


あの子に似合いそうな、黄色い花。



「ねえ!」


意を決して少女に声をかける。


金色の髪を耳にかけ、青い瞳がこちらを伺う。


大きな瞳に吸い込まれそうになる。


「昨日は……逃げてごめんなさい」


少女は、少しむくれて口をとがらせる。


「別に……気にしてないわ」


「ほ、本当に?」


「本当よ!」


長い金髪を揺らしながら、そっぽを向いてしまった。


これは、だいぶ怒っているな。



「その花……好きなの?」


少女が見ている花を指さす。


「うん」


「じゃあ、それと同じ花あげるよ」


背後から隠していた、黄色い花束を差し出す。



「え……いいの!?」



少女の瞳が、花束を素早く捉える。



「もちろん! 僕からの気持ちだよ」



「あ、ありがとう」



花束の後ろから青い瞳で見つめられる。


胸が飛び上がりそうになる、一瞬目を逸らしてしまう。




「あなた、なんていう名前?」


「ユーリ」


「私は、ロレーナよ」



ユーリ、とつぶやくと、明るさが飛び出るような笑顔を浮かべる。


「また、ここにきてもいいかしら?」


「もちろん、来てほしいな」



じゃあね、そう言うと跳ねるように去っていった。







 「ユーリ!」


振り返ると、柔らかく笑うロレーナと目が合う。


「ロレーナ」



僕も釣られて、目を細める。



少しロレーナの頬が赤くなっているような……気のせいかな。


「きょ、今日は、渡したい物があるの……」


「なに?」


「この前のお礼がしたくて」


後ろのポケットから、四角い箱を取り出した。手のひらの乗るくらい小さな物だ。


なんだろう?


「似合うかどうか分からないけど」 



ロレーナの小さな手のひらが開く。



最初は、花だと思った。


手のひらで包めるくらい小さな花。



「髪飾りを作ったの、お母さんが男の子は髪飾りを着けないって言ってたけど……」



白く輝く純白の花、控え目な大きさだが確かな美しさがある。



「ありがとう! 着けてみてもいい?」


「私が着けてあげる!」


ロレーナが一歩近づいてくる、また胸が高鳴る。



「やっぱり、とても似合っているわ」


「あ、ありがとう」


心臓の鼓動が早くなる、妙にロレーナを意識してしまう。



「まだ、お話できるかしら」


目を伏せ、ぽつりとつぶやいた。


「もちろん」


「もう、ここには来れないかもしれないの」


言葉にならない苦しさが、胸に降りる。


「なんで?」


「これから、もっと忙しくなるわ。将来のために勉強して、そして……見知らぬ誰かと結婚しないといけないの」


「……」


「だから、今日でおしまいね」



「なら僕と! 僕と結婚しよう!」



ロレーナの瞳に、大粒の涙がたまっていく。


ぎゅっと、僕の手を握りまっすぐ見つめる。




「うん……うん! ぜったい……しようね」


「絶対……諦めないから!」


「待ってるよ……いつまでも」


僕たちは約束を交わした後、泣きながら別れた。


諦めない、絶対に。







「試合、開始!」


隊長の合図と同時に、踏み込み、剣を振るう。


重い甲冑を着て戦うのも慣れてきた。


「辞め!」


「ありがとうございました!」


それぞれ兜を脱ぎ、休憩に入る騎士たち。


俺も後に続くように兜を脱ぐ。




あれから2年が経った。


俺は、王国騎士になった。


まだまだ未熟だが、手ごだえはある。

ロレーナとはなかなか話す機会がない。


彼女もまた、名家の令嬢に相応しくなれるように努力しているらしい。



「みんな、話がある」



休憩室に着くなり、隊長が口を開く。



「最近、魔族の動きが活発になっている。明日偵察に向かうので準備をしておいてくれ」



「承知しました!」



休憩室全体が、引き締まるような感じがした。


魔族との戦闘は、長らく行われていなかった。

今は、魔王が不在らしく人間優勢らしい。


なにせ生まれる前の話なのでよく分からない。




今日は早めに寝よう


装備を綺麗に拭き、休憩室を後にした。






偵察が開始された。


俺のいる部隊は、10人程度と小規模だ。


ただの偵察任務なので、問題はないと思うが……。


魔法を使えるのは隊長のみ。俺たちは、付与魔法で剣を強化して戦うことしかできない。



隊長が緊急事態時の行動について何度も口にする。


「いいか! 俺たちでは勝てない魔物と対峙した場合、すぐに逃げるぞ!絶対に戦おうとしてはいけない!」


「承知しました!」




しばらく山間地帯を突き進んだ。


空が木々に覆われていく。


魔物の気配は全くないが……。


「このまま、隣街までいく! そこで休憩だ!」



ガサッ



緊張が走る。


腰にかけていた剣に手をかけ、構える。



「あ、あのー」



茂みから聞こえてきたのは、可愛いらしい女の子の声だった。



だが、隊長は剣を構えたまま茂みに近づく。


ゆっくり、静かに間合いを詰めてゆく。


「お嬢ちゃん、顔をみせてくれるかい」


「はい」


おずおずと顔を出した少女は、おびえながらこちらを見回す。


「ふう」


安堵した様子で、鞘に剣が収められる。


「迷子かな?それなら隣街──」



刹那、隊長の顔面が弾け消えた。



一瞬、何が起きたか分からなかった。

言葉にするよりも先に、得体の知れない恐怖が全身をかけのぼる。


隊員の一人が即座に詰め寄る。


「貴様ア! 何をしたか分かっているのかッ!」


「おい! 戻れ!」


とっさに声を上げるが、隊員の勢いは上がっていく。


「容赦はしない! 死ね!」


俯き、立ち尽くす少女。


絶対に負ける事がないと確信している、強者の余裕を感じる。


待ってくれ……そいつは……人間じゃない。



少女に斬りかかろうとした瞬間、隊員の両腕が弾け飛んだ。


甲冑ごと塵と化して消えるその様は、異様だ。


勝ち目などあるわけがない。


「ッ……!」



声にならない叫び声を上げ、倒れこむ。


「ぐ……!」


「こいつら、王国の騎士団じゃないか。忌々しい。」


首が無くなった死体を、横目で見やる少女。


「退避! 退避!」


言われるまでもなく、全員土埃を上げながら逃げ出す。



少女は、追ってくる気配がない。なぜだ?



しばらく走り、異変に気づく。


誰も、付与魔法を使わなかった。いや、使えなかったんだ。


試しに、足に筋力増強の魔法をかける。



反応なし。



「おい、魔法使えるか!?」


「ダメだ! 先ほどからなぜか使えない!」


どうやら他の隊員も使えないらしい。



後方から、甲冑が地面に打たれるような音が響く。


振り返ると、隊員が数名地面に伏していた。


「おいどうした!」


「力が……出ない……俺のことは気にするな、先にいってくれ」


「でも……」


「もう立つことすらできない、もう長くないさ……」


「クソ!」



他の隊員は、すでに息がない。


とにかく王国に報告をしなければいけない。


「間に合ってくれ!」


すでに俺も魔法が使えない。


いつ倒れるか分からない、急がないと。



「はあ……はあ……」



まずい。手足が鉛のように重い。装備を脱いでみたがまるで変わらない。



歩くだけでも精一杯だ。


視界も霞み始め、前後感が無くなってきた。


今、どこにいるのかさえ分からない。



沈みゆく意識の中、ロレーナの顔が浮かぶ。


「すまない……迎えにゆくと約束したのに……」



ぷつりと、記憶が途切れた。







 瞼の裏に、優しく光を感じる。


調味料の香ばしい匂いに、つられ目が覚める。



「はっ」


他の隊員はどうなった? ここはどこだ?



部屋の扉が、ゆっくりと開く。


その姿に、目を見開く。


頭には、山羊のような角、背中には鋭い翼。


まるで……悪魔じゃないか。



「やあ、お目覚めかい」


肩まで伸びた紫色の髪、切れ長の目が妖艶に輝く。



鞘に手をかけようとするが──、そこにあるはずの剣がない。



「待って待って、あたしは君と戦う気はないよ」


「え?」


「あたしが、君のこと助けたんだよ」


一体どういうことだ? 魔族が俺を? 


「いやー、たまたま君のこと見つけてさ、すぐに流行り病だって気づいたよ」


「流行り病?」


「知らないのかい? 魔力が正常に機能しなくなる病だよ」


そんな物騒なものが流行っているのか……まさか。


「俺も……それにかかったってわけか」


王国でそんな噂は聞かなかったけどな……



「大変だったよー。君の魔力回路壊れてたから、交換しちゃったよ」


「は?」


「人間の魔力回路とかよく分からないし、魔族のものにしちゃった」



てへっと、舌を出して笑う悪魔。



掛け布団を跳ねのけ、鏡を覗き込む。



「まじか……」」


頭には、彼女と同じような角が生えていた。


山羊のような角。


「あたしとお揃いだね」


「はあ……」



ベットに戻り、そのまま掛け布団を被る。



「やっぱり、あのまま放置した方が良かったかい」



「それは……」



「私はカミン。しばらくここにいてもいいさ、ゆっくりしていきな。」



「ユーリ」


ぼそり、とつぶやく。


「よろしくね、ユーリ」




カミンは、そう言い残すと静かに部屋を出ていった。





改めて自分の姿と向き合う。


もう、人間ではなくなってしまった。


王国に戻って、騎士を続けるのは無理だ。



ロレーナは、この姿を見てなんて言うのかな。


俺は一体どうするべきなんだろう。


自身の髪に咲いた髪飾りを触る。



もう会えないのか?


いいや、何があっても迎えに行くんだ。待ってるさ、必ず。







 「ロレーナ、具合はどうだ」


左足が少し沈み込む。お父さんの温もりが伝ってくる。


「まだ良くなる気配はなさそうね……」



元気だとアピールするために、笑顔を作ってみる。


上手くできなかった気がした。



「最近、王国にも流行り病が来てしまった。診てくれる医者を探しているがなかなか見つからないんだ。もう少しだけ待ってくれロレーナ」



「ええ、分かったわ。お父さん」



「すまない」



「気にしないで」



父は、笑ってみせてくれたがどこか弱々しさが残る笑顔だった。



「今まですまなかった、もっとロレーナがやりたい事を尊重してやるべきだったのかもしれない」


「急にどうしたのよ」


「……いや、なんでもない」


「余計気になるじゃない」


最近、父はずっと暗い顔をしている。


何かあったのだろうかしら。



「おやすみ、ロレーナ」


「おやすみ、お父さん」



ドアが静かに閉まる。


静寂が、耳につく。


少し寂しくなった私は、花瓶に目をやる。



花瓶には、黄色い花が何本か生けられている。


あの日、彼がくれた花だ。枯れてしまう度に、私が生け直している。



あれから、2年。まともに彼と会っていない。


今、何をしているのかしら。



短くため息をもらす。


「元気になったら、また二人で教会でも行きたいわね」



ベットから降り、丁寧に生けられた花に手を伸ばす。


脳裏に、教会の庭が浮かび上がる。


そして。ユーリと過ごした日々も。


思い出すだけで、胸が暖かく、締め付けられる。



会いたいなあ……



「お嬢様、夕食の時間でございます」


「今行くわ」



少しだけ、足取りが重い。倦怠感と言うほどでもないのだけれど……


「ごめんなさい、先に行って頂いて大丈夫よ」


「いいえ、付き添いますよ」


「ありがとう」



視界が回り始める、足取りがおぼつかない。


一歩進めたつもりなのに、前に進まない。


「お嬢様!」


「はあ……はあ……」


足だけではなく、全身が重くなる。


歩くことすらままならない。そんなにひ弱な体ではないと思っていたのだけれど……



視界が暗転する、使用人の声が遠く響いていく……









「おーい、この薪割っておいてくれないかい」



「ああ、いいよ」



しばらく、カミンの家にお世話になっている。


王国に帰る手もあるが、魔族であることを隠し通すのは難しいだろう。


バレた瞬間、聖騎士が飛んできて真っ二つにされそうだ。




斧を振り下ろしながら考える。


王国で暮らせるようにする方法を。



「そういえばさあー、王国にも流行り病が入り込んだって聞いたよ」


カミンが遠くから俺を眺める。


「は!? それはまずいな」


斧で掠った風圧で、薪が倒れた。


「いいじゃないか、あっさりと入れるかもしれないね」


「いろいろ取りにいきたいものがあるしな、行ってこようかな」



なにより、ロレーナが心配だ。



「そうそう、行くなら一つ教えることがあるんだった」



「なに?」



「あたしが、どうやってユーリの魔力回路変えたのか教えてなかったじゃないか」



「ああ」



「ユーリも、できるんだよ」



「え!?」



俺は付与魔法しか使えないはずだったが……



「魔族になったことで、魔力量もだいぶ増えたのさ。教えるからこっち来な」



カミンのもとへ歩きだす。


もう、あの重だるさは感じられない。むしろ人間の時より軽い。



「じゃあ、教えるよ」



体がカミンのもとへ抱き寄せられる。


「ちょっと」


「私の魔力回路の場所、わかるかい?」



カミンの体へ意識を集中する。


全身に血管のように張り巡っている魔力の存在、それは、心臓部を起点として巡っている。




「ああ、わかるよ」


「やるねえ、後は簡単さ。その心臓部に自分の魔力を注ぎこむのさ。人間の魔力を消しきったら魔族にできるよ」


「なるほど」



こうやって俺を魔族にしたのか。


もしあの時知っていれば、一人くらい救えたかもな。



「じゃあ、行ってくるよ」


「行ってらっしゃい」



思い切り手を振るカミン。


苦笑いしながら俺も手を振り返す。



王国まではそう遠くはない。


無事でいてくれ……ロレーナ。



足に魔法を付与し、土埃を高く上げながら王国へと飛んだ。










 辺りはすっかり暗くなっていた。


行商人の荷車に忍び込んてから、どれくらいだろうか。



フードを深く被り、地味な仮面を着け、素性がバレないようにした。


聖騎士団に見つかった時のことを考えたら……


ロレーナに会うことすら叶わなくなるだろう。



「いんやあー、この頃大変ですねえー」


「全くですよ、いつ病気にかかるか分からないですよ」



がっははと逞しい笑い声が聞こえてくる。


「門番、お疲れ様です。ではこれで」


「感謝であります」




先頭で、行商人たちが話込んでいる。


先ほどの笑い声は、門番か。ということは国内に入ったはず。



走行音と共に、体が揺れる。


馬の足音が止まり、車体の揺れも止まった。



「いんやあー、どうもどうも」



行商人が運転席から降り、誰かと話し始める。


「聞きましたよ、最近はどこも病が──」



足音を立てないように静かに動き出す。



「確か、教会の近くに住まれている令嬢の方達も、危険な状態とお伺いしましたよ」


「ああ、そうでしたか、王家の方々にも病にかかられた方がいるだとか」




教会の近く!?


驚きで声を上げそうになったが、ぐっと堪える。


もしかしたら、ロレーナかもしれない……


はやる気持ちを抑えて、その場を後にした。





確かロレーナの家は……



教会を抜け、さらに奥地に行くと華やかな住宅がいくつかある。



昔、一度だけ来た事がある気がする……



昔の記憶を頼りに歩き出す。




あった。



白を基調とした、レンガ造りの家。


正面から入るわけにも行かないため、辺りを伺う。


花壇には黄色い花がいくつも植えられていた。他の花壇には色とりどりの花が咲き誇っている。


誰も周りにはいない。


ロレーナの部屋は2階だったはず。


足に付与魔法をかけ、軽く飛び上がる。



ベットに横たわり、微動だにしない彼女が目に飛び込む。



ロレーナ!









「ロレーナ!」



窓辺からロレーナに声をかける。



「誰……?」



重々しく体を起こす。金色の髪がさらりと流れ落ちる。



その目は焦点を失い、はっきりと俺を捉えていないように見える。



「死神かしら……本当に死んでしまうのね」



投げ出すようにつぶやき、彼女は続ける。



「最後にもう一度だけ会いたいわ……ユーリ」



「その花、ずっと持っていてくれたんだね」



「え……」



ベットの横に生けられた黄色い花に顔を向ける。


フードが脱ぎ払われ、形が崩れてゆく。


月明かりがまばゆく満ちていく。


「その角、どうしたの?」


その瞳には、警戒の色が灯っている。



「命を救われた結果がこれでさ……」



「そう……私ね、ずっと会いたい人がいるの」


「うん、俺にもいるよ」


「でも、会えなくなってしまったの。ずっと待っているの」


「うん」


青く澄んだ目が、髪飾りを捉える。


「昔、女の子に怪我をさせたことがあったんだ」


「それで……?」


「俺……そうしたらいいか分からず逃げちゃってさ、酷いやつだよな」



過去を見るように花瓶の花を眺める。



「それは……何か理由があったんだわ……」



手を握り、こちらを真っ直ぐ見つめ通す青い目。



「そのあと、その子が好きそうな花を渡したんだ。すごく喜んでくれてさ、俺も舞い上がりそうな気持ちだった」



彼女は長い髪を垂らし、うつむく。



「次の日、その子がお礼をしてくれたんだ」


「それは……白い花かしら」



少し震えた声に釣られて、俺の声も潤んでしまいそうになる。



「ああ。綺麗な髪飾りだった。今も身に着けるくらいお気に入りさ」



仮面に手をかけ、ゆっくりと降ろす。


やっと、会えたね。



「迎えに来たよ、ロレーナ」



彼女の頬に、一筋の涙が伝い落ちる。


「ユーリ……」


「待たせてごめんね」



そっと、抱き寄せる。


優しい温もりが体に伝ってゆく。


「もう離さないでほしいわ……」


「ああ」



背中に巻かれた腕が、急に解かれる。


「ロレーナ?」


「ごめんなさい、もう力が……」



まさか症状の進行がここまで進んでいるとは。


やるしかないのか……


この方法しか知らない自分が憎い。



抱き寄せたまま、彼女の魔力回路に集中する。



「大丈夫だよ、すぐ終わるから」




徐々に俺の魔力が、彼女の回路に流れこんでいく……










「……い……おーい起きてー」



下がりたがる瞼をこじ開ける。


頭に山羊のような角を小さくはやしたロレーナがいた。



「……おはよう、その……」


「気にしてないわ、私のためにやってくれたんだから」



「そうか」



あの後、カミンの家に一度避難した。


あのまま放置しておくわけにもいかない。



少し気まずくて外に出る。


背後から、軽やかな足音が近づいてくる。


「どこ行くのよ」


「外の空気が吸いたくなったんだ」


「ふーん」



本当にこれで良かったのか。

少しだけ考えてしまう。


「もしかして、私を魔族にしたことまだ気にしてるの?」


「黙ってやったからね……」


僕が初めて魔族になった時、絶望した。


もう会えなくなるんじゃないかって。



「ねえ、結婚しようよ」


「え?」


驚いて振り向く。


目を細め、頬を赤らめたロレーナと目が合う。


「約束……でしょ?」



僕の髪飾りを覗き込むように見つめる。



「もちろん……結婚しよう」


「うん……ありがとう」




長く艶やかなまつ毛が降りてゆく。

自然と唇が近づき合う。



唇に触れた瞬間、ローレナとの記憶がよみがえる。


無意識に涙がとめどなく溢れる。


柔らかな花の香りを、懐で暖かく抱きとめた。


「愛してる」


「愛してるわ」


これからは、ずっと一緒だ。


何があっても、僕が守り抜いてみせる。









































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