2稿目
「タマル、起きなさい!朝ご飯が冷めますよ。」
聞きなれない母親の声が自分を起こす。
生前の名前は渡辺 大であったのに、今朝からはタマル・アガードという名前になったようだ。
転生時に、タマル・アガードの記憶が、まるで映画でも観るかのように頭に流れてきたので、最低限の知識はある。
この世界は、転生ものでよくある、剣と魔法の世界のようだ。
前世でも、たまの息抜きには漫画喫茶に行く事が好きだったため、この手の知識はある程度ある。
とはいえ、タマル・アガードが剣や魔法を使えるのかというと、現状はそうではない。
タマルの家は平民の家系であり、魔法が使えるのは貴族階級が多い。
というのも、魔法は遺伝でのみ継承され、身体に魔力が宿るためには、親も魔力が宿る身体でなければならない。
身体、というか、心臓の造りに、魔力生成の機構が備わるらしい。
そして、希少な魔力持ちは、そのまま国力となるため、貴族階級となる仕組みである。
剣についても同様で、軍事力である戦闘職は、冒険者以外は生産性が無いため、国力として国からの手当てで生活をしている。
よって、貴族階級が与えられ、手当てを受け取れる家系でしか、戦闘職としての教育は受けれないわけだ。
もちろん、先に触れた冒険者という道もある。
剣と魔法のファンタジー世界のため、モンスターが存在し、それらによる被害が一定数出ているからだ。
基本は貴族の戦闘家系が、国からの命令で対応するのだが、国の対応に漏れるモンスター被害が存在する。
それらに対応すべく、平民間で討伐依頼を出し、腕に覚えのあるものがその依頼を受ける。
冒険者とギルドである。
冒険者は、基本我流で武器を振るうか、貴族と仲良くなり多少手ほどきを受けた物がほとんどであり、魔法使いなどはほとんどいない。
貴族以外の魔法使いは、ほとんどが貴族の外嫡子であり、隠される事実であるからだ。
そして、冒険者は常に死と隣り合わせで、日銭も安定しない。
農家の平民が安全な生活を捨ててまでなりたい職業では無かった。
話はそれたが、平民のタマルには、剣も魔法も疎遠な物であった。
そんな10歳までのタマルの記憶を観て、現代日本を生きてきた自分は、やはり安全な生活を求めるのである。