四、合わせ鏡の正体
「クロエさんを消したのは、あなたですね」
吟遊詩人の言葉に、あたしは笑い出した。
「ちょっとやめてよ!馬鹿なこと言わないでよ」
「正しくは、クロエさんに依頼され、クロエさんが消える手助けをした、ということだと思います」
男は、あたしの持っていた魔道具を指して言った。
「昨日私は客席に、この魔道具が一台設置されているのを見ました。その時、おかしいな、と思ったんです。いくら舞台を照らす大切な明かりだとはいえ、観客の目線の高さに設置されていたのです。そんなものが客席にあれば、どう考えても観客の邪魔になります」
(こんなことなら、昨日の昼間、気軽にこんな奴を誘うんじゃなかった)
「そして、邪魔になってまで設置しているにも関わらず、その魔道具はずっと使われる事はなかった。クロエさんの出番が来るまでは」
(もっと言うならば、偵察に行った時、話しかけるんじゃなかった)
「おそらくですが、ミミさんは舞台の奥、例の鏡の後ろ側で、同じような照明用の魔道具を持って待機していたのではないでしょうか。
クロエさんが踊りの最中に、手鏡を取り出して覗き込んだのは、演出でもなければ、合わせ鏡をするためでもない。舞台後ろに控えているあなたの合図を確認するため。そうではないですか?」
鏡の元、真実が照らされていく。
本当の姿が、映し出されてしまう。
「前方と後方、同じ高さから強い光を当てると、その間にいた人が蒸発してように消えて見えることがあります。あなたたちは、この錯覚現象を利用しました。客席側と、鏡の後ろから、観客の目線の高さに合わせて魔道具の光を交差させることで、まるでクロエさんが、鏡の中に消えたように見せたのです」
「何のために?」
あたしはたまらず、言い返した。
「なんでそんな回りくどいやり方で、消えないといけないの?」
「それは、マダム・バタフライ一座の本当の姿が関係しているのではないでしょうか」
あたしはそれを聞いて、力なくその場に座り込んだ。
「そこまで、わかっちゃったんだ」
まるで鏡みたいな奴だ。
あたしたちが、騙して、惑わして、取り繕ったにも関わらず、真実の姿を映し出してしまう。
観念して、あたしは小さく答えた。
「その通りだよ。旅の一座っていうのは仮の姿。
本当はあたしたちは、盗賊の一味なんだ」