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異世界を渡る吟遊詩人は怪談が専門です。  作者: 輪ニ
笑う亡霊の絵画
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三、絵から抜け出す亡霊

 この病院に入院していた、ある女性の話だ。

 病室に画家が訪ねて来て言った。

「ぜひ、あなたの絵を描かせてください」と。

 勉強のためなので、お代はいらないと言われ、彼女は快く承知した。


 出来上がった絵は見事な出来栄えだった。

「よろしければ、差し上げます」と言われ、彼女は喜んで画家に礼を伝えた。

 ふと、絵の隅に、小さく人影のようなものが書き込まれている事に気がついた。

「これはなんでしょう」

 彼女がそう尋ねたところ

「私のサインのようなものです」と画家は答えた。

 よく見ると、その人影は長い髪の女性のようだった。

 

 その日の夜、彼女はベッドの上で目を覚ました。

 頭がぼんやりとして、身体が上手く動かせない。

 どうしてだろうと思っていると、足元に女が立っていた。

 若い女だった。

 面会時間はとうに終わっているし、病院の職員ではない。


——亡霊だ。


 咄嗟にそう思った。

 痩せ細った身体に、汚れた服を身にまとっている。

 檜皮色の髪は、手入れされずに伸ばしっぱなしのようだった。

 落ち窪んだ目がギラギラと光り、口元は歪んだような笑みを浮かべていた。

 この世のものとは思えなかった。


 恐ろしくなって叫ぼうとしたが、声が出ない。

 女の亡霊が、少しずつこちらに近づいてくる。

 その細い指が顔に近づいたところで妙な匂いが鼻をついた。

 このまま殺される、そう思って目を瞑った時


——シャキン。


 そんな音がしたそうだ。

 そのまま、亡霊の気配は消えてしまった。


 朝になって目を覚まし、妙な夢を見たものだと女性は思ったらしい。

 だが、鏡を見て驚いたそうだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 気味が悪く、人を呼ぼうとしたところで、ふと、画家から受け取った絵に目をやった。

 ベッドの脇に飾った女性の似顔絵。

 にっこりと笑う彼女の肩越しに描かれている『サインのようなもの』だという髪の長い女の人影。

 女性は思わず悲鳴を上げた。


 その人影は、昨夜現れた亡霊にそっくりだったのだ。



   ♢   ♢   ♢



「それ……実際あった話……なんだよね?」

 ミミはごくりと唾を飲み込み、話し終えたカミール医師に恐る恐る尋ねた。

 カミールは神妙な顔で

「そうだ。もう退院してしまったが、実際に『亡霊』に髪を切られた女性から聞いた話だ」

と答えた。


「うわーっ先生、あたし退院する。無理だって」

 ミミがギャンギャンと喚く。

「眠っている間に髪を切られてるなんて、気持ち悪いよ。そんな所でおちおち寝れないって。ね、ね、切られる髪の毛ってどのくらいの長さなの?」

 カミールは「だいたいこのくらいの長さだ」と親指と人差し指を目一杯広げて長さを示す。

「先生、どう思いますぅ?」

 ユーリも気味悪げに腕をさすっている。


 吟遊詩人は、何かを思案している様子だ。

「カミールさん、亡霊の被害は何件起きているのでしょう」

「五件だな」とカミールは答えた。

「一番最近だといつですか?」

「確か、六日前だったはずだ」

「亡霊の現れる間隔はどのくらいなのでしょうか」

 吟遊詩人は矢継ぎ早に質問を重ねる。

「最初は三、四日に一度ぐらいだったが、だんだんと一日置きぐらいに騒ぎが起こるようになったな」

「なるほど。そうすると被害の間隔が短くなって、パタリと止んだ、というわけですね」


 吟遊詩人とカミールの話を聞いていたユーリが、口を挟む。

「じゃあ、亡霊事件は急に止まった、ということですかぁ?」

「いや、確かにここ数日は、亡霊が出たなんて報告は聞いてないが、止まったと言い切っていいものかは……」

 カミール医師はそう言ってため息をついた。

「被害に遭われたのは、どんな方でしょう」

 再び、吟遊詩人が質問したが、カミールは首を振った。

「それが、いまいち共通点が見えない」

「共通点がない?」

「男が二人、女が三人。年齢もまちまちだ」

「なるほど……ちなみに職業は?」

「職業?」

 カミールは、少し考えてから立ち上がった。

「そこまではちょっと把握してないな。今確認して来よう」

 彼女はそう言って、病室から出ていった。


 ミミが弾けたように騒ぎ出す。

「絵から亡霊が飛び出してくるなんて怖すぎるよ。この病院、あっちこっちに絵が飾ってあるでしょ」

「あぁ、確かに。入り口にも大きな絵が飾ってありましたねぇ」

 ユーリも顔をしかめながら頷く。

「なんかこの辺りで有名な画家の絵らしいんだけどさ。あんな話聞いちゃったら、額縁見るだけでぞっとするよ」

 そう言ってミミは小さく身震いをする。

「ねぇ、先生。その亡霊はやっぱり絵から出てきたのかな?」

「なんで髪の毛を切るんでしょう。恨み……とかですかねぇ?」

 ミミとユーリの言葉に、吟遊詩人は「どうでしょうか」と曖昧に答える。

 病室にしばし沈黙がおりた。

 

「そういえば」とミミがユーリに目配せをした。

「ねぇ、カイエンは? どこ行っちゃったの?」

 ユーリが意味深な顔で答える。

「それが、さっきから戻って来ないんですよね。どこで何をしてるんですかねぇ」

「ふーん。なーんか怪しいな」


 そこまで言うと、二人は顔を見合わせて見事にハモる。

「まさか……女?」


「お二人とも、その辺で」

 吟遊詩人は苦笑いを浮かべて二人をたしなめる。

「カイエンさんなら、病院の方に頼まれごとをしたとかで、そちらに行ってますよ。心配しなくても大丈夫ですから」

「なーんだ、つまらん。からかってやろうと思ったのに」

「そんな事したら、睨まれますよぅ」

 少女たちはキャッキャと楽しげに笑う。


 そんな話をしばらく続けていると、カミール医師が慌てて戻って来た。


「職業の件だが、妙なことがわかった。髪を切られたのは、召喚士が二名に黒魔道士が三名……皆、魔力の高い患者ばかりだ」


「魔力の高い患者? なんだか職業が偏ってるね」

「そっかぁ……ほら、回復術師や白魔道士の方は、自分で治療出来ますからぁ。だから病院には来ないんじゃないですかぁ?」

「ああ、なるほどね。病院内で回復術を使えるのは、()()()()()()()()()()()()


 吟遊詩人はミミとユーリの会話を聞き、ふと顔を上げた。


「カミールさん、他にも調べて頂きたい事があります」

「調べてほしい事?」


 吟遊詩人の男は、眉を寄せ、深刻そうな眼差しで言った。


「この病院で、行方不明になっている医師はいませんか? 髪が長く魔力の高い——おそらく女性です。もしかしたらその方は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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