三、笛吹きの目覚め
吟遊詩人達の応対をデイジーに任せ、ぼくはカメリアとジニアを連れて屋根裏部屋に向かった。
彼女たちメイドの居室は本来は一階だ。
ここに移り住んだ時から、彼女たちは一階にある使用人用の部屋を、一人一部屋を使っている。使用人用のシャワー室や、洗濯室も同じく一階にある。護衛用の部屋まで用意されているけれど、そこは流石に使われていない。
先ほどいた二階には、応接間のほかに、客室、厨房、食料庫、執事や料理人の部屋(ここも部屋があるだけで、この屋敷には執事も料理人もいないけれど)、ダイニングホールがある。
ひとりぼっちで食べるディナーなんて嫌だとぼくがゴネたので、今はメイドの皆が、交代制で一緒に食事をとってくれる。
三階にあるのは、ぼくの部屋や図書室、バスルーム。そしてお気に入りの広いサンルームだ。家庭教師をしてくれているジニアは、ぼくが勉強に飽きると「内緒ですよ」とサンルームに連れて来てくれる。
そう言われるたびにいつも思う。誰に内緒にするんだろう、と。メイドの皆は、ぼくが少しぐらい息抜きしたって、誰も何も言わないのに。
その真面目さがジニアらしい所だ。
ぼくとカメリアは歩みを止めず、階段を登って行く。
ユーリがいるのはさらに上の屋根裏部屋だ。
彼女はずっとそこで生活していた。
(そういえば、どうしてユーリは屋根裏にいるんだっけ。部屋はちゃんと一階にあるはずなのに)
屋根裏へ行くには、三階奥の扉を開け階段を登る。部屋の前につくと、扉の中から泣き叫ぶような声が聞こえてきた。
「そんな……うそ……!」
ユーリの声だ。
階段を登っていくと、ユーリが自分の髪の毛を鷲掴みにしてうめいている。
「どうした? ユーリ、具合が悪いの?」
カメリアが手を差し伸べると、ユーリはその手を払いのけた。
「笛を……私の笛はどこ?」
青白い顔をしたユーリはフラフラと部屋を彷徨い、出窓に置かれた笛を見つけると、飛びついた。
獲物を見つけた獣のようなその様子に、ぼくは、思わず言葉を失ってしまった。
彼女は、息を大きく吸うとそのまま笛を吹き始めた。
彼女の大切にしている横笛。
美しい音色が響き渡る。
金色の髪にマゼンダの瞳の彼女が笛を吹いている姿は、まるで精霊のようだった。いつもならば。
今のユーリは、普段の姿とはかけ離れている。長い髪を振り乱し、目を爛々と光らせていて、鬼気迫るようだった。
まるで別人が彼女の中に入り込んでしまったようだ。
(一体、ユーリになにが……)
「アイビー様、ここは私が」
カメリアはぼくにそう言い、ジニアに目配せを送った。
ジニアは優しく「アイビー様」と背中を押す。
カメリアなら任せても大丈夫かもしれない。
この小さな屋敷の外にはなぜか騎士が使うような訓練場があり、武器も防具も揃っていた。
なので、ぼくは毎日カメリアに稽古をつけてもらっている。すぐに体力がつきて倒れてしまうぼくを、カメリアは軽々と持ち上げて屋敷まで運んでくれるのだ。
ユーリが少し暴れたぐらいでは、カメリアはびくともしないだろう。
廊下に出て、部屋から遠ざかっても、ユーリの笛の音が止むことはなかった。




