一、孤島の事件
「この島で起きた一連の事件。ユーリさん、あなたはその犯人を知っていますね」
屋根裏に集まったぼくらを前に、吟遊詩人はそう言った。
黒い髪に黒い瞳、黒い服に身を包んだ彼は、ユーリをじっと見つめている。
「待って下さい。ユーリが犯人だとでも言うんですか? そんなわけない! だって、殺人があった時、ユーリはこの部屋でずっと笛を吹き続けていたんですよ」
ぼくは必死になって言った。
「みんな聞いていたじゃないですか。屋敷に響き渡る、彼女の笛の音。あれは……あの音色は、ユーリにしか出せないはずだ」
他の二人に、同意を求めて視線を向けた。
けれど、逆に哀れむような眼差しで見返されてしまう。
わかっている。笛の音がなんだと言うんだ。そんな事どうとでも出来る。彼女がずっと屋根裏部屋にいた証明になんてならない。
彼女が、殺人を犯してない証明になんてならない。
「アイビーさん」
吟遊詩人のその黒い瞳は、憂いを帯びているようだった。
「あなたはご実家の後継者争いのせいで命を狙われていたのです。それなのに、この島にはあなた以外に、メイドの女性が四人だけしかいない。なぜだと思いますか?」
「そんなの……居場所がバレないように隠れるためだよ。出来るだけ少ない人数で——」
「たった四人ですよ?」
吟遊詩人は、そう言って首を振った。
「少なすぎる、そう思いませんでしたか?」
そんなことはない。
少なくなんてない。ぼくは十分満たされていた。
ぼくと、デイジーとカメリアにジニア、そしてユーリ。
この小さな屋敷で、ぼくはとても幸せで、こんな毎日がずっと続くといいと思っていて——。
ドレスを握りしめた自分の手が小刻みに震える。
吟遊詩人の言葉に反論しなければ——そうしなければ、まるでユーリが、みんなと一緒にどこかへ消えてしまうような気がする。
笛吹き男が、子ども達を連れ去ってしまったように。
ぼくは、一心に笛を奏でているユーリのそばに跪いた。ドレスの裾がふわりと広がる。
「お願い。ユーリ……一人にしないで」
彼女にそう言い縋った。
頬を涙が伝う。
編んでもらった髪の毛もボサボサになってしまった。直してもらいたくても、それはもう叶わない。
ユーリは、こんな状況でも、部屋の出窓に腰をかけ、ずっと笛を吹き続けている。
窓は開け放たれ、この小さな島がすっかり見渡せる。
この幸せな箱庭の崩壊は、いつから始まったんだろう。
最初の事件の時か、吟遊詩人たちがこの島を訪れた時か、それとも。
たぶん始まりは、ユーリが屋敷の階段を踏み外し、転落した時だろう。
彼女が意識を失い、屋敷のベッドで眠っているとき、彼ら吟遊詩人たちがこの島にやってきたのだ。
ぼくは、ユーリの長い髪が風にたなびくのを見つめる。
彼女の髪が金色の糸のようにキラキラと光るのを見ながら、今までの事を思い返した。