三、空中を浮遊する魔道具
僕は扉をあけた。
そこには、日に焼けた大柄な女性が立っていた。
「どうも、アリウムさん」
「コワニーさん。どうされました」
彼女は、引いてきた荷車を指して「強風にあおられちまってさ」と言った。
外に出て荷車の荷台を見てみると、砂埃にまみれた小型の魔道具が載っている。僕が作って、コワニーさんに貸した物だ。
「落下してから動きが悪くなったんだ。ちょっと見てもらえるかい」
「もちろんいいですよ」
僕が魔道具の羽根部分を調整していると、ミミが覗きに来た。
「おや、ずいぶん可愛らしいお客さんだね」
「こちらはミミさんです。旅の吟遊詩人の方ですよ」
「どうも、ミミです」
ミミがぺこりとお辞儀をする。
「ああ、村で噂になってたよ。ずいぶん変わった連中が来たって。あたしはコワニー。この村で農作物を育てているんだ」
調整が終わり、スイッチを入れると魔道具は羽音を立てて浮かび上がった。
「それも魔道具? 何が出来るの?」
ミミは興味津々だ。いつのまにか、二人の男も後ろで覗いている。
「これは、風魔法を使った魔道具です。鳥のように空中を浮遊して、畑に種をまくことが出来ます」
「種をまく? この魔道具が?」
驚いたミミに、コワニーが自慢げに言った。
「そうさ。アリウムさんの魔道具は本当にすごいんだ。この人が来てから、村は大助かりさ」
彼女の言葉に僕は恥ずかしくなって、魔道具を押しつけるようにして渡した。
「じゃあ、また何かあれば来て下さい」
「ああ、そうそう。いつもお世話になってるからさ。よかったらこれ、食べてくれよ」
コワニーは荷台に載っていたカゴを渡してきた。中には彼女の畑で採れたらしき作物が山盛りに入っていた。
「アリウムさんは、錬金術士の腕は一流だけど、作物作りはまだまだだからね」
そう言って彼女は豪快に笑った。
「他にも、何かしてほしいこととかないかい?」
コワニーさんにそう聞かれ、僕はある事を思いついた。
(ダメ元でお願いしてみるか)
「コワニーさん、もしよければなんですが、使ってない荷車があったらお借りできませんか?」
「荷車かい? ああ、いいよ。採集に使うのかい?」
「そうなんです」
僕は毎日のように採集に出かけている。背中に背負ったカゴに入る量しか採れないのは、色々と不便だった。
荷車があると、格段に便利になる。
彼女の農場に使っていない荷車を取りに行く約束を取り付け、僕は何度もお礼を言って見送った。
コワニーさんが帰った後、「すみません、何度もお話を中断しちゃって」と三人に謝った。
吟遊詩人はにっこり笑って言った。
「アリウムさんは、とても慕われているんですね」
「村のみなさんがとてもいい人たちなんです。こうやって、誰かの役に立つ発明が出来るって、本当に嬉しいなって思います」
僕は少し気恥ずかしくなって、自分の足元を見ながら頭をかく。
「僕、子どもの頃英雄になりたかったんです」
敵を倒し、味方を助ける強き英雄。
「でも、魔力は人並みだし、どんなに頑張っても体力も腕力もつかなくて。僕には素質がなかったんです。錬金術師って職につくまでは、いてもいなくても変わらない平凡な人間で」
三人とも黙って僕の話を聞いてくれている。
「でも、この村では僕は必要されている。採集と実験と発明に明け暮れて、好きなように、自分らしく生きている僕を、ここのみんなは受け入れてくれた。それが、とても嬉しいんです」
吟遊詩人は、優しく言った。
「あなたは、立派な『英雄』ですよ」
また、涙が浮かんできて、必死に目を擦った。
「すいません。本当に、なんか。ああ、恥ずかしいな」
家の中に入ると、吟遊詩人は「さて」と言った。
「お話しする『怪談』ですが……ミミさんとカイエンさんは、そのまま聞いていて下さい」
村で見かけた時は、カイエンは演奏に加わり、ミミは舞を踊っていたが、このごった返した室内では、とてもじゃないが動けないだろう。
「アリウムさんにお聞かせするのは、魔物と戦った英雄の物語がいいかもしれませんね」
「英雄……ですか?」
「ええ。カイエンさん、私の楽器はありますか?」
仮面の男は、スッと吟遊詩人にトランクを差し出す。
吟遊詩人はそれを受け取りながら言った。
「ヒーローとモンスターの戦いの物語。『開けてはいけない扉』と言うお話です」




