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異世界を渡る吟遊詩人は怪談が専門です。  作者: 輪ニ
剥がせない仮面
22/89

四、潰された顔

 それは町の道端で。

 酒場の片隅で。

 屋台の店先で。

 ヒソヒソと、あたりを憚るように、広まっていった。

 ヒタヒタと、静かに着実に、広がっていった。

 目配せをし合い、耳をすまして、口を寄せ合い、人々は()()()()に熱狂した。


「なあ、あんた聞いたか」


「ああ、アスターの話しだろう」


「アスター? 殺されたあの?」


「そのアスターの死体だがな、ここだけの話、()()()()()()()()らしいんだ」


「顔が潰されていた?」


「それでな、路地で見つかったのはアスターの死体じゃなかったなんていう話があるんだよ」


「じゃあ、誰なんだ?」


「カイエンだよ。傭兵のカイエン」


「俺はカイエンがアスターを殺したって聞いたぞ」


「逆なんだよ逆。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」


「なんでまたそんなことを」


「お前まだ見てないのか?」


「何を?」


「仮面の男だよ。町のあちこちに現れている」


「気味の悪い仮面をつけていてさ。白い顔につりあがった目が描かれているんだ。モンスターみたいな耳もついている」


「カイエンは赤髪だろう? あの仮面の男は、アスターと同じ暗い茶髪をしていたらしいぜ」


「その仮面の男がどうしたんだ?」


「おい、お前ひょっとして吟遊詩人の『怪談』を聞いてないのか」


「いや、知らないね。なんだ? 『カイダン』って」


「それならこれから聞きに行こうぜ『楽奏亭』に来ているらしい」


「ああ、その方が話が早い」


「俺もそこで聞いた話なんだ」


 そうして、人々は『楽奏亭』に押し寄せた。

 皆、目をギラギラとさせていた。

 それは、真相に乗り遅れたくないという焦りか。

 誰が悪いのか白黒つけるべきだという正義感か。

 懲悪を理由に痛めつける獲物を探す嗜虐心か。


 舞台に黒づくめの男が現れ


——ベェェェン……


と、弦を弾くと、人々は気圧されたように皆口をつぐんだ。


「私の生まれ故郷では、怪しげで恐ろしい話を『怪談』と呼びました。光があるところに影ができるように、怪談は、いつ、どんな場所でも、どんな世界でも存在します」


——ベェェェン……

 

          シャン、シャンシャン——


 男の弾く弦に応えるように、少女が鈴を鳴らした。

 雰囲気にのまれ、観客は静まり返っている。


「皆さまお望みの、この話をしましょう。『剥がれない仮面』」



   ♢   ♢   ♢



 ある剣士の話です。

 仲間から、曰く付きの仮面を手渡されました。

 神獣の仮面です。

 それを被ると、神獣の力が手に入ると言われていました。

 彼は力を欲していたので、試しにその仮面をつけてみたのです。


 するとどうでしょう。

 仮面を被った剣士は、誰よりも速く、何よりも強く、モンスターに飛びかかり、薙ぎ倒し、軽やかに長剣を振り回しました。

 彼は神獣の力を得たのです。


 しかし、その仮面には術がかかっていました。

 どんなに力を込めても、仮面が外れないのです。

 そのうち、剣士は仮面に操られるようになりました。


 仮面は、より強いものとの戦いを望みました。

 そして、あろうことか仲間までも手にかけようとしたのです。


 仲間は彼を恐れました。

 そして仮面に操られた彼の元へ、傭兵を差し向けました。

 剣士を殺すよう依頼したのです。

 傭兵と対面した時、彼の心には深い憎しみが生まれました。


——なぜお前には顔がある。


 仮面に顔を奪われた彼は、傭兵の顔が憎くて憎くてたまりませんでした。

 その殺意は、仮面に操られたからではなく、剣士自身から湧き上がるものでした。

 彼は素早く傭兵の背後にまわり、脇腹に深く剣を突き立てたのです。


 傭兵が戻らないことを心配し、探しに来た仲間が、血まみれの死体をみつけました。


 それが傭兵だったのか、それとも剣士の彼だったのか、仲間にはわかりませんでした。


 死体は、顔を剥がれていたのです。


 その時、背後に気配を感じました。

 振り返って仲間が見たのは、返り血を浴びた、仮面の男でした。

 それが、仲間が見た最後の景色でした。


 それ以降、仮面をつけた男が町に現れるようになりました。

 捕まると、顔を奪われるそうです。


——顔を返せ。俺の顔を返せ。


 そう言って、顔を剥ぐと言われています。

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