表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を渡る吟遊詩人は怪談が専門です。  作者: 輪ニ
偽者と入れ代わる鏡
14/89

三、水鏡が知る真実

 初めにお姉様を見つけたのは庭師だった。

 早朝、薔薇の朝摘みに訪れ、池に浮かんでいるお姉様を発見したのだ。


 それからの騒動に、私はすっかり蚊帳の外に置かれた。

 お父様やルーカス義兄様には

「部屋でリリーと休んでいなさい」と言われるだけだった。

 メイドたちは皆「おいたわしいことで…」とガラス細工のように私を扱う。


 何が起こったのか、誰がどこまで知っているのか、聞き出すのは大変だった。


 ローズマリーお姉様は、深夜に庭園の散歩に出かけ、池を覗き込み、足を滑らせたのだろうとのことだった。

 池の冷たさに身体がショックを受け、あっという間に亡くなられたのだろうというのが、お医者様の見立てだそうだ。


(でも……)


 心につかえるものがあり、私は喪服のまま、リリーを誘って庭園に出ることにした。


 池のほとりに座り込み、しばらく水面をみつめる。

 こんなことになっても、ダリアお姉様は部屋に閉じこもっている。


 ある考えが、浮かんでは消え、また浮かんでは消えた。

 リリーは隣に座って、何も話しかけないでいてくれた。

 静かに水をたたえた池は、まるで鏡のようだった。


「リリー、みんな本当に、お姉様が事故で亡くなったと思っているかしら」


 水鏡に映った偽者の自分に、池に引きずり込まれたのかもしれない。



——ベェェェン……



 背後からあの楽器の音がして、私は勢いよく振り返った。


「あなた……まだいらっしゃったの」


 昨日、屋敷に招いた吟遊詩人の男だった。

 手に楽器を抱えている。

「申し訳ございません。お暇する機を逸しまして」


 この騒動だ。急に招かれた客人のことなど、皆忘れてしまっていたのだろう。

 吟遊詩人は、そのままこちらに近づき、膝をついた。


「この度はお悔やみ申し上げます」


「お気遣いありがとうございます」


 風が頬を撫でる。

 異質なはずの彼の存在が、昨夜から波立っている心を、どういうわけか落ち着かせてくれる。


「そうだわ、ローズマリーお姉様が、『ダリアお姉様の鏡を見せる』なんて適当なことを申し上げたのでしたね」


「一晩起きておりましたが、きっとお忘れになっているのだとばかり……まさかこのようなことになろうとは……」


 そう言って、彼は黙った。


 私は「ご出身はどちらですの」と、思わず訊ねた。


 吟遊詩人の答えは曖昧だった。


「遠い遠い所です。帰れないほど、遠い場所です」


「そんなに長い間、お二人だけで旅をなさっているのですか?」


 吟遊詩人は、いえいえ、と手を振った。


「連れができたのは、つい最近です。たまたま縁があって、踊り子だった子を引き取ることになりまして」


「まあ、そうでしたの?」


 吟遊詩人は、苦笑いをしながら


「連絡もせず宿に帰らなかったので、ヘソを曲げているかもしれませんね」


と言った。


「あら、ではすぐにいかなくてはなりませんね」


 リリーが何も言わず、じっと私を見つめてきた。

 彼女が言いたいことはわかる。

 全ては行動するかどうか。

 リリーだけが私の味方だ。


「ねえ、あの……ローズマリーお姉様のことだけれど」


 ええ、と男は頷く。


「少し…聞いて頂きたい話がございますの」


 池の水面が、ポチャンと音を立てた。


「私……ローズマリーお姉様は殺されたと思っていますの」


 波紋の広がる水鏡を横目に、私は一息に言った。




「殺したのは、私たちのお姉様、当主ダリア=チェスターです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ