白い雪だるま
「第3回 小説家になろうラジオ大賞」応募作品
──だれか、わけてください。ぼくにも、いろを…。
季節外れの大雪は二日間降り続いた。そして三日目の朝。空の青と雪の白、世界はその二色だけで構成されているみたいだった。
公園の端のブナの木の下。一体の雪だるまが作られていた。
サッカーボールを二つ重ねた位の大きさで、腕に見立てた木の枝が二本。目と鼻は石、口は小さな赤い実が並べられていた。
隣にいた私は「こんにちは」と伺いつつ声を掛けた。
すると「こんにちは?」と、こちらに目を向け──正確には目は動かないからそんな気配を感じ──ながら、言葉が返ってきた。
「自分の事が分かる?」
「ぼくは、ゆき、だよ」シンプルなその答えに私は少し付け足した。
「雪は雪でも、人が作った雪の人形。雪だるまって言うのよ」
「ぼく…ゆきだるま!」
「そうよ。あなたがここにいる間は、私が話し相手になってあげるわ」そう言うと、嬉しそうに「うん!」と言葉が返ってきた。
それから、彼のたどたどしくも楽しそうな言葉に言葉を返し続けた。
「ここは、どこなの」──『公園』子供が遊ぶ所よ
「ぼくは、どうやって、できたの」──小さい雪の塊を転がしながら作られたの
「それじゃあ、めがまわりそうだね」──ふふふっ、そうね
「ぼく、どんなかおしてる」──とっても、可愛い顔よ
そんな穏やかな会話に終わりが来たのは唐突だった。けれど、それはどうしようもなく分かっていた事でもあった。
昨日とはうって変わり、昼過ぎから気温は上昇していき、それに比例するように雪もどんどん溶けていた。
「あれ、からだが、へん」
左右の木の枝。目と鼻の石。口の赤い実が一つ、また一つと落ちていく。
「もう、おわかれ、なの」
寂しそうな彼の言葉に「そうみたい」と返した。
「また、あえる?」もう崩れかけの彼が言った。
その質問に「会えるよ」とは返せず「ここで待っているわ」と答えた。
すると「ありがとう。いまも、やさしい、ぼくのともだち」そう言い終えると、雪だるまは地面に崩れ落ちていった。
「来年の雪の降る頃、また新しい花を咲かせて待っているわ」溶けかけの雪に、私はそう呟やいた。
私は雪が大好きなの。私の白を分けたお返しに、冬の間も咲いていられるよう守ってくれているのだから。
公園の端のブナの木の下。四月の暖かい風に吹かれて、スノードロップは揺れていた。
スノードロップに纏わる神話が好きで、それに因んだ話にしたいと思い、今回書いてみました。