コント:酒場にて

場面：酒場

ボケ＝マスター

ツッコミ＝客

ツッコミ「コンバンワ」

ボケ「いらっしゃい」

ツッコミ客、席につく。

ボケ「お客さん、この辺りじゃ見ない顔だね」

ツッコミ「そうかあ？ おれ、この街１０年ぐらい住んでるけど」

ボケ「ごまかしてもダメですよ。こう見えてもわたし、昨日引っ越してきたんです」

ツッコミ「じゃあ見ない顔はおまえじゃないか。なにがこう見えてもだよ。

それより、その棚の、そこそこ、ワイルドターキーをロックで」

ボケ「お客さん、ウチは日本酒専門店なんですよ」

ツッコミ「じゃあ、棚にある瓶はなんだよ。全部洋酒じゃないか」

ボケ「日本酒の一升瓶を棚に並べてあるのってダサくないスか？」

ツッコミ「どういうポリシーだよ！

じゃ、じゃあそのワイルドターキーの瓶にはなにが入ってるの？」

ボケマスター、たっぷり考えて……

ボケ「……愛」

ツッコミ「知らねえよ！ フツーに酒出せよ！」

ボケ「このジョークはサービスです」

ツッコミ「いらねえよ、そんなサービス。で、ホントに中味はなんなの？」

ボケ「それは……」

ツッコミ「また愛とかぬかしたらぶっ殺すぞ、この野郎」

ボケ「美少年です」

ツッコミ「あー、熊本のお酒の。それでいいや。それちょうだい」

ボケ「やっぱりお客さんもそっちの線ですか？」

ツッコミ「なんだよ、そっちの線て？」

ボケ「好きなんでしょ、ジャニーズ」

ツッコミ「そっちじゃねえよ。酒の趣味とそっちの趣味はちげーよ」

ボケマスター、ツッコミ客のグラスに注ぐ。

ボケ「さあさ、ぐいっといってください、ぐいっと」

ツッコミ「まあ、日本酒だからぐいっといくけどよお」

ツッコミ客、呑むが微妙な表情になる。

ツッコミ「んん？ 美少年ってこんな味だっけか？」

ボケ「ワイルドターキーに注ぎ足してますからね」

ツッコミ「なんで注ぎ足すんだよ！ 洋酒に日本酒混ぜて呑むバカいるか！？」

ボケ「大勢いますよ。ウィスキー呑んだあと、日本酒呑むひと」

ツッコミ「いや、それは呑んだあとの話だろ！」

ボケ「腹のなかに入れば一緒じゃないスか」

ツッコミ「酒っていうのは舌先で味わって呑むものなの！

おまえ、よくそんなんでBARやろうと思ったな」

ボケ「お客さん、人生は……」

ボケマスター、たっぷり間をとって——

ボケ「チャレンジですよ」

ツッコミ「知らねえよ！ なんだそれ。さもいいこと言ったみたいなドヤ顔。

なあ、まともな酒はないの？ 注ぎ足してないやつ」

ボケ「ビールならありますけど」

ツッコミ「まさか、またなんかに注ぎ足してないだろうな」

ボケ「専用のビヤ樽を置いてますから。混じりっ気なしの100％ビールです」

ツッコミ「混じりっ気ありのビールって聞いたことないけどな。それでいいや。それちょうだい」

ボケ「かしこまりました。

春になったとはいえ、まだまだ寒い日が続きますねえ」

ツッコミ「そうだな。なんかそんなこといったら小便したくなってきた。

マスター、トイレどこ？」

ボケ「そこの突き当たりを右です」

ツッコミ客、トイレに立つ。

ジョボジョボ……と放尿の音。

ボケマスター、蛇口をひねってグラスに液体を注ぐ。

戻ってきて席につくツッコミ客。

ボケ「ビール、どうぞ」

ツッコミ「けっこう泡立ってるなこのビール」

ボケ「お客さん……」

ツッコミ「な、なんだよ」

ボケ「一度検査してもらった方がいいかもしれませんな」

ツッコミ「…………」

ボケ「…………」

ツッコミ「…………」

ボケ「…………」

ツッコミ「…………」

ボケ「…………」

ツッコミ「おいっ！」

暗転。