#39 三蔵法師の帰錦
「ううむ、玄壮三蔵よ……よくぞ!」
「はっ、陛下! ありがたきお言葉……」
玉座の間で、深々と頭を下げるのは。
大陸の西にある仏教の本場・天竹に行って仏典たんまり持って帰って来た玄壮三蔵法師。
……ん、三蔵って女かって?
え? 何でそう思うの?
法師って男なんだから、男でしょう?
さておき。
「その仏典の編纂……そなたに引き続き、任せてもよいか?」
「! は、返す返すもありがたき幸せ……必ずやその任、全うしてご覧に入れましょう!」
「ははは、ああ励むのだぞ!」
三蔵法師は陛下の言葉に、深々と頭を下げられた。
◆◇
「うーん、裏宮妖女ね……」
「しーしょう!」
「うわっ! き、去魔ちゃん……」
その時、自室で悩んでいた私だったけど。
毎度通りというべきか、外からは壁越しに去魔の声が。
「あ、驚かせてすみません師匠……ところで。裏宮妖女に、悩んでいらっしゃいますか?」
「!? え、ええ……盗み聞きとは感心しないわね?」
「! あ、すみません……」
私は去魔に、そう嫌みを返した。
そう、裏宮妖女。
ただでさえ妖魔たちが力を増して、更に薬学魔法を克服する者まで現れてるって時にい!
何よ何よ、あんなのが出てきて!
「あー、いつ思い出してもムカつくわ……あの狐之妖妃い! 魔薬妖術なんて私の猿真似仕掛けて来て、真似られる方が悪い、ですって!」
「し、師匠声が大きいですよ!」
「あ……しまったわ。」
おっと。
私はうっかり興奮してたわ、まずいまずい。
「まあいずれにしても……とんでもないもの生み出してくれたわよね、狐之妖妃。こりゃ……先が思いやられるわ……」
「師匠……」
私は――本当は弟子の前で言うことじゃないんでしょうけれど――そう、弱音を吐いた。
……まあしゃーがないじゃない?
それだけ、恐ろしい相手なんだから。
◆◇
――そ、そなたその姿は!?
――ふっ、ああそうさ……私は狐さ!
「華燿夫人め……ああもう! くう、経の訳が手につかん……」
その頃。
三蔵法師は自室で、陛下のご命令通り経の訳に当たっていたけれど。
まあ、これぞ煩悩と言うべきかしら?
頭の中は、ご執心の華燿夫人のことでああらいっぱい。
「中々、お悩みのようですね。三蔵殿。」
「ああ、あんな女に心を乱されるとはまさに煩悩。仏様に仕える身として申し訳ない……ん!?」
経を書きつけながらそう話す法師だけど。
ふと気づいたわ。
ん?
誰と話してるんだろうって。
「ふふふ……」
「き、狐の顔!? き、貴様もしやあの女狐……華燿夫人か!?」
「いいえ……我が名は裏宮妖女! しかし……お会いしたければ、華燿夫人――あなたの想い人にお会いできますよ?」
「!? な、華燿夫人に……い、いや待て! だ、誰が誰の想い人だと!」
そこに現れたのは、あの裏宮妖女!
「ふ、ふざけるな! わ、私は僧侶だぞ! お、女に惹かれるなどとそれは、ただの煩悩の塊ではないか!」
三蔵法師は心外とばかり、裏宮妖女に猛抗議したわ。
……だけど。
「大丈夫ですよ……可愛いわ、あなた。僧侶でありながら、そんな煩悩を抱えるなんて」
「ひ、ひいい! や、止めろ女! 抱きつくな!」
構わず裏宮妖女は、三蔵に抱きついて耳元でそう語りかけた。
……言うまでもないけど、僧侶なんてウブの集まりみたいなものだから。
あやうく、失禁しそうにすらなったみたいよ!
「ふふふ、照れるとはますます可愛いですねえ……でもご安心ください、すぐ終わりますから! 魔王開封、四凶所被流於四方! 土魔所司五志之思――魔薬使三蔵之思強、急急如律令!」
「ぐ……ぐああ!」
そのまま、裏宮妖女は。
何と三蔵法師に、術を注ぎ込み――
◆◇
「こっちです、師匠!」
「分かってるって! ……まったく、また妖魔が出るなんて!」
その夜。
私は宮中に轟いた、また妖魔が出たという情報を元にこうして探索に出ていた。
……と、その時だったわ!
「ウッキー!」
「!? し、師匠危ない! ……ぐあっ!」
「!? き、去魔ちゃん!」
何と突然、空から奇声を上げながら何かが飛来し。
私を庇った去魔が、連れ去られてしまった!
「くう……な、何あれは?」
「ブヒー!」
「クエッ!」
「な!? く……玉帝有勅、神硯四方! 金精生金鎖、捕妖魔! 急急如律令!」
「ブヒッ!?」
「クエッ!?」
私が呆けていると。
そこへどこからともなく二体が更にやって来て、私に攻撃を加えて来たから避けて。
私は薬学魔法を振るって、二体を遠ざけたわ!
「まったく……あんたたち一体……!? な!?」
私はそうして、さっきは確認できなかった二体の顔を確認したけど。
その顔が。
まず、両方とも首から下は着物だけど。
向かって左が何だか、鳥の嘴に頭頂部に変な皿を頂いた珍妙な顔で。
右が、豚みたいな顔をしている。
これは――
「な、何だか分からないけど……あんたたち、やっぱり妖魔なのね!」
「ブヒー!」
「クエッ!」
……うん、こいつらの妖魔語?でこれははいかいいえか分かりづらいけど。
まあ聞くまでもなく、見れば分かる通りよね!
「どこから湧いて出たか知らないけど……そこを退いてもらうわ! 私は弟子を助けないといけないから!」
私は妖魔二体に、そう啖呵を切った!
◆◇
「くっ、離せ! ……な!? そ、その顔は!?」
その頃。
去魔も自分を攫った者の顔を見て、驚いたことに!
「ウッキー!」
何と、それは猿そのものだったの!
◆◇
「さあさあ、尚も苦しみ続けなさい三蔵法師……あなたの恋煩いが、この後宮を蝕みますから!」
裏宮妖女は、憎たらしくも。
この状況を、嘲笑っていた!




