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後宮の魔女〜輿入れした薬学魔法マニア妃は宮中を魔改造ならぬ魔法改造する〜  作者: 朱坂卿
第十症 天竹帰りの三蔵法師による華燿夫人への恋患い
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#39 三蔵法師の帰錦

「ううむ、玄壮三蔵よ……よくぞ!」

「はっ、陛下! ありがたきお言葉……」


 玉座の間で、深々と頭を下げるのは。


 大陸の西にある仏教の本場・天竹に行って仏典たんまり持って帰って来た玄壮三蔵法師。


 ……ん、三蔵って女かって?

 え? 何でそう思うの?


 法師って男なんだから、男でしょう?


 さておき。


「その仏典の編纂……そなたに引き続き、任せてもよいか?」

「! は、返す返すもありがたき幸せ……必ずやその任、全うしてご覧に入れましょう!」

「ははは、ああ励むのだぞ!」


 三蔵法師は陛下の言葉に、深々と頭を下げられた。


 ◆◇


「うーん、裏宮妖女ね……」

「しーしょう!」

「うわっ! き、去魔ちゃん……」


 その時、自室で悩んでいた私だったけど。

 毎度通りというべきか、外からは壁越しに去魔の声が。


「あ、驚かせてすみません師匠……ところで。裏宮妖女に、悩んでいらっしゃいますか?」

「!? え、ええ……盗み聞きとは感心しないわね?」

「! あ、すみません……」


 私は去魔に、そう嫌みを返した。

 そう、裏宮妖女。


 ただでさえ妖魔たちが力を増して、更に薬学魔法を克服する者まで現れてるって時にい!


 何よ何よ、あんなのが出てきて!


「あー、いつ思い出してもムカつくわ……あの狐之妖妃い! 魔薬妖術なんて私の猿真似仕掛けて来て、真似られる方が悪い、ですって!」

「し、師匠声が大きいですよ!」

「あ……しまったわ。」


 おっと。

 私はうっかり興奮してたわ、まずいまずい。


「まあいずれにしても……とんでもないもの生み出してくれたわよね、狐之妖妃。こりゃ……先が思いやられるわ……」

「師匠……」


 私は――本当は弟子の前で言うことじゃないんでしょうけれど――そう、弱音を吐いた。


 ……まあしゃーがないじゃない?

 それだけ、恐ろしい相手なんだから。


 ◆◇


 ――そ、そなたその姿は!?

 ――ふっ、ああそうさ……私は狐さ!


「華燿夫人め……ああもう! くう、経の訳が手につかん……」


 その頃。

 三蔵法師は自室で、陛下のご命令通り経の訳に当たっていたけれど。


 まあ、これぞ煩悩と言うべきかしら?

 頭の中は、ご執心の華燿夫人のことでああらいっぱい。


「中々、お悩みのようですね。三蔵殿。」

「ああ、あんな女に心を乱されるとはまさに煩悩。仏様に仕える身として申し訳ない……ん!?」


 経を書きつけながらそう話す法師だけど。

 ふと気づいたわ。


 ん?

 誰と話してるんだろうって。


「ふふふ……」

「き、狐の顔!? き、貴様もしやあの女狐……華燿夫人か!?」

「いいえ……我が名は裏宮妖女! しかし……お会いしたければ、華燿夫人――あなたの想い人にお会いできますよ?」

「!? な、華燿夫人に……い、いや待て! だ、誰が誰の想い人だと!」


 そこに現れたのは、あの裏宮妖女!


「ふ、ふざけるな! わ、私は僧侶だぞ! お、女に惹かれるなどとそれは、ただの煩悩の塊ではないか!」


 三蔵法師は心外とばかり、裏宮妖女に猛抗議したわ。

 ……だけど。


「大丈夫ですよ……可愛いわ、あなた。僧侶でありながら、そんな煩悩を抱えるなんて」

「ひ、ひいい! や、止めろ女! 抱きつくな!」


 構わず裏宮妖女は、三蔵に抱きついて耳元でそう語りかけた。


 ……言うまでもないけど、僧侶なんてウブの集まりみたいなものだから。


 あやうく、失禁しそうにすらなったみたいよ!


「ふふふ、照れるとはますます可愛いですねえ……でもご安心ください、すぐ終わりますから! 魔王開封、四凶所被流於四方! 土魔(アマイモン)所司五志之思――魔薬使三蔵之思強、急急如律令!」

「ぐ……ぐああ!」


 そのまま、裏宮妖女は。

 何と三蔵法師に、術を注ぎ込み――


 ◆◇


「こっちです、師匠!」

「分かってるって! ……まったく、また妖魔が出るなんて!」


 その夜。

 私は宮中に轟いた、また妖魔が出たという情報を元にこうして探索に出ていた。


 ……と、その時だったわ!


「ウッキー!」

「!? し、師匠危ない! ……ぐあっ!」

「!? き、去魔ちゃん!」


 何と突然、空から奇声を上げながら何かが飛来し。

 私を庇った去魔が、連れ去られてしまった!


「くう……な、何あれは?」

「ブヒー!」

「クエッ!」

「な!? く……玉帝有勅、神硯四方! 金精(エーテル)生金鎖、捕妖魔! 急急如律令!」

「ブヒッ!?」

「クエッ!?」


 私が呆けていると。


 そこへどこからともなく二体が更にやって来て、私に攻撃を加えて来たから避けて。


 私は薬学魔法を振るって、二体を遠ざけたわ!


「まったく……あんたたち一体……!? な!?」


 私はそうして、さっきは確認できなかった二体の顔を確認したけど。


 その顔が。

 まず、両方とも首から下は着物だけど。


 向かって左が何だか、鳥の嘴に頭頂部に変な皿を頂いた珍妙な顔で。


 右が、豚みたいな顔をしている。


 これは――


「な、何だか分からないけど……あんたたち、やっぱり妖魔なのね!」

「ブヒー!」

「クエッ!」


 ……うん、こいつらの妖魔語?でこれははいかいいえか分かりづらいけど。


 まあ聞くまでもなく、見れば分かる通りよね!


「どこから湧いて出たか知らないけど……そこを退いてもらうわ! 私は弟子を助けないといけないから!」


 私は妖魔二体に、そう啖呵を切った!


 ◆◇


「くっ、離せ! ……な!? そ、その顔は!?」


 その頃。

 去魔も自分を攫った者の顔を見て、驚いたことに!


「ウッキー!」


 何と、それは猿そのものだったの!


 ◆◇


「さあさあ、尚も苦しみ続けなさい三蔵法師……あなたの恋煩いが、この後宮を蝕みますから!」


 裏宮妖女は、憎たらしくも。

 この状況を、嘲笑っていた!

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