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ゆっくりとワン子についていきながら神社の外に出ると、たんに騒がしい声が飛んできた。うん、どうやら霊力は保たれているようだ。
「ねえ、さっきのどういうこと?!見えてたの?!」
「あー……三日間は何も見えないから、暫く加奈の姿も見えないな」
「さっきの話だってばー!!」
見えなくても加奈が悔しそうな表情を浮かべているであろうことは想像がついた。なので、わざとはぐらかしてみる。
「さっきって言われてもな」
「もー!そういうこと言ってると道案内してあげないんだからね!!」
おお、それは困る。
「悪い悪い。見えてたよ、ばっちり」
声のする方に向かって、正直に答えた。自信はないが、恐らく正しい方向を向いているはずだ。
「なんで?!」
「いや、何でって言われても……生まれつき?」
「どうして?!」
「いや、分かんないし」
「むむむむむ……」
しばらく無言が続く。
「……なあ、そろそろ道案内を頼む」
加奈が居るであろう方向に声をかける。
しかしはっきりとした返答は返ってこない。
「むむむ……」
「加奈?」
「む……」
「おーい」
何度目かの声掛けで、ようやく加奈から意味のある言葉が発せられた。
「浩二の家ってあっちだっけ?」
(あっちってどっちだ……!!)
目が見えないのであっちもそっちもわからない。加奈はどうも、家の方向が分からなくて悩んでいたらしい。
「あー……ワン子が分かるから、加奈はそれについて行ってくれ。障害物を気にしつつ俺の手を引いてくれたらそれでいい」
「きゃー破廉恥」
「なんでだよ!」
「ふふふ、わかったよー。ワン子さん、先導よろしくね」
「にゃあ!」
普通の人には見えない少女に、目の見えない俺が手を引かれて歩く。
『明日の光その手に捉えて 太陽よりも早く走り出す』
時折聞こえるワン子の鳴き声に、少女の歌声が混じる。聞いたことのない歌だ。
『キラキラと輝く 今日を越えて』
毎日アルバイトに行って、アパートに帰って。
それ自体は変わらない。でも、昨日までと今日からでは全く違う。
見えないものが見えるようになった。
護るべきものを見落とさないようになった。
(これからは色々と頑張らないとな)
護りたいものを護れるように。取りこぼさないように。
「よし!」
意気込みはばっちりだ。
『今日の自分に挨拶をして 明日の自分に笑いかけよう』
まだまだ続きそうな加奈の歌に、適当な鼻歌で参加する。
(かあさん、応援してくれるよな)
俺はこれから、全ての物から目を逸らさずに、生きていく。
一旦完結です。
最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!




