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「やっぱり面白いやつだな森本は」
笑い顔のまま、鏑木が俺を見上げる。
「いいだろう。その目を治してやる」
そうして新たな呪文を唱え始める。目がじんわりと熱くなってきた。
(これはかなり……)
熱はゆっくりと強みを増していく。
(熱い……!)
熱が限界まで高まったところで、鏑木が一段と声を張る。
「呪呪・解!」
「くっ……」
括りの言葉が発せられると同時に、目元の熱が一気に解き放たれた。体から力が抜け、一瞬ふらつく。
「二・三日は視力を失うが、直ぐ戻る。安心しろ」
田中(仮)がとても淡白に告げてくれた。
「え、それ先に言ってくれない?バイトとか色々あるんだけど」
「シフト代われとかそういう相談なら他を当たれ」
「この期に及んで?!」
目が見えなくなってもスタンスは変わらないらしい。
「はは、二人は仲がいいな。そのままじゃ不便だろうし、今日は泊まってくか?」
とてもありがたい申し出ではあるけれど、断ることにした。
「いや、大丈夫。迎えが居るはずだから」
「ワン公か?」
「まあな」
本当はもう一人いるけれど。ワン子だけなら一緒に泊まってもよかったが、ここでの用事が済みしだい加奈と合流することにしているし、放ったらかすわけにはいかない。
「ワン公なら敷地に入れても構わん。呼んだらどうだ?」
「ん、そうする」
ワン子、と呼ぶと直ぐに鳴き声が返って来た。
その後、足に温かな感触が伝わって来る。
「前々から思っていたが、本当に賢い猫だな。浩二とは似ても似つかん」
「最後が余計だ」
ワン子が鳴き声で誘導してくれるようなので、それについて行くことにした。
加奈は恐らく外で合流するつもりなのだろう。
(目が見えないだけで、霊感は戻ってる……で、いいんだよな?)
霊感が戻ってないとすると、このままワン子の鳴き声だけを頼りに歩かなくてはならないことになる。それは流石に危険すぎるので避けたいところだ。
(霊感と視力は連動してないと信じよう……)
「また何かあったら来い」
鏑木が声をかけてくれる。バスローブはそのまま借りていくことにした。行きかう人に不審な目で見られるかもしれないけれど、自分の服だけでは凍え死んでしまいそうだから仕方がない。
「目のこと、ありがとな。今度なにか礼の品でも持ってくる」
「気をつけていけよ」
田中(仮)の声も聞こえてきた。最後まで正しい名前が思い出せなかったが……まあ良いか。
「おう。田中もサンキューな」
軽く手を振って答える。
「田中じゃないけどな!」
悪いがとても名前を思い出せる気がしないので、おそらく今後も田中(仮)のままだ。




