12
ごおおおおおおお
世界が回転する。ぐるぐると回る。
バシャッ!!
「ぶはっ」
水が頭に振りかかってきた。頭を振り、水を払う。
顔を上げると、鏑木と田中(仮)が立っていた。
「どうでしたか?」
「あんまり気分は良くないな」
寒さに震えながら答える。いつの間にか尻もちをついていたようだ。俺は立ち上がって二人のところまで戻る。
「その目、治したくなくなったのでは」
「どこまで知ってんだよ……」
鏑木の言葉に眉をひそめる。よく知らない奴に過去を覗かれるのは良い気分じゃない。
「その目の起因については全て」
「そりゃ大した能力だな」
田中(仮)がタオルをくれたので、急いで全身を拭った。さすがに不憫だと気付いたのか、バスローブも用意されている。
正直、バスローブよりも新しい着替えが欲しい。
「今さら治したくないなんて言わねーよ」
バスローブに袖を通す。僅かではあるが寒さが若干ましにはなる。
「しかし」
田中(仮)が遠慮がちに口を開いた。
「俺は、俺が生きたいように生きる」
「それでいいのか?」
「……なあ。もし事故現場に花が添えてあるのを見かけたら、普通は『可哀そうに』って思うよな?」
「?……まあ、そうだな」
田中(仮)が眉をひそめつつも答える。
「でもさ、俺は霊の存在を知っているから『あそこには幽霊がいるかもしれない』とか『怨霊化して悪さをいるかもしれない』とか、そういうことまで頭に浮かんでくるわけだ」
「ふむ」
「そうすると、段々気になって来る。そう思わねえ?」
そこまで言うと、田中(仮)が頷いた。
「なるほどな」
「あとはほら、事故が多発する魔のカーブとか。俺武器まで貰ってんのに、何も出来ねーの」
「見える見えないに関係なく、それは危険だから関わるべきではないな」
「まあ、とにかくそういうわけだから。俺、母親には悪いけど、このフィルターとやらを外してもらう」
はっきりと意思を伝えると、鏑木が「はは」と笑い声をあげた。




