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【SS追加済】ホワイト・イノセント  作者: 遊一(Crocotta)
【SS】続・ホワイト・イノセント(序章)/始まりのカンタータ
44/48

10

「ここ」

 鏑木が立ち止まる。

 石で囲われた内側に、澄んだ水が張ってある。


「入って」

「え?」

 普通に言ってくれるが、まだ春の初旬で肌寒い季節だ。

「え?」

 もう一度声をあげてみるが、田中(仮)も鏑木も真顔でこちらを見つめている。


「……わかったよ」

 しぶしぶ池の中に足を入れる。痛みに似た感覚が足を伝い、一気に総毛立つ。

「寒っ!冷たっ!」

 なんとか池の中央まで行って振り返る。膝のあたりまで水に浸かってしまった。

「よし、それじゃあ始めるぞ」

 がんばれの言葉すら貰えないままに、儀式開始の声が発せられた。

 しかし、よく考えたら何の説明も受けていない。

「この後どうすればいいんだよ」

「水が過去に導いてくれる」

 田中(仮)が言う。

「それで?」

「過去を受け入れろ」

 今度は鏑木が言った。

「水を飲まないように気をつけて」

 それだけ言って呪文の詠唱を始める。


「え。ちょ」

 反発する間もなく、呪文の効果が表れ始めた。

 水が円を描きながら、浮き上がって来る。

 水の壁が、浩二を覆う。

「なんだこれっ……」

 水の動きが止まり、表面に浩二の姿がハッキリと映し出された。瞬間、水が一気に浩二へ振りかかる。


 バシャッ!!!

「うわあああ」

 腕を顔の前に上げるが、間に合わない。顔も体も全身水でもまれていく。

「ぶはっ」

 水が捌けたタイミングで顔を上げて目を開けると、そこに鏑木と田中(仮)の姿はなかった。


(あいつらどこに……)


『おかあさん!』

 子供の声だ。反射的に、声がした方向とへ顔を向ける。

『ここにはね、桜の妖精が居るのよ』

 聞き覚えのある声が、聞き覚えのある台詞を発していた。

(俺の……母親……?)

 そばに居る小さな少年は、恐らく自分だろう。

 桜の木の前で、母と手をつなぎ、笑い合っている。


(桜の妖精は、いない)

 桜の木の前に居るのは母と自分だけだ。

『だからね、きちんとお世話をしたら、来年も綺麗な花を咲かせてくれる』

『うん。僕も頑張ってお世話する』

『ふふ、ありがとう』

(桜の妖精は、作り話か……)

 どこからともなく現れ、上から下へと落ちてきた水が目の前の風景を洗い流し、場面が切り替わる。

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