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「お前が森本か?」
「そうだけど……」
俺は声の主を見下ろした。
(今日はやたらと小学生に縁があるなあ……)
目の前に居るのは、身長が浩二の腰ほどしかない小さな少年だった。
「待たせたな。鏑木夕だ」
「……」
田中(仮)を見る。若干口元が笑っていた。
「田中……」
「いや、一番の実力者って言うのは本当だよ。爺さんの方もいるが、なにぶん歳だからな」
「田中……?」
鏑木が不思議そうに田中(仮)を見上げている。
「おお、こいつ田中って言うんだ、よろしくな」
「すぐにばれる嘘をつくんじゃない」
「ちっ……」
舌打ちをすると、鏑木がおかしそうに笑った。
「ふは、森本は面白いな。気にいった、その目治してやる」
「治せるのか?」
「ああ。面倒だしどうしようかと思ってたけど、いいよ。治す」
鏑木が笑ったまま答える。
「俺は何をしたらいい?」
「そうだな。その目は過去の事象から起因しているようだから、まずは過去を想起する必要がある」
「なるほど……?」
(ちっこい割に、難しい言葉を使うな……)
もしかしなくても、俺より頭が良いんじゃないだろうか。
「あっちに池があるから、そこへ」
「ああ……」
素直に鏑木の後ろをついていく。移動する際、空に見知った顔が見えたので、手を振ってみた。
『なっ……』
「ん、今の声は……?」
「どうした田中、幻聴か?」
「田中じゃない」
「何か変な声が聞こえた気がしたけど」
鏑木もきょろきょろとあたりを見回すが、何もめぼしいものは見つからなかったらしく、最終的に聞き間違いと言うことで落ち着いた。
(5分弱ってところか)
ちらりと振り返ると、驚いた表情で口をパクパクさせる加奈の姿が浮かんでいる。
(視力よりも鼻のほうが利くと断言した田中(仮)はともかくとして、一番の実力者だっていう鏑木にも見えないなら、これは幽霊ほんにんの能力値の問題じゃなく、見る側の個体差ってことなのか……)
そういうことであるならば、当時の佳菜依が驚いてたのも頷ける。普段はこんなに早く見破られることはないのだろう。
普段はフィルターとやらで全然機能していないわりに、偶に使う時にはかなり高性能らしい。今後もこのクォリティーを保持できるかは定かでないが。