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「で、何の用だ。シフト代われとかそういう相談なら他を当たれ」
「そんなことでわざわざここまで来るか。別の相談だ」
俺がそういうと、田中(仮)は興味深そうに「ほう」と片眉を上げた。
「目を治してほしい」
「眼科に行け」
「おい――」
「冗談だ」
田中(仮)が俺の言葉を遮り真顔のままで言う。冗談ならもっと面白そうな顔をしてほしい。
「お前、いつもと匂いが違うがどうした?憑かれたか?」
「いや、憑かれてはいない」
「とすると、普段はわざと匂いを隠してたってことか……なかなかやるな」
顎に手をやり、勝手に感心している風だ。いや、思い違いだからなそれ。
「おい、さっきから匂いって何のことだ」
「ああ、悪い。俺は視力がそんなによくなくてな。霊力は鼻で察知する」
「……?」
「普段は霊力の匂いが全くないのに、今は驚くほど濃い香りがしている」
「ああ……。俺の頼みはそれだ」
俺は頷いた。
「何でか知らないが、目にフィルターがかかってるんだと。霊力も同時にシャットダウンしてたのかもな」
「フィルターねぇ……」
田中(仮)が俺の目を見ながら言う。
「鏑木を呼んでくるから待ってて」
「鏑木?」
「ここの跡取り。霊力の量も知識も一番」
「ふうん……」
暫く待っていると、鏑木とやらがやってきた。