5
「小学生と話しこんでたら、いつ通報されてもおかしくない。危険は去ったことだしお前も去れ」
「またお前って言ったー!!」
よっぽどお前と言われるのが嫌らしい。仕方がないので言い直す。
「加奈も帰れ」
「野蛮!」
「なんでだよ!」
素早く返って来た野次に、思わず叫ぶ。
(お前の危険は去ったが、俺の危険は現在進行形だ!)
先ほどから、通行人がこちらを不審そうに見ているのが気になって仕方がない。
「強制成仏なんて野蛮じゃん!!」
「誰が成仏しろっていった、大人しく家に――って、成仏?」
思わぬ言葉が飛んできて、呆けた顔になる。
「……違うの?」
「いや、ちょっと待て、成仏?え?おま……加奈は、もしかしてもしかすると幽霊……?」
「そうだけど?」
首をかしげ、きょとんとした表情を向けられる。
(ええええ?!)
「先に言えよ!!」
(だとすると俺、相当な不審人物じゃねえか)
変質者で通報されるよりももっと厄介だ。人には見えないから正常であることを証明しようがないし、万が一の際にも「この人は怪しい人じゃありません。頭もおかしくありません」と当事者である加奈に説明してもらうことが出来ない。
「最悪だ……」
俺は頭を抱えた。この先は周囲に気を付けて会話をしないと、本当に大変なことになる。
「霊力は有り余ってそうなのに、何でそういうのは全然わかんないの?!」
俺の失態に対し、加奈が驚きの声を上げた。
「俺は元々見える人間じゃないんだよ」
俺はため息とともに答えた。
「そんなはず……」
「うっ」
ふわりと飛び上がって目線の高さまで届いた小さな手のひらが俺の顔をつかむ。そのまま下へと引かれたため腰が思いっきり曲がり、変なところから声が出た。仕方がなく足も曲げてしゃがむ体制をとる。加奈は何やら熱心に俺の目を覗いていた。
「おい……」
「じっとしてて!」
何故か怒られる。
(何なんだ……)
仕方なく従う。至近距離で加奈の顔を見ながら、この時ばかりは加奈が周囲に見えなくてよかったと心底安心していた。