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「ここでちょっと待ってろ」
困惑したままの少女の手を離し、一人で階段を駆けあがった。猫は付いてこない。どうやら少女の元に残ったようだ。
少女の見張り番はそのまま猫に任せることにして、俺は201号室へと飛び込んだ。靴のまま部屋に上がり、クローゼットを開ける。
「確かこの奥に放りこんでたはず……」
クローゼットの中からは、探しものとは全く関係のない品ばかりが飛び出してきた。
学生鞄、ジャージ、昔流行ったボードゲーム……。
「どこだ……」
額に汗がにじむ。何かあれば猫が大声で鳴くはずなので、それがないうちは安全だと分かる。だけど、それだけでは不十分だ。猫が先ほどのよだれまみれの大男を退治出来るならともかく、そうではない。つまり、大男が来てから戻るのでは間に合わないのだ。大男が来る前に戻らなくては。
「……あった」
目的の物を見つけ、引き寄せる。まわりに積んであった物がガラガラと落ちたり崩れたりしているが、無視を決め込む。そもそも、先程放り投げたものが部屋に溢れかえっているので今更気にしたところであまり意味がない。
俺は手にした物体を強引に引き抜いて、ようやく見覚えのあるフォルムを視界に入れた。それを抱え、少女と猫の元へ戻る。
外は暗く、冷気が辺りを包んでいた。
「くそ、もう追いついたのか」
言った直後、咆哮が木霊する。
「うぉ、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お」
巨体の男が、ドスンドスンと大きな音を響かせて近づいてくる。
「覚悟しろよ」
俺は先ほど部屋から回収した物体を、巨体に向けて思いっきり突き刺した。真っ白なステッキが大男の腹部に深々と刺さる。
懐かしい、傘の形に似た不格好な相棒。
「……」
あれ。
この後、どうしたらいいんだっけ……?