表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【SS追加済】ホワイト・イノセント  作者: 遊一(Crocotta)
【SS】続・ホワイト・イノセント(序章)/始まりのカンタータ
36/48

2

「きゃああああああ」

 突如悲鳴が聞こえてきて、すでに曖昧だった思考が完全に途切れる。


「にゃー!」

「えっ、おい!!」

 急に走り出す小さな背中を慌てて追いかける。

 同時に、悪寒が走る。

 丸ごと巨大な冷凍庫に放りこまれたような、そんな感覚。


(俺はこの感覚を知っている)

 中学の時、わずかな時間の中で幾度か体験した。もう夢か現実かも曖昧になりそうな、十年も前の話だ。

「そんなはず……」

 俺にはあれ以来、何も見えなかった。むしろあれ以前だってそうだ。

 俺に見えたのは、あの時だけ。

(でも)

 鳥肌が全身を覆う。

 目の前には、黒い気を纏った巨体の男。


「お、お、お、お、お、お、お、お、お」


 よだれを零しながら、赤いランドセルを背負った少女に近づいていく。男に迫られている少女の方は壁に背中を貼り付け、どうやら身動きが取れないようだ。顔は引き攣り、既に悲鳴も出ないほど怯えてしまっている。


「くそっ」

 まだ夕方で辺りは住宅街。人通りはそれなりにある。

 幼い少女が見るからに怪しい大男に襲われそうになっているのだから、誰がどう見ても非常事態だ。

 けれど、誰も見ていない。誰一人として気付いていない。

(俺にしか、見えてない)

「にゃー」

(正確には、俺と一匹か)


 この猫にも、はっきりと眼前の様子が見えているはずだ。

 ちりん、ちりん、と、猫の首輪に付いた鈴が、猫の動きに合わせて軽快な音を立てる。

 鈴に籠められていた魂の欠片が抜け出てからは怨霊を察知する能力はなくなり、鈴はただの鈴となった。

 動けば音が鳴る、よくある鈴。

(鈴が元に戻ると同時に、俺にも平和な日常が戻った……はずだった)

 何も見えず、聞こえない、普通の毎日。幽霊や怨霊とは一切かかわらない平凡な日々。


「にゃー」

 猫が再び鳴いた。

(お前は変わらないな)

 俺は駆けだす。

「くらえデカブツ!」

 巨体に突進し、力任せに殴りとばす。

「ぐぉ?!」

 ろくに鍛えてない弱体から出たパンチでも、少しは効いたようだ。膝をつき右頬を手で抑えた状態で、巨体の動きが止まる。俺はその隙に少女の手を取って走り出した。


「来い!」

「えっ」


 驚いた様子の少女を、無理やり走らせる。

 まずい。これでは俺の方が犯罪者みたいだ。

「もし通報されたらお前のせいだからな」

 一方的に告げ、見なれた道を走り抜ける。

 ほどなくしてボロアパートの前までたどり着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ