過ぎ去りし日のラメント・自由詩形式
* * *
「おにーちゃ」
「佳菜依?お腹すいた?」
「ぶー」
「んー?」
「お、ぶー」
「ああ、おんぶね。わかったわかった」
「わーい」
「あはは、佳菜依は本当に可愛いなあ」
「父さん、佳菜依はどこに行くの?」
「空気の綺麗なところだよ」
「すぐ戻ってくる?」
「…………そうだね」
「そっか、じゃあ僕、佳菜依のためにお花を摘んで待ってるね」
「佳菜依遅いね」
「……そうだな」
「いつ帰ってくるのかな」
「さあ、いつだろう」
「せっかく摘んできたお花も枯れちゃった」
「父さん、佳菜依はいつ戻って来るの?」
「佳菜依はもう帰ってこないんだよ」
「どうして?」
「体が弱いから、空気の綺麗なところで休んでいるんだよ」
「じゃあ僕も行く」
「賢介は駄目だよ」
「どうして?」
「賢介は長男だからね」
「里親から手紙がきたんだ。佳菜依は元気にしているって」
「迷惑だから手紙の催促なんてやめなさい」
「手紙くらい良いじゃないか」
「賢介、佳菜依はもうこの家の子じゃないんだよ」
「でも、僕の妹だ」
「もうお前の妹じゃなくなったんだ、あきらめなさい」
「佳菜依に会いたい」
「あの子のことは忘れなさい」
「嫌だ。忘れない」
「賢介」
「父さんが何を言おうと、僕は絶対に佳菜依を忘れたりしない」
「賢介、お前はいつになったらまともに仕事が出来るんだ」
「そんなに僕が不満なら、どこからでも養子を拾ってくれば良いだろう」
「出来る事ならそうしている。誰が好き好んでお前なぞ後継ぎにするものか」
「それなら世間体なんて気にしないで、戸籍から名前を抹消すれば良い。そうしたら僕も晴れて自由の身だし、お互い幸せじゃないか。そうだろう?」
「ああ」
「手紙がこなくなった」
「催促してみたけれど、連絡がない」
「こない」
「こない」
「こない」
「僕は月夜に一人の少女を見つけた」
「可愛らしい子だった」
「写真そのままだった」
「そうか……佳菜依はもう……」
「佳菜依」
「可愛い佳菜依」
「今夜のことは忘れない」
「父さん、手紙を受け取るのはやめたよ」
「手紙はやめた」
「父さん、正式に後を継いだよ」
「もう疲れたよ」
「父さん、僕は死んだよ」
「咳が止まらなかった」
「父さん、貴方は後悔してくれてる?」
「倉で倒れたんだ」
「父さん、僕は佳菜依に会ったよ」
「元気そうだった」
「父さん、さようなら」
「涙なんて、いらない」
「さようなら」
「君の笑顔が、見たかった」