強い男・2
* * *
「……倒せた」
佳菜依が気の抜けた声を出す。
「ほらみろ、やりゃあ出来るんだよ。簡単に諦めるから出来ないんだ」
緑がかった髪の男が、ほれ見たことかと胸を張りながら言う。
「本当にそうね、ありがとう。貴方のおかげで助かったわ」
「別に礼を言われる覚えはねえよ。俺は自分の命を救うためにやったんだからな」
そう言って大きく口を開けて笑って見せる。
「じゃあ、ごめんなさい」
佳菜依は言った。
「貴方の命を簡単に諦めてしまって、ごめんなさい」
男は多少驚いた顔をしたものの、にっ、と笑って答える。
「おう。その言葉は受け取っとくぜ。今度からは簡単に諦めたりすんじゃねえぞ」
「うん。ありがとう」
「だから……」
「貴方のおかげで闘い方が少しわかったの。その分よ」
不平を口にしようとした男の言葉をさえぎり、佳菜依がにっこりと笑う。
怨霊を退治したあとで、以前尾柄木神社で出会った男が「力が及ばなそうなときには、生きた人間に力の仲介をしてもらうといい」なんて言っていたことを思い出した。つまりは、こういうことだったのだ。
器のない自分では、小さな霊力をただ打ち込むことしかできないけれど、器のある生きた人間を間に介せば佳菜依の霊力を一定値まで溜め込むことが可能になる。
そしてそのまま呪文を唱えることで、その溜め込んだ霊力を一気に打ち出すことができるのだ。鉄砲と大砲ぐらいの差はあるかもしれない。
「わけわかんねえよ」
男はお礼を言われ慣れていないのか、複雑そうな表情をして頭を掻いていた。佳菜依はそれがおかしくて、思わず笑いを零してしまう。
「ありがとう。ありがとう。ありがとう」
そうやって勝手に言い残し、佳菜依は姿を消す。
「あんた馬鹿にして……!!」
男が文句を言おうとしたときには、もう既に佳菜依の姿は消えている。
「……はあ」
男がため息をつく。
「俺はお前に文句を言うのを諦めた」
わざとらしくそう言って去っていく男をそっと見つめ、佳菜依はまたも笑いを零す。
姿も声も男には届かない。いや、届かせないようにしている。けれど佳菜依は敢えて言った。
「馬鹿にしてなんかないよ。……ありがとう」
諦めずに頑張ろうと思う。いろいろなことを。いろいろなものを。
だから、ありがとう。
I REMEMBER EVERYTHING
今まで出会った全ての人にありがとう。あなたのことは忘れない。
ホワイト・イノセント 第二部
前途多難なスケルツォ
軽快すぎるカンツォーナ
完
(第三部へ続く)