強い男
* * *
「ああ、もう貸せよ!」
緑がかった髪色の男が、佳菜依の手から白いステッキを奪い取る。
「何をするの!」
「あいつを倒すに決まってんだろ!」
男が吠えるように叫んだ。
少し離れた所には、元は人だったと思えないほど巨大に膨れ上がった怨霊がいる。さきほど佳菜依が呪文を唱えながら霊力を注ぎ込んでもびくともしなかった。
「霊力の無いあなたには無理よ!」
佳菜依が負けじと叫ぶが、男はすでに怨霊に向かって走り出していた。
「やってみなきゃわかんねえだろ?!俺は諦めるのも逃げるのも嫌いなんだよ!!守られてるだけっていうのも性に合わねえ!」
男は佳菜依から奪い取ったステッキを、走った勢いのまま飛び込むようにして目前の巨体に突き刺した。
「ああ、もう……」
佳菜依は言い合っていても埒があかないと察して、ステッキを握りしめている男の両手に自分の手を重ねた。
「これで駄目だったら諦めてもらうからね」
「そしたら死ぬだけだろ?そんなのごめんだな」
男は死ぬかもしれない状況を前にして、豪快に笑ってみせた。佳菜依は呆れるのと同時に、不本意ながらちょっとだけ格好いいなと思ってしまった。
「しっかりつかんでてよね」
「まかせとけ」
男は目の前の怨霊をしっかりと見据え、力強く答えた。
* * *




