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集団召喚

王国、城内


会議室前の廊下にに、ドタバタと、隠す気のない足音が響き、全員が不思議に思いながら警戒する。現れたのは黒焦げの何かを持った獣人。それを説明するべく、話を聞いた他の獣人が前に立つ。


「報告です。勇者レバートに気付かれ、一名死亡。もう一名は無事ですが、混乱した言動から察するに心に傷を負った可能性があります」

 

「それ、見たことか。クハハハハ、わえらに向かって自信満々に発言しておったが、結局気付かれておるではないか」


「慎め、アンナ。尊き命が一つ犠牲になったことに対して、不謹慎ではないか?」


嘲り嗤うアマゾネス長、アンナをエルフの長が押さえる。流石に場の空気に対して不謹慎がすぎたと思ったのか、咳払いをし、言葉を止める。


「で、さっきから死体の検証をしている聖女よ、何か分かったのか?」


皇帝が焼け焦げ、確実に死に、最早蘇生は不可能と思われる獣人をごそごそと探る聖女に視線を向ける。


「死者の霊を呼び出し、記憶を再生したのですが、一瞬で死んでいます。見事な手際としか・・・・」


「一瞬で分からん内に殺されとったら情報も糞もないっちゅーことやな」


「待て、何かおかしい。魔力?残留魔力にしては多すぎる。全員離れろ‼」


エルフの長が叫ぶ。その声に全員が直ぐに反応。各国の長や、その部下たちは部屋の端へ退避する。だが、全員が全員、超人という訳ではない。


逃げ遅れたのは死体を運んできた衛兵。彼らとて常人よりも遥かに強いが、この場に集う超人に比べれば子供同然だ。そしてその弱さが命を刈り取る。


焼死体から呪炎が湧き出で、逃げ遅れた者たちを取り込み、焼きつくし、何やら生物のような形をとる。黒き炎でできた憤怒の形相を浮かべる生物は、そこにいるだけで恐ろしかった。


「上位魔法、精霊召喚か」


「伝言・・・・・伝えru。  干・・渉スルナと・・・言ったはず」


「それで、俺達が裏切れば人を殺すことも厭わないと」


「肯  定」


呪炎で象られた精霊というより魔獣と言うべき生物が首を縦に振る。熱波とともに殺意がヒリヒリと肌を刺す。が、召喚されただけの生物にここに集うもたちに歯向かうことなどできない。


初撃の奇襲を避けられた今、呪炎の魔物にできることは死を待ち、受け入れることだけ。諦感の表情で佇む。聖女の陽光ノ魔眼が光る。浄化の光が魔物を覆い、跡形もなく消す。残ったのは僅かな破壊の跡のみ。



※※※※※※



「死に絶えたか。一人、二人は犠牲にできたことを祈るか。いや、祈る神などいないか」


ぶつぶつと一人、夜の町で独り言を言いながら寝床を探す。王都内の地理について、全く知らないので、宿屋の場所すら分からない。そして何より、ぼっちだったが故に、生物と話すことが何よりも苦手なのだ。


ある程度信頼できる者には胸襟を開く。知らない者には、戦闘中の会話、高圧的な命令を除き、全くと言っていいほど話せない。謁見の間にいたときは、なるべく人と話したくないと思っていた。


「レバート君、レバート君、無視ですか?先生ですよ」


後ろから自分を呼ぶ声が聞こえるが、馴れ合いの類いは不得手なので積極的に無視する方針で歩く足を速める。先制だか宣誓だか知らないが、そうそう話しかけてくる者がいるとは思えない。何か罠の可能性もある。


だが、無視していても、足を速めようと、徒労に終わることもある。近づいてくるのを察知するが、今の自分を一撃で殺せる者など、陛下以外にいないだろうし、殺意があれば直感が鋭敏に反応する。そう思っていたが、不意に、肩を掴まれ、足が止まる。


それと同時に、たじろがず、肩を掴んだ腕を逆に掴みかえし、そのまま引っ張って片手で投げる。


「ふぇ?」


油断しきっていたのか、間抜けな声が夜の闇に響く。一拍遅れて打ち付けられる音がする。音が耳に届くスピードと同じ速さで掴んだ腕を上に引き上げ、重心を踏みつけ、腕の関節を極める。


「レバート、お前、先生に何を‼」

「先生、大丈夫?」


その声で、今しがた関節を極めた女の顔を見て気がつく。この世界に召喚される前、通っていた学校の担任だ。陛下との三年の思い出が濃いため、集団で召喚された記憶ををすっかり彼方の先へと置いてきてしまった。そう言えば誰先生だったかすら忘れたな。


「不用意に後ろに立つな。うっかり技を極められても文句は言えぬな。で、何か用か?用が無いのならば立ち去れ」


「ギブ、ギブですから、先ずは、放して、下さい。関節が、極ってて、痛いです」


腕を無造作に放し、重心を押さえつけていた足を上げる。教師の、えらく途切れ途切れだった呼吸を落ち着かせ、一先ず話を聞く体制を整える。


「ちょっと、レバート、あんた何やってんの⁉先生にそんなことしたらダメでしょ。それなのに文句は言えぬ?マジであり得ないから」


やけに馴れ馴れしい。誰だこいつ。戦場ではあるまい。初対面の人間に話しかけるときはまず名乗ってから話しかけろ。(※クラスメイトなのに覚えていないだけ)


「まぁまぁ、委員長、落ち着いて」


委員長?委員長。・・・・・・・そういやいたなこんなやつ。名前、名前、名前・・・・・あれ?誰だこいつ。名前忘れたな。さしたる問題ではないか。


「ユノさん、私は大丈夫ですから。こちらに来て体も丈夫になりましたし」


どうやら委員長はユノと言うらしい。恐らく一時間後には忘れているだろう。特に覚えておく価値はないな。


「用事はですね、何故、戻って来ないで城を出たのか聞きたくて追いかけて来ました。もし、大人数に聞かれたくないような事情があるのなら個人懇談でも」


「厭だから。それ以外に理由はないな」


率直かつ端的に答えを口にする。ここで時間を浪費するなど論外。何の益にもならない行為は続けるべきではない。早々に断ち切る。


「レバート、アナスタシア先生が真面目にきいてるんだからさ、もう少し、君も真剣に答えたらどうだい?」


こいつは何となく覚えているな。イケメンだとか女子にわーきゃー言われてたやつだ。興味ないが。あと陛下の方がイケメンだ。これがイケメンだとか女子どもの目は腐っているな。


「至って真面目だ。大真面目だとも。俺が戻りたくない理由はこの国の、この世界の、人間どもが信用できなくて、厭だからだ」


「信用できないだなんて、人を信じられないなんて、そんな生き方は悲しいですよ‼」


人を信じられない生き方が悲しいか。確かに古来より、猜疑の心は悪徳だとか言われてきたが、本当にそうだろうか?いや、違う。


「信用なんてそうそうできるか。人間は信用できない。裏切る、直ぐに殺す。その事を教えたのは他でもないこの国の人間達だ。違うとは言わせない」


「ふむ、マクロン氏よ。このまま人間に怨みがあるのは分かった。ただ、寝床の問題はどうするかね?」


えっと、クラスメイトの、の、何だったか、まぁ一先ずデブでいいか。デブが話しかけてくる。マクロンか。久しく呼ばれなかった名だ。しかし何故こやつらは普通に他人と話せるのか不思議だ。


「レバートと呼べ。名字では呼ぶな。その名は捨てた。あと寝床などさしたる問題ではない。1ヶ月位であれば無休憩で戦い続けることは可能だ」


「⁉ ふむ、ではレバート氏よ。その事には概ね同意だが、本当に戻りたくはないのかね、何か未練の情は?」


「そこ概ね同意するんだ」

「そう言えば彼の能力、エネルギーを溜め込める、だったっけ」

「自家発電もできるからエコだとか言ってたよ」


「未練の情?この国にか?欠片すらない。俺にはこの世界で唯一、信頼でき、尊敬と忠誠を誓える御方がいる。俺がこの世界に存在する理由はその御方に恩を返すため、そして仇には徹底的な復讐を以て返すためだ」

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