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虎の尾

「ちょっいと待て、先に勧誘すんな‼おい、獣王国に来るんや」


「いいや、帝国だな。帝国は力至上主義だ。きっと性分も合うぞ。我が国に来い」


「フハハハハ、何やら面白いことになっているな。男なのが惜しいな。いや、わえの伴侶とするか?」


【思考加速】を使っているはずなのだが全く状況に着いていけない。いや、正確には大体何が起こっているのかわかるのだが、あまりにも突然過ぎて脳が認めない。


「あー、先ずは順番に並んで自己紹介な。はい整列」


「なにしてるんですか。貴殿方、国の長でしょう」


国の長とか言い出したぞこの聖女。マジか。長かー。国王的な?帝国とか言ってたから帝王とか皇帝か。獣人-動物の耳とか尻尾とか生えた奴ら。魔族に着いた犬系、狼系、狐系のコボルトを除いた種族の長だから獣王か。


あと一人、一人だけ俺がゾクッとするような言葉を言いやがった奴。そいつだけ本気でイヤな予感がする奴。アマゾネスっていう強靭な人間の女性部族の女王か。


ここにいるのは全員が全員頭が可笑しいとしか思えないような一騎当千を具現化した猛者たち。逃亡は不可能。ボロが出ても困るからなるべく多くの者とは関わりたくはないのだが、流石にこんな状況は想定していない。というわけで、聖女に丸投げ。

がんばれー。(超棒読み)


「兎も角、先ずはレバート、貴方の今までの説明を‼ちなみに、嘘は見破れるので無意味ですよ」


丸投げしたのにまたこちらに投げられた。チッ、誤魔化せなかったか。唐突な展開でうやむやの内に煙に巻きたかったが世の中思った通りにはいかないものだ。


「まず、その魔眼はどうしたのですか」

「死にかけたら発現した」


「髪の色は?」

「カッコいいだろ。かなり気に入っている」


「武器の類いは?」

「貰った。性能よくてびっくりだわ」


「どこで修練を?」

「山奥の別荘で師匠に訓練つけてもらった」


「その師匠とは誰ですか」

「師匠は貴様らのことは嫌いだ。というわけで恩を仇で返さないという観点から教えない」


「全く似合っていない片眼鏡は?」

「師匠に貰った。というか、それを聞く必要はないだろう」


「真面目に答える気はないのですか」

「貴様ら相手に真面目に答えてやる義理などないな」


嘘は見破られる。ならば嘘でなければいい。嘘ではないが真実にたどり着けないような答えで煙に巻く。聖女も嘘と断定できない以上、何も言えない。


「魔族に仕掛ける日だけ教えろ。その日に合わせて動く。だが、貴様らに合わせる気はない」


「ッ・・・・・・。分かりました。十日後の明朝、仕掛ける予定です」


「十日後、明朝だな。他に何かあるか?なければ、干渉するな」


「なぁ勇者、勧誘云々、戦力云々の話を抜きにして、帝国に来る気はないか。活気もあっていい街だ。きっと気に入るぞ」


「俺を勇者と呼ぶな。俺は勇者などではない。一緒にされては困る。だが帝国か、興味はあるな(軍事的な意味で)。こんどまた、機会があれば訪れよう(偵察的な意味で)」


さて、一番聞きたかった情報は聞けた。これ以上ここに留まるのは得策ではない。早々に立ち去るか。十日後明朝、それに合わせるよう、軍を動かさなくてはいけない。


ただ、問題点としては、あまりにもあからさまだと今後の俺の立場が危うい。そこは考えどころだ。どうしたものか。また後で考えるとしよう。



※※※※※※※



「行ったか。後をつけろ」


「おい獣王、どういうつもりだ」


突如部下に命令させた獣王に対して皇帝が詰め寄る。あれほどの戦力とここで敵対しておくのは下策も下策。アマゾネスの女帝や聖女もそう思ったのか、非難するような目線を獣王に対して向ける。


「話の最中に思ったんやが、どうもあいつは胡散臭うてしゃーない。ちょっとばかし本性覗かせて貰おう思おてな」


「見つかってもわえは知らぬぞ。その場合、責任を負うのは貴様一人、精々、深淵を覗いたときに覗き返されぬように気を付けるのだな。フハハハハ」


「一人の責任で済めばいいのですが、最悪、敵対されかねませんから」


「いや、うちの奴らを嘗めてもらったら困るわ。うちのは優秀やから、そうへまはせんやろ」


「そちらが失敗しなくても向こうに感づかれる可能性はありますよ」


「そりゃ、楽しみや」


「集まった理由を忘れて貰っては困りますよ」


謁見の間の扉が開かれ、長身でやけに耳が尖った長髪の男と、背の低い、だが風格のある髭面の男が入ってくる。魔法が得意なエルフという種族の長と、物作りが得意な、魔族で言うコブリンの役割を担うドワーフという種族の長だ。



※※※※※※※※



レバートは背中にひしひしと感じる悪意の元を辿る。これが単純に知りたいという欲求ならばそれは悪意ではなく好奇心だったが、怪しい人物の偵察となれば悪意が混ざる。正確にはそれがなくても、気づいただろう。


少量の悪意を辿り、二人の追手の居場所を特定し、その方を一度たりとも見ずに二人のうちの一人に呪炎を放つ。黒き炎は闇に紛れ、音を越える速さで誰にも気づかれずに暗殺者のように近づくと、まるで生き物のように蠢き、飲み込み、悲鳴すら上げさせずにその命を奪い去った。


そこに残り、もう一人の追手の目に入ったのは先程までは生きていた、今は全身が満遍なく焼け焦げ、苦悶の表情を浮かべながら倒れる仲間の亡骸だった。


追手は怒りをレバートに向ける。だが、怒りとともに視線を向けた先にあったのはただの夜の街並み。そこにレバートはいなかった。


逃げられたかと追手は更なる怒りを燃やす。だがそれは全くの検討外れ。追手がレバートの姿を探っていると、音もなく、首に夜の冷気を吸い付くしたように冷たく、硬い金属が突きつけられる。


「ヒッ‼何・・・・・で」


「何で気づいた、何でここにいる、辺りか。それだけ悪意を垂らしておいてよく言う口だ。貴様らの長に伝えろ。これ以上するなら、それ相応の覚悟をしろ、とな」


そう言って突きつけていた槍をしまい、悠々と歩き去ろうとするが、少し足を止めて振り返る。


「あぁ、一つ、いい忘れていた。その汚ならしい焼死体は持ち帰れ。俺の前に晒すな」

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