謁見
「レバート殿。王がお呼びです。謁見を」
現れたのは近衛騎士という王族専門のボディーガードたち。全員が全員、この世界の人間の二番手クラスの実力を持っている。敵ながらだが、こういう奴を前線にださずに王族だけを守らせるのは実に愚かな行動に思える。
「却下だ。何故貴様らに予定を決められねばならん」
陛下と過ごした時間が長すぎて陛下の口調が移っている気がしなくもないが、こういうときは堂々と反抗する。元人間だが今は魔族。人間に従う気はない。
「無礼だぞ‼」
近衛騎士が剣の柄に手をかけ、鯉口をきる。一触即発の状態。流石、反応が速くて隙もない。聖女には全員及ばないが、連係次第では面倒な敵。
「殺りあうか?」
だがあえての挑発。上から目線で、「ニヤッ」と擬音語がつきそうな皮肉的な意味でのいい笑みを口にうかべて見せる。剣や槍が抜かれ、こちらへ向けられる。
「待ちなさい‼」
鶴の一声。耳に大声だが澄みわたり、心地よい、されど憎たらしい声が入る。間違うことなどない。先刻戦ったばかりの聖女の声だ。
「レバート殿、王に会いなさい。貴方には今までどこで何をしていたか、説明責任があります」
「もし、断ったら?」
言外に断ると宣言しながら問いかけ、相手の反応を伺う。少なくとも聖女にはこちらを殺す意思は今のところ無い。近衛騎士がどうかは知らないが、無暗やたらに戦力を殺す程上の人間は狂ってない筈だ。一回殺されかけてるし自信はないが。
「その場合は、死なないが動けないというぐらいまで痛め付けて問い質します。貴方も多勢に無勢と言うことは理解しているはずです。その上で懸命な判断を」
「多勢に無勢とか逆境には慣れているんだが、一先ず会うくらいならいい」
本当に多勢に無勢には慣れすぎといっても過言では無いほど慣れているが、聖女がいるとなれば話はかなり変わってくる。サシなら何とかなるがそこに近衛騎士がいるのが面倒だ。
「ではこちらへ」
聖女は皮肉的な意味での実にいい笑みをその口にうかべていた。やられるとこんなムカつくのか。ちょっとどや顔というかしたり顔なのが余計にムカつく。
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謁見の間的な場所につく。正直趣味が悪いというかギンギラしすぎで金とか宝石の配置が悪く、全く調和がとれていない。魔王城は何と言うか上手く噛み合っているのだが、こちらのは盛れるだけ盛った歪で不愉快な門だ。
こういう細かいところのものの配置とかデザインに国王のセンスとか傲慢さが見え隠れする。絶対に性格合わないことが今、確定したな。
「では、どうぞ。勿論私も追随しますから、力付くで逃げようとしても無駄ですよ」
「しつこい女は男にモテないぞ」
「お生憎様、まだ伴侶をもつ予定はないので。それに、貴方に嫌われようと構わないので」
面倒だ。どうあってもこちらを逃がすつもりは無いらしい。聖なる女で聖女だよな。間違ってないよな。なんでこんなに性格悪い皮肉屋なんだ。他の、前までの聖女もこんなものなのか?
「お主がれば・・・・・・本当に同一人物か。同じ人間には見えぬな」
本当に同じ人間かと言われれば違うな。主に人間とかいうところが。人間辞めて三年たつし。そろそろ自分が魔族であっても違和感無くてむしろ人間として扱われることに違和感を感じる。
「で、用は?貴様らの為に使う時間なんて無いんだよ。さっさとしろ」
「ぶ、無礼者めが‼近衛騎士、そやつを抑えよ!」
やっぱり、思ったとおり堪え性がない傲慢な王。住み家はその者を現すな。しかも嫌らしい肥えた豚みたいな見た目。髭も全く似合っていない。ウチの陛下は超絶イケメンだぞ。
嘆息しながらも襲ってくる近衛騎士たちを捌く。流石、小さい代わりに小回りが効いて物作りが得意なコブリンの長に作ってもらった品々。聖女と戦っていたときも思ったが思ったより使い勝手がいい。
相手は四人。少し距離をとる。【威圧】を使い、相手を怯ませる。その一瞬怯むだけの時間があればワンアクションとれる。【無機物操作】を使って石畳を変化させ、串刺す杭にする。
その杭が近衛騎士の鎧を喰い破り、臓物を抉る予定だった。だが唯一硬直しなかった聖女の障壁によって杭の先端は折られ、鎧に防がれ、結果としては衝撃を与えただけ。骨を数本は折れたかどうかといったところだろう。
「王の御前ですよ。矛を収めなさい」
「正当防衛だよ。先に攻撃してきたのはどっちだ?」
「貴方の実力であれば殺さず無力化出来たでしょうに」
「そんな面倒なこと、俺がいちいちすると思うか?」
腰の抜けた戦争の時代にあるまじき国王を見もせずに淡々と話を進める聖女。王の御前とか言っていたが、使えると思った程度で別に王に対して興味は無さそうだ。
「いやぁ、実に結構。レバートと言ったか?端的に言おう。帝国にこい‼」
ジリジリ見つめあっていた最中に突然の珍客が現れる。
「はぁ?」