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俺を刺した剣はあるか?

あの戦闘を終えて、今は同じ部隊になる戦った二人と自己紹介的なやり取りをしている最中だ。といっても俺なんか見事に陛下の掌の上で踊ってた道化みたいなものだ。


「シャドウとコボルトのハーフ、カイザーだ。名字は無い。よろしく頼む」

「悪魔とオーガのハーフ、凉白夜空です。よろしくお願いします。今回の偵察任務、頑張りましょう」


カイザーと名乗ったダガー使いの方は金色の髪の毛以と目外は基本的に影でコボルトの犬耳と犬尻尾も影でできていた。一目見ただけではよく分からないが、男らしい・・・・シャドウの性別分かりづらいな。


凉白と名乗った弓兵の方は白銀の髪に澄んだ水色の氷結ノ魔眼(氷の礫や氷の矢はこれで生み出していたらしい)、白磁の角に悪魔の魔紋が植物の蔓のようにある。


一見淑やかでおとなしい綺麗な女性にしか見えないが、歩き方や所作に所々よく鍛え上げられている者がするような動きがある。余談だが、結構な馬鹿力を持っている。


「レバート・アーラーンだ。たしか悪魔2オーガ1ゴーレム1くらいだったはずだ。今回の偵察任務で見たことは他言無用にして欲しい。そこのところ頼む」


元人間だったということがバレると色々と不味い。俺が殺されるくらいなら別にいい。元々死ぬはずだったのを命拾いしただけの死に損ないだ。


だがそれで陛下の威光が地に堕ちることだけは決してあってはならない。俺ごときのせいで陛下が失墜したとなれば命を絶とうと償いきれない。


「大丈夫ですよ。事情は全て聞き及んでおります。元人間ということも、人間に対する果てしない怒りがあることも」

「昔のことは問題ではない。今、陛下に対して忠誠心を持っているのなら些末な問題だ」

さすがというべきか、相変わらず根回しが早い。


「基本は貴方が偵察。カイザーの能力を使って私とカイザーは貴方の影に潜り込み、そこから外を眺め、聞き、情報収集。早急の場合は私の念話で国に伝える、それでよろしいでしょうか?」


「了解した」

「問題ない」



…ーーーー


影の中に潜ったカイザーと凉白。これからは顔を出すわけにはいかないので、念話で話すことになる。レバートは魔王特製、姿変換アーティファクトで角を隠している。


『あー、あー、聞こえていますか?』

『こちら、魔力感度良好。オーバー』

『こちらも通信を確認。これより任務開始です。まずは何処に向かいますか?』


『聖光教会に殴り込みに行く』


『・・・・はッ!?』

『ちょっと教皇に貸しがあってな。取り立てついでに殴り込みに行ってやろうと思ってな』


そう言うとしれっと衛兵の目を何てことないような素の顏で欺きながら王都の大門を通って中に入る。完全に犯罪だが全く気にしない。


馬鹿みたいにでかいので滅茶苦茶目立つ教会目指して家を軽く飛び越えながら行く。気配を遮断しているので町行く民衆は全く気付かない。

あっという間に教会にたどり着き、受け付けに行く。


「教皇と会う約束をしているのだが」

「あの、今日は特に教皇様に御用事は無かったと思いますが、日を間違えたのでは?」

「そんなことない。教皇にレバートという名前と『俺を刺した剣はあるか?』とだけ伝えれば分かる」


自然に言ったつもりだが、少し威圧感がこもってしまったのか、受付嬢が少し怯えた目をしながら問いかけてくる。


「・・・・それはどういう?」

「あぁ、すまない、何、ちょっとした合言葉だと思ってくれ」

「分かりました。伝えます」



…ーーーー


コンコン

「すみません、教皇様、レバートという方が面会の約束があると言ってこられています」

「何、レバート・・・・そんなまさか」


教皇の頭を焦りが埋め尽くす。かつて一度殺そうとした者の名前を語る者が面会を求めているという現状。あり得ない。そんなまさか。


暗殺任務を与えた部下は何故か死に、レバートは夥しい量の血痕を残して消え失せた。血液の量からして死は間違いないだろうという報告を思い出す。


「えっと、「俺を刺した剣はあるか?」という言伝てを預かっているのですが」

「本物だ。通せ」


本人ならそれ以外に選択肢はない。今勇者に殺されかけたことを伝えられたら不味い。不味すぎる。通させるように言ったあと、直ぐに神殿騎士と暗殺部隊を呼ぶ。


「暗殺部隊は天井裏に、それ以外、神殿騎士は私の側に控えよ。レバートを名乗る者が来た。何かあれば殺せ」


神殿騎士と暗殺部隊が一様に目を見開く。彼らは最弱勇者暗殺計画を知っている面々だ。それ故にこのことが露見する不味さを知っている。


「ハッ」


皆一様に恭しく礼をして、持ち場へとつく。間もなくして、ドアが叩かれ、受付嬢の声が聞こえる。


「レバート様をお連れしました」

「入れ」


教皇の膝が揺れ、手からは滝のような汗が流れる。緊迫感が部屋中を走る。扉が開かれる速度がやけにゆっくりでスローモーションのように感じられる。


「よう、教皇。三日ぶりだな」


髪の色、目付き、そして身に纏う圧倒的な圧力のような雰囲気。全てが以前とまるで変わっているがその声だけは全く変わっていない。たしかにレバートの声だ。


「何が目的だ。告発する気か」

「いいや、別に今となってはどうでもいい。まぁ友人もいるもんでね。こちらの要求は一つ」


レバートが教皇にぬるりと、されど神殿騎士が反応できない速度で奇妙に這い寄り、耳元でぞっとするほど冷淡な声で囁きかける。


「何も無かったことにして、干渉するな。以上だ」


神殿騎士が後ろから槍で突くが、見え透いている。レバートはワンステップで容易に避ける。神殿騎士と一気に距離を詰め、全身鎧の首の隙間に手を入れ、掴む。


「下手な動きはするなよ。上にいる連中もだ。した瞬間、こいつの首を折る」

「うぐッ、アッ、放せ」

「うっせぇ。ちょっと黙ってろ」


赤黒い雷が迸る。憤怒ノ魔眼派生技能雷電魔法、雷電耐性。三年間の修行の間に手に入れたスキル。炎熱魔法と同じように怨念の雷を放つ。


「こういう風に敵対するなら殺す。しないならほっといてやるから手出しすんな」


そういって持ち上げた神殿騎士を無造作に放る。興味がないから今は放っておく。敵対したら殺す。時期がくれば殺す。ただそれだけ。命をなんとも思わない語り草と威圧感で教皇も神殿騎士も黙りこむ。


「あぁそうだ、あいつらは何処にいる?」


あいつらとは勿論他の勇者だ。集団召喚。異世界においてごく普通の高校生だった彼らは突然日常を奪われた。

勇者として救って欲しいと教会の奴らは言うが、ちやほやされるだけでは戦争用の奴隷と変わらないとレバートは考えている。


「わ、分かった。案内させよう」


教皇は震える声でなんとかそれだけ言った。

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