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時空の彼方

更新遅くなった上に短めです。ご容赦を。

「ヤアヤアヤアヤアごろうじろ!ボクこそは神。ボクこそが神!遠からんものは音に聞け。近くば寄って目にも見よ!ってネ。ボクこそが中立神。遊興の神嘘つき(ゲレン)さ!」


 突如現れた神を名乗る貫頭衣を纏った少女。


「戦争を終わらさんとする英傑たちが殺し合うとは何たる矛盾。何たる悲劇」


 周囲の目を気にも留めずに声を張る。


「ソレをボクは許さない」


 巫山戯(ふざけ)ているのかとも思ったが、その巫山戯た雰囲気は一瞬で消え、シリアスが漂う。


「……だからサァ。やり直せヨ。キミたち」


 愛らしい少女の顔に似合わない冷酷な声が、どことなく反響した。



※※※※※※



 それとは別にレバートだけに聞こえる声。無機質な機械音声を思わせるソレ。


《同調開始。対象認識。状況補佐及び術式設定開始。情報開示》


 レバートの頭の中に複雑怪奇な紋様が勝手にインストールされる。レバートのしようとしていたことを可能にする奇跡の御業。


 時間遡行。


 人の身には余る所業を成し遂げようというのだ。その術式の名は時間操作式ゲレン=スピメット。


 実はゲレンにとっては自分の創った術式に自らの名を刻んだのは割りと黒歴史だったりするが、魔法式の場合は一度定着させてしまった名を軽々しく変えることは出来ないので渋々使っている。


『ちょっと怖がらせてゴメンネ。魔王クンと嵐の王、だったっケ。あの子達は命を燃やして使い潰す気で今戦ってる。魔王クンにはもう目的は告げてある。後はキミとボクで成し遂げるだけサ』


 確かにこの術式、方程式としては完成しているのだが、使う機会が無く、ゲレンも一度も使ったことはない。つまり、未だに机上の空論なのだ。


『さて問題。操作に必要なプロセスは?』

「理解。そして掌握。最後に起動」

『宜しい。ザッツライト!』


 頭の中に広がる図面を隅から隅まで見る。規則性の無いくせに矢鱈と長くて多い図形が描かれている魔法式。数字を図形に置換し、表現しているのだ。


 つまりは膨大な数式であり、それに文字を加えることで意味を成している。完全理解など不可能。これは魔法であって魔術ではない。法則を完全に無視し、世界を逸脱した法だ。


 ゲレンですら、何故時間操作などという芸当が出来るのか何となくでしか理解できず、方程式として完成していても何故完成しているのかすら分からないのだ。


『というわけで、この術式に関する理解は早々に諦めるようにネ。世界の時間概念と進行速度、その他諸々の理解、行ってみよう』


 とんでもないことを言い出す。時間についてだけとはいえ、膨大な銀河の全てを理解しようなどと無理にも程がある。また、つまりはこれを継起にこの銀河は宇宙から少し切り離されることとなる。


 何れ揺り戻しが起こり、世界法則秩序の中に戻るであろうが、それまでこの銀河を独自に自立させ、運営すらしなければならない。


『力を抜いて、思考に没入。周りは少しどころでは無いぐらい五月蝿いかも知れないけど考えないでネ』


 すっとレバートの気分が落ち着く。砂塵が降りかかるが、それを完全に意識の外に追いやる。


『そうサ落ち着いて。キミなら出来る。何せ今はボクと同調しているからネ。一心同体の運命共同体サ。どちらか片方が死ねばもう片方も死ぬけど。余談だったネ』


 さらっと爆弾発言を投下するゲレン。然れどもう、レバートがその落ち着きを乱すことはない。仮令、どれだけの苦行がその身に起きようとも。


 豪々と燃え盛っていた憤怒の炎はその身を潜め、今の心は凪。波紋や波の一つもなく、風の揺らぎすらない静寂な時の止まったかのよう。そんな大海と見紛うほど巨大な湖。それが今のレバートの心。


『つまりサ、言いたかったのはネ、キミは今神の権能を使えるってことサ』


 神の権能を最初に把握。限界値を設定。次に世界理解に入る。


『時間操作何てヒトの身に余る権能。魔族になって多少丈夫になったって、訓練受けて強くなったって同じサ。その魂は人族も魔族も変わらないからネ』


 所詮、人も魔も神という絶大な存在からすれば等しく弱者であり、無価値。


『あと千年くらい生き延びて、訓練して、神になれずとも仙人にでも成れたら別だけどネ』


 そんなもの到底現実的ではないとゲレンは否定する。実際のところ、レバートならやってのけるのだが、そんな話は今は関係ない。


「銀河半径七万光年。時差測定。ブラックホールを解析……時空が歪んでいる。どうなって……」


 高速で演算をしながらも、レバートは今までにない程落ち着いていた。不可解な謎の前にも慎重に対処しようとしていた。それは自分を守護し、必死に戦闘を繰り広げる魔王に対する信頼の現れでもある。


 だが、その静寂は突如破られた。鼻血が噴き出す。それと同時に吐血。


『ダメだ、ダメだヨ。もう一度落ち着いて。あくまでやるのはキミなんだ。ボクはあまり手出しできないからサ。自分の力だけで対処しない。何のためにキミの目はあるの?その目は第二の脳であり、魂であり、キミ自信サ』


 魔眼は生きている。その回路と機能を十分に使うようにとゲレンはレバートに言い聞かせる。


『ン。そうさソレでいい。ブラックホール何て気にしなくていいのサ。あんな所、元々時空が捩じ曲がってるから今さら作用しようがしまいが一緒だからネ』


 あんな超重力場は計測などせずに切り捨て独立させた方が得策だと進言する。工場の最終検査で不良品を見つけるかのように、一切の無駄を削いでいく。


『でも注意。魔眼は励起させてもその憤怒には呑み込まれないでネ。心を凪がせているということは、少しの出来事でその均衡が崩れるということだからネ』


 湧き出ていた憎悪をサラリと流す。その憤怒は大切で忘れてはいけない復讐の糧だが、今暴走させるものではない。冷静さを取り戻す。


「次は……

『アァ。理解の段階は完了したかナ?なら次は掌握だけど、ここは簡単だし、大丈夫だよネ』


 掌握の段階に関しては理解したモノを操作するための下地を作ることが目的であり、難易度的には難しくない。


 問題は次の起動だ。


『不可解術式を起動させる準備は出来たかナ?それじゃあ、やってみよう!』


 この世にあってあらざる法。普段使っている魔法がこの下位互換であり、所詮は紛い物の魔法。魔術でもない半端なモノであることをよく理解させられる。


 最大限に魔力を励起させる。充血し、白眼まで真っ赤に染まった瞳をカッ!と鬼の形相で見開く。魔力菅とミスリルの疑似魔力菅が煌々と輝き、レバートの体を彩る。そうして、魔力供給体制を整える。


「さて、幾ら魔力を持っていかれることやら」


 勝負ッ。と少し息を漏らし。口を引き締める。また途方もない演算を繰り返す。今度は更に深く。長く。時間が加速し、一秒が一時間に。一時間が十時間に。十時間が二十四時間に。


『さぁ。偉業の始まりサ』


 永劫の中手繰り寄せた奇跡。然れどレバートはそれに集中し過ぎていた。


 心臓に強烈な傷み。顔に降りかかる血。


「防げなかったか。レバートよ。まだやれるか?ならば命を張った甲斐があるというものよ」


 ジギルの血だった。そして自分の受けた攻撃はジギルが防御し、最後にはジギル自らの体躯を以て威力を減衰させたアルセナの攻撃だと理解した。


 怒髪天を突く。冷静だった心の内は一瞬で荒れ狂う。理性は再度落ち着けと命令する。だが、感情と励起させていた魔眼がそれを許さない。


『馬鹿!今激怒すれば今までの努力が全部台無しになル!』


 だが、神の声ももう聞こえない。限界まで憤怒ノ魔眼を働かせていた代償は大きかった。聞こえるとすればそれは怨敵の声か、或いは……


「戯け!戻れ!そして自らの成すべきことを見直せ!」


 強引に、体の痛みを堪えながらレバートの腕を引くジギル。唯一無二の崇拝する相手の声。レバートの全身が否応無く反応する。


「だがこのままではッ!」

「言い訳は要らん!目的を見誤るな。絶対命令だ」


 レバートは始めてジギルに逆らった。ソレだけ暴走していた。だがジギルもその上から更に冷や水を浴びせる。


「良いか。死んでやるつもりは毛頭無いが、流石に主神クラス相手にこの装備では部が悪い。出てこれても精々雑魚だと思っていたが、よもやこんな裏技を使われるとはな」



 太陽神の先見の明を侮ったが我が失策よ。と自嘲し、死にかけの体を瞬時に修復。魔力が湯水のごとく消費されていく。よく見れば同時に勇者天使も押し留めている。


「さて、ヤーレア!行けるな?」

「ハッ‼誰に向かってものを言っている。我こそは魔族にその者ありと謳われ、人間を震撼させし、偉大にして絶対なる嵐の王であるぞ!精々我が威光に平伏せよ!」


 双方【覚醒】スキルを再使用。元々死まであと僅か。ならばその僅かの時間、精々暴れてやると死にかけの体を酷使する。


 既にジギルの眼中にレバートは映っていない。それでもその背中は、成すべきことを成せと未だ語りかけ続ける。


『落ち着いたかい?途中完成の術式は保護しておいたヨ。全く、どうなることかと思ったけどネ』


 再び脳をフル回転させ、思考(至高)の世界に入る。ゲレンの栄養失調かと思うほど細い腕が、小さな手がレバートの背中に抱きつき、包み込む。


『キミにも見えるかな。あの境地が。サァ。行くヨ!準備はいいかい?シートベルトは確り締めて。それじゃあ出発、レッツゴー!』


 何時の間に記憶を覗いたのか、レバートのもとの世界にしかないような言い回しでおどけて見せるゲレン。背中から抱きついてきた姿勢そのまま、前方を指差す。


 実在するが非実在。世界にあって世界の外。そこでは、時間概念が幾つもの未来に分岐していた。


 真っ暗な世界。されど光るものがある。過去未来現在。あらゆる時間軸だ。


『綺麗だよネ。あの無限の分岐が可能性のミライ。蝶の羽ばたきで変わるような運命サ。一応言っておくけどサ、アレをどうにかするのは今のキミじゃ無理だからネ』


 あらゆる色の様々な道。それぞれが膨大な情報量を持っていて、視界に納めた瞬間。


『下に全天の夜空(ソラ)見たいに堕ちてる、星のようなものがあるよネ。アレは潰えた可能性。そして現在に平行して並んでいるのがこっちも無限の平行世界』


 眼下に広がる満天の星空。自分達が選ばなかった未来があり得なかった過去となり、散りながら輝いている。全てが価値のあるものだった。  


 横に広がるは本来交わる事の無い現在。その殆どが似通った現在を迎え、ちらほらと自分と同じように自分の世界を見つめ、過去に介入しようとしている自分がいる。


『向こうのボクも向こうのキミに言い聞かせてるだろうけど、どんな災害が起こるか分かったモノじゃないからサ、彼等とは関わらないようにネ』


 曰く、世界融合による天変地異。地は割れ雷光が轟き嵐が荒廃した野を舐め尽くすという。


 平行世界を見ていると、見えてくる自らの世界とは違う分岐を辿った世界。愚かなままの自分がいたり、幸せに暮らす自分もいる。


「まさか、聖女が伴侶になる世界線があろうとはな……」

『羨ましいかい。悔しいかい?ソレとも愚かしいと蔑むかナ。でも、気にしないで。アレはキミであってキミではない赤の他人サ』


『サァ。過去を見据えて。世界を飛んで。そして世界を救いにいこう!復讐者に救われる世界何て愉快だよネ♪』



 そして時は巻き戻り。


 再び運命は動き出す。

語源解説

ゲレン=スピメットについて

ゲレンはそのまま。彼女の名前から。

スピメットはフランス語で時間という意味のtempsを無理矢理逆向きに読んだだけ。

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