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狂犬再来

 嗚呼!


 一歩遅かった。


 だが間に合う。


 起死回生の一手。


 時間。時間だ。時間さえあれば!


「フッ。オレが貴様を守りきってやる。許可しよう。存分にやれェ‼」

「……了解ッ!」


 感無量。これほど信頼できる背中が世界に、いや宇宙に幾つあることやら。


「クハハハハ!忘れるなよ?我もまだ死には遠く、死を運ぶ風の調停者たりえることを‼」


 嵐の王、ヤーレア・シルバーも立ち上がる。


 そう。残ったのは三人。だが、まだ間に合うのだ。



※※※※※※



 神が聖女を喰らった。森神を追うことすら難しくなるほどの月神アルセナの猛攻。三日月を象った光の刃による多重層攻撃。


 回避反撃で手一杯。目にも止まらぬ速度で剣槍を振るい、【無機物操作】にて操るマフラーで打ち落とすレバート。


 警戒なステップでギリギリではあるが回避する凉白。だが、今や呼吸は荒く、肩で息をしている。


 一番疲弊しているのは鍛炉。もともと大規模攻撃用砲台とでも言うべき、魔剣を振るうことしか脳のない役割。少ない手持ちの魔剣で精一杯対応する。


 せめてどちらかを封じられればいいのだが、森神も勢いを取り戻し、レバートたちに猛攻を仕掛ける。


 その魔族劣勢不利状況を打開したのは九十九。音もなく忍び寄っていた格闘家が拳を森神の横顔目掛けて振り抜く。間一髪、腕を交差させて防御体制をとる森の神。


「チッ。流石に暗殺者の真似事は無理か」


 身軽な布故、多少の衣擦れ音はするが、金属鎧を仕込んでいない分、身軽で静寂。


 仕掛ける連撃。拳と蹴り、時には頭突きや角の突き刺し、体当たり、噛み付きに投げ技など、何でもありのバトルスタイルで間合いを離さない。間合いが遠くなれば、近接戦に特化し、遠距離攻撃手段の少ない九十九が圧倒的不利だからだ。


 苦肉の策で森神は全方位から九十九を突き刺そうとするが、凉白のそれよりも更に洗練された舞踊のような歩方と身のこなしで、余裕の無いギリギリではなく、最速最短を追求したたがゆえの余裕あるギリギリで回避。


 勢い余って自分で自分を貫きかけた森の神。真剣勝負の間で自滅するなど、笑い話にもならない。


 間一髪で逸らすが、それが大きな隙。左手で森の神の腕を掴んだ九十九は綱引きのようにその腕を強引に手繰り寄せ、同時に右の拳を振り抜く。両方から近づけば当然、威力は高くなる。


 心臓の上、胸骨を的確に捉える。ねじ込む。胸骨粉砕、肋骨すら衝撃で破砕される。それが疑似肉体であり、肉体に然程の意味がなくとも、肉体へのダメージは動きに直結する。


 神も流石の再生能力を誇るが、一方的な殴打。森の神は近寄るまでが長い。転移は無効化し、その大樹が行く手を阻む。


 が、それだけの入念なる対策は近づかれたくないということの裏返しだ。近接戦に持ち込まれれば不利となると理解しているからだ。


 レバートたちには一切説明せず、少し悪いことをしたと思っているが要するに、九十九はレバートたちを囮にしたのだ。


 だが九十九は彼の親友たる嵐の王のごとく、神を殺しきる術を持たない。そうであれば今までのことも必然、無意味。


 しかしいるのだ。確かにそこにはいたのだ。目には見えなくとも、気配を感じずとも。神を殺しきる術を持った者が。囮作戦を囮にした強者が。それは確殺の毒。英雄を殺し、不死者を不死ではなくす水蛇の猛毒。


 魔王の創りし宵闇から切り裂く無明の暗殺者。その両手のダガーが森の神の体を抉り裂く。


「んなッ!?……馬鹿な」


 そして隙は隙を呼ぶ。精緻で美しい物ほど、壊れるときは一瞬にして崩壊する。例えばそう、森神の布陣などがいい例だ。


 たった数秒、去れど数秒。絶対零度の氷結矢が、黒炎纏った人影が、その数秒間に森を駆け抜けた。否。飛び抜けた。


 着弾。森神が氷結の柩に閉じ込められる。一見、冷凍保存。しかし決して、コールドスリープなどではない。凍柩は確実に森神を殺していた。毒が回ったその体と、神にとっての脳であり、心臓であり、体の全てである神核を、じわりじわりと殺していく。


 無論、対策を講じる。中から氷の監獄を突き破らんとする。だが、彼が氷の柩を抉じ開け破壊する寸前、外部から凍柩を突き破ったものがあった。


 それは氷を融かした。それは突き進んだ。それは彼の肉体に致命の傷を刻んだ。それは矢だった。だが先程のものとは真逆。全てを焼き付くす魔の黒炎を纏った一矢。


 続くニ矢、三矢。見るも無惨になる。ただ動きを、行動の自由を確実に奪う。そして止めの一矢は……


「嗚呼あああぁぁぁぁ!」


 叫びよりも速く、光のごとく到来する投げ槍だった。それは体中を縦横無尽に駆けていた神核を的確に打ち砕いた。


 崩壊が始まる。神としての生が今、終焉の危機を迎えている。


 助けるものは……いた。


「情けない。しかし、不利も事実。いいでしょう。日蝕を果たした私が相手致します。だがら………死ね死ね死ねぇ!」


 新月と満月のような両極端な言葉。この世界に降り立つ唯一無二の同業者。月神アルセナ。見捨てないことをレバートたちは意外に思いつつ、警戒を露にする。魔王やヤーレアも合流。


 突如。煌めく光。それは満月であり、それは門であった。人の言う天界、神々の創造した仮宿、その異界に通ずる門。


「限定的に数秒しか出られ無いの?あら残念。でも、絶望を与えるには十分よねぇ?私はあくまで仲介業者のサポーター。でもね。この方は正真正銘」

「■の神の御名■■■■の下に、呑め。津浪」


 上手く聞き取れなかったが、その後に続く言葉で理解できた。これは海の神だ。偉大にして強大と恐れ戦かれ、太陽神や創造神などの最高の一柱に加えられる海神だ。


 数秒しか顕現できないという言葉通り、直ぐに門は閉じた。

 大津波が起こされた後で、だが。


「我が下に寄れ!……決して離すなよ⁉」


 ジギルが叫ぶ。全員が統制のとれた動きで即座に集合。自分に抱き付く様を見届けたジギルは球状のバリアを展開する。


 濁流が押し寄せる。その水は黒かった。災害の黒水は禍々しく荒々しく地上を、何と王国民を巻き込むことなく、ただ魔族だけを蹂躙した。


「ハッ‼雑兵どもを連れてこなくて良かったな!だが……これは些かッ」


 濁流に、荒浪に呑まれながらも魔法の維持、そして壊れた部分の修復を行う。自分に掴まる部下たちに掛かる揺れによる加圧もあり、集中を乱される。


(球体内を跳ね回られるよりはマシか……)


 黒と白の水に紛れ、遠くで黄金が光る。濁流の一部が凍る。密度の差によって直ぐに浮上しようとするが、その前に消滅した。濁流が蒸発し、一瞬のことだったが、津浪の中に、大海の中に、トンネルができる。


「砲撃か!よくもまぁここまで正確に狙えたものよ。よくやった。凉白!」


 ここまで荒浪に揉まれていれば狙撃などできない。かといって、面制圧の大砲撃ならいくらなんでも予兆の一つや二つ出るだろう。予兆を察知したときに避ければいいとたかを括っていた。


「全員、衝撃に備えよッ‼」


 ジェット噴射の要領で球体バリアを高速移動させる。加わる今までの比では無いほどに圧倒的な重力。自分の体重の十二倍。人間ならとっくに意識を手放している。されど加速は続く。従って圧力も更に増加。


 過去に感じたことの無いレベルの気持ち悪さを感じながらも全員、津浪圏を脱出する。固まらず、距離をとってアルセナの一挙一動全てを見張る。更に出力が上昇している。瀕死の森神を取り込んだのだ。もちろん、本人の許可を得た上で、だが。


 アルセナは時と場合によって激昂憤怒狂気に至ることもあるが、別側面では寛大で慈愛深い、秩序と和を重んじる神でもある。


 先程は聖女を無惨にくびり殺したが、それはあくまで聖女が元々太陽神の系譜の神のためのリソースであったこと、アルセナに余裕がなかったことなどが原因であり、普通の人の仔であれば丁重に扱う。


 無論、大切な食料として、だが。


 故に警戒。些細な動きでも見逃すまいと集中する。全神経が張り詰める。それは正解だったのか不幸だったのか。張り詰めていたからこそ気が付いた。が、アルセナに集中していたが故に間近まで近寄られた。


 レバートの首筋だけに走った悪寒。咄嗟にマフラーで元凶のソレを受け止める。それは輝きを濁らせた不壊の剣であった。


 ソレを握っていたのは、……【狂犬】。そう表現するしかない獰猛な肉食獣の笑み。宵闇の中でギラギラと輝く、瞳と鋭い犬歯。殺意と愉悦が混同した狂喜。


「【狂犬】、ロジェラ‼貴様、まだ死んでいなかったか」

「いやぁ、死にかけたぜ。でも‼お前がいるのに死ぬわけには、いかねぇよなぁ⁉ヒヒヒヒヒ☆!」


 レバートは即座に戦線離脱。ロジェラとアルセナ。どちらも同時に相手するのは流石に無理があると判断した。アルセナに至っては、ステータス値で換算するとレバートよりも格上。


 知恵と技と駆け引きではレバートは勝れるが、単純なパワー勝負では神の前で、【覚醒】系統のスキルや【憤怒】を使わないで勝てるほど強くはない。


 その上、同格か少し下くらいのロジェラを相手しなければいけない。死がすぐ側に近付く。


「デュランダル⁉マジかよアイツ。おいおい。レバート!ソイツは……

「分かってる!」


 武器の質で上回られた。グラムやグングニルは特殊能力が存在するタイプだが、デュランダルは瞬間的に莫大な魔力を放つことは出来ても、それ以外に大した能力はない。言ってみればただ一秒だけ切れ味と射程を上げることしか出来ないのだ。


 それだけでも、十分に脅威だが。


 デュランダルの真の強みは決して壊れないその武器としての最高品質性能。いわば絶対性。


「どこでそんなものを……」

「ん?落ちてたから拾った」


 そんなわけないだろ。そう思いながらも手は止めない。正面のロジェラ。背後のアルセナによる無差別光線攻撃。勇者失格とはいえ、現状では味方勢力の可能性があるロジェラすら巻き込むそれ。


 真剣勝負に邪魔が入れば怒るロジェラだが、最早光線は両者に降り掛かる自然条件。天災の一部として諦めていた。


「はい。隙ありぃ!」


 光線を避けた際に脇腹を貫かれる。対するロジェラは光に貫かれながらレバートを攻撃していた。何のこれしき。そう考えていたが、甘かったと理解させられる。


 デュランダルが光る。溢れ出る膨大な魔力。熱。レバートの体を真っ二つに切り裂き、尚もその射程は健在。丁度直線上にいたのは


「凉白ォ!」

「……ッ⁉」


 真っ二つに成った半身を殴り飛ばして凉白にぶつける。魔力光よりも速く飛んだ半身は原子単位で崩壊しながらも盾と成って凉白を守った。何が起きたのか理解に苦しむ凉白だが、それどころではない。


 【再生】スキルによって即座に回復が進むが、流石に体の半分を一瞬で再生という訳にはいかない。今回は頭こそ無事だが、右半身がゼロの状態から回復しなければならない。


 先に足を回復させ、転びかけていたところをなんとか踏み止まると、異空間からアベンジ・ヌスクを取りだし、槍の間合いで応戦する。


「【再生】か。いいなぁ。幾らでも殴れるじゃねぇか!」


 【再生】のスキルを持つものが余りに少ないため余人には知られていないが、本来は致命であった傷から回復する際には死という肉体からの解放が許されず、激痛が常に走る。


 レバートはそれを【憤怒】によるアドレナリンによって押し流しているが、それでも尚、そよ風が吹くだけで痛い。


「【憤怒】【真狂化】!」「……解除ッ!」


 時間にして0.1秒の発動。その僅かな時間でロジェラを蹴り飛ばした。体の奥底、魂の根底、そしてその瞳から自身が焼け焦げるような激怒の感情が噴火する。激痛をも完全に忘れる感情の嵐を押さえ込む。


「今度こそ、さらばだ!」


 数秒経って尚ほとんど地面と水平に飛び去っているロジェラに向けて、双剣を連結した弓を引き絞る。つがえられる矢はこれまた巨大。いや、巨大なのも当然。それは矢ではなく槍だ。黒炎と紫電に包まれ、その正体を隠しているが、確かにアベンジ・ヌスクがつがえられていた。


 閃光と共に音を切り、重力圏を突き抜ける程の速度で駆け抜け、キロ単位で離れていたロジェラとの距離を数秒の間に詰めていく。


 弾着。黒炎が全てを呑む爆発を起こす。常人なら百回は死ぬ程の、核ミサイルレベルの爆発が、王都の郊外にて起こる。煙によって見えないが、死は免れないだろう。


 しかし感じる、いや、一瞬光った悪意の波動。黒炎を突き抜ける光輝の剣。避けることすら叶わない速度で、再生したばかりのレバートの肺を貫いた。衝撃波で顔の半分と胴体の殆どが砕け散った。


 デュランダルによる死に際の一撃。


「見事」


 いずれ【再生】によって修復される傷でも、今は倒れ伏すしかない程の損害を与えた一撃を褒め称える。神々と離別したレバートとロジェラ。二人とも勇者を辞めていたという共通点がある。


 勇者召喚によって呼びだされた勇者。しかし、勇者を辞めた勇者の方が強いとは如何なる皮肉か。


「……付きまとわれこそすれ、彼は我が復讐の対象ではなかったのだな」


 神々に従う愚物ではなく、自分の意思で生を謳歌する。【狂犬】などと呼ばれていたがその実、ロジェラこそが最も生物らしい、人らしい人であったのだ。


 だから褒め称える。だから認める。


 見れば勇者にはロジェラが死んだことによって消滅しかけているが、隔絶空間があった名残がある。本人に言わせれば邪魔させないため。だが根底に隠れた弱者は守り、強者は殺すという意思がそうさせたのかもしれない。


 レバートの憶測にすぎないが。



※※※※※※



「あの調子ではレバートの復帰までは時間が……。ハッ‼いつから部下に頼ってばかりの(オス)に成り下がったのだ。ジギル!そうだ。お前は、一人にして万能の(オトコ)だろう!」


 自分自身を鼓舞する。レバートが戦線離脱した時点で二つの神を統合し、【陽光ノ魔眼】によって強化され、上位神をも上回る存在となったアルセナを相手するにはギリギリだった。


 そして、凉白に向かったデュランダルの極光。レバートによって何とか直撃を避けれたものの、手を負傷した。片手では弓を扱えず、回復しようにも、薬を使う時間すら与えてくれない。ジギルとヤーレアは完全に攻撃で手一杯。


 牽制役として活躍していた凉白が抜けたことによって戦線は崩壊した。氷による牽制だけでは足りない。剛弓と冬。どちらが欠けてもいけなかったのだ。


 凉白の穴を埋めるために無理をした鍛炉の武器が遂に尽きた。自衛手段も攻撃手段も失った彼は満月のような刃に首を絶たれた。このままでは終わると踏み、破れかぶれ、自爆覚悟で忍び寄ったカイザーが死んだ。


 三日月軌道の手刀による一凪ぎ。ジギルによってとある人間の少女の会得していた技術を骨の髄まで叩き込まれた史上最強の暗殺者はたった一撃の下、神に殺された。


 次に狙われたのは攻撃力こそ魔王に劣るが、死の風という万象にとっての脅威を操る嵐の王。アルセナにとっては自身を殺す死神(ジョーカー)に成りうる彼に集中砲火。巧みな蛇腹剣の捌きによって粘るも、限界は来た。


 そんな彼を守るため建てと成った親友にして一番の忠臣。鬼神が死んだ。本来、攻撃を受ければ死ぬような軟弱防御。スピード特化の回避盾である彼は、敵のヘイトを自分に集められなければ何も守れない。


 だから最終手段。自分を犠牲に彼にとっての王を守った。


 臨界を超え、堪忍袋の尾が微塵切りに成ったヤーレア。怒りを糧に甘い惰弱な自分を棄てた。嵐の王の完全再臨。怒れる王はその絶大なる猛威を、かつて以上に振るった。


「嵐の王。アヤツのお陰で何とか保てているが……ッ!」


 圧倒的質量、物量による暴力。マシンガンを何千もの人が一斉掃射しているかのような数と対物ライフルの威力を上回る、魔杖ルシファーによって統制された魔法の数々。宝剣による苛烈な攻撃。


 互角の鎬合いをしている用に見える。だがアルセナもジギルも本気を出しきっていない。アルセナは嵐の王を怖れて。対するジギルは、味方への被弾を避けるために。


 アルセナを殺したければ味方もろとも殺すしかない。アルセナを殺しきることは出来るだろう。しかしそれは死の風ほど便利ではなく、発動までに準備時間がかかる上に味方を巻き込む。いや、星を巻き込む。


 幾ら大義名分があろうとも、辺り一体を不毛の地にしては、神々としていることが何も変わらない。いや、神々よりも酷い。搾取して自分の糧にするのではなく、ただただ大破壊を行うだけなのだから。自然の摂理にすら反する。


 だから神々が攻め入る前に自ら神界へ攻め入りたかったのだ。たが当然、百近い神々相手に一人で不利条件を背負って戦えるほど自分が強くなかったこともあり、不可能だった。故にレバートたちを育てたのだ。


 カイザー、鍛炉、九十九を失ったというのに、更にヤーレア、凉白、レバートを殺し、星を破壊してはアルセナを殺せたところで収支計算ではマイナス。いや、損得勘定の前に、ジギルが完全に捨てきれない情が許さない。


「不味いッ!」


 【冬ノ魔眼】によって右腕を失って尚攻撃し、斬撃を、大太刀をあろうことか片手で扱い打ち落とす凉白が邪魔になったのだろう。


 空間断裂によって光線の軌道を逸らす。超加速した思考で見極める。が、光は軌道修正を繰り返す。敵もまた、ジギルと同じように思考を加速させているのだ。


 心臓を貫く。


 崩れ落ちた。


 それを、ジギルは上空から、ヤーレアは同じ目線で。そして、レバートは惨めにも倒れ伏しながら見ていた。


 憤怒。憎悪。敵に対して。そして今までは沸いていなかった自戒。自分に向けた憤怒。


 自らの惰弱を悔いる。自らの失態を悔いる。後悔後悔後悔後悔後悔!後悔先に立たずとはよく言ったものだ。後悔は失態を犯したときに発生する。


 嗚呼!


 一歩遅かった。


 だが間に合う。


 起死回生の一手。


 時間。時間だ。時間さえあれば!


 それは可能性の光。ゲレンとの会話で思い付いた可能性。


「フッ。オレが貴様を守りきってやる。許可しよう。存分にやれェ‼」

「……了解ッ!」



※※※※※※



『あーあ。仕方ないネ。これはボクが手を出す案件ダ。まっさかあそこまで腐れ外道な方法を選ぶとはネ。それだけあいつらも余裕がないのかナ』

『貴様が動くか……。なれば貴様は現在の地位を、建前を』


『大丈夫大丈夫。彼のアレが成功すれば問題ないサ。もし成功しなかったら?その時は全員纏めて破滅だネ。結局、ボクたちにも後がないってことサ』

『やるしかない、か』


『そうサ、ボクらにはそれ以外に道はナイ。……彼らが何処までよくやってくれるかだけどネ。それは未知数。だからキミも、準備はしておくといいヨ』

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