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真名解放

「捨て身で、必死で、良くやったよ。お前は。なぁ、我等が王。今はもう王ではなくなったけれども。お前は間違いなくオレ達の王だった。神をも越える暴風の化身にして嵐の王だった」



※※※※※※



「再臨した王の凱旋を見せてやろうではないか。鬼神。酒の貯蔵は充分か?宴の料理も忘れるな。天使ごときが我が前に立つなど笑止千万。我は嵐の王だぞ?」


 瞬間、死の風が吹き荒れる。無惨に崩れ落ち、塵と化して消滅する天使たち。巧く避けた天使も蛇腹剣に首を裂かれ、膝から倒れる。


 一瞬。十六翼天使の高度な処理能力を以てしても出た結論は《理解不能》。余りの惨劇に何が起こったか分からない。そしてこの惨劇は容認出来ない。


 確実に殺すべき。その一点だけは確定している。何としてもこの嵐の王を名乗る魔族を殺さなくてはならない。これは神々にすら驚異に成りうる。


 例えこの身を犠牲にしてでも、


「今ここで確実に仕留める。戦闘用回路、全解放。魔力炉、全稼働。急戦型移項、完了。統率権廃棄、統率個体移項、完了。神罰執行、開始」

「よかろう。来い。踊ってやる、木偶の坊」


 蹂躙だった。確かに天使は持てる最大限を利用し、自らを使い潰して戦った。ただ、単純に相手がそれよりも強かった。近付くことすら出来ず、されど防御力の高さと性能故に簡単に死ぬことも出来ず、毬のように弄ばれる。


「……損耗率、九十五%戦闘続行、不可。最終機構移項、……」

「妙な魔力の集まりだな。……これはよもや、」

「自爆、か。取り残しの片付けと負傷者の避難は終わったぞ?」

「鬼神よご苦労。そして正解だ。あぁ、実に見覚えある光景だ。……懐かしいな」



※※※※※※



「吹き荒れろッ!死の風ェッ‼」


 崩壊、瓦解、風化、消滅。城跡は更地へと生まれ変わり、更地はクレーターに生まれ変わる。岩盤だろうと関係ない。硬さや防御力など、そこには関係ない。死と消滅の概念その物の風なのだから。


「宵闇を霧散どころか逆に食い潰すか!だが、その出血量と魔力残量では限界であろう」

「なれば、魂を喰らい潰させよう。この身を犠牲にしてでも貴様を、殺す!」

「何度その自己犠牲を止めろと言えば分かるのか。殺すには貴様は余りにも惜しい」

「情けなど要らぬ。殺すなら殺せ」

「と言っても貴様、大人しく殺される気などなかろう‼隙有らば我が身を狙っておるのが犇々と伝わるわ!」


 あらゆる防御を無意味にする死の風。唯一相殺しうるのは宵闇。だが、元々風と霧では相性が悪いために押され気味。


 けれども、このまま耐えきれば、程無くして敵は自壊。ジギルの勝利となる。


「ええい、そこのオーガ!貴様もこの直情悪魔に何か言ってやれ‼」

「無駄だな。既に奴にはオレの言葉など聞こえないだろう。そもそもオレは見届け人だ。口を挟む権利はなく、されど、嵐の王の配下を代表してこの仕事を全うしなくてはならない」


 佇む九十九。絶え間なく攻撃に晒されようとも、避けるだけなら出来る。反撃などする余地はないが。そしてその絶技の応酬をその双眸に、両の眼に焼き付ける。


 極光が放たれた。風が消滅させる。尚も風の勢いは止まず。それを宵闇が相殺する。拳を以て殴り掛かる。蛇腹の剣が収束し、防ぐ。それでも振り抜く。吹き飛ばされる。


 神話対戦の場では魔力が満ち溢れ、濁流のごとく暴れる。人間よりも頑健な魔族で有ろうとも、軍人であろうとも侵入すれば魔力の大海に溺れ、泥酔し、倒れ伏すだろう。


 九十九ですら既に意識に影響が出ている。快悦かと思えば苦痛、体が悲鳴を上げたかと思えば極楽のごとき夢心地。肉体的疲労の上から圧迫してくる、地獄と天国を連続で行き来しているような感覚に吐き気を催す。


「全て沈め、津波、洪水、雨霰。顕現せよ神代最大の大洪水。地をも大海に変えよ。方舟すら拒む狂乱の母よ!【原初の大海】」


 その日、魔族の街だった場所は、海に沈んだ。天罰等ではない、人為的なものだと誰が思えただろうか。この荒れ狂う前生物の母の顕現が神も、星の意思も関係なく、一個人の作為的行動だと、一体誰が予想できた。


 避難誘導が終わっているのをいいことに、城どころか、首都ごと戦場に変える。王。人民の為の存在が、最早人民の脅威。滅亡の天災。


 誰かが住んでいたという証はとうに消え、そこは万物の母たる原初の大海へと立ち返った。


 そして、気紛れな海には、嵐がつきものだ。流されず、呑まれず。佇み、君臨する。


「海は得てして荒れるもの。荒れた海には嵐がよく似合う」

「チッ。これでも無理か」

「ゴホッ。ゲホゲホッ!……無茶苦茶にも程がある。見届け人や審判が死ぬような戦いとはこれ如何に。海水の魔力濃度も高過ぎる。どれだけの神秘を秘めているんだ。未開の魔境の海かこれは?」


 諸に海水を飲んだ九十九が水を吐き出す。何とか、この都市で最も高い城壁の物見櫓の上によじ登り、尚もその戦いを見る。それしか出来ないから。


 海が大蛇のごとく襲い掛かる。うねり、飛沫を上げながら嵐の壁を突破せんとする。嵐の壁は上方以外全てを閉ざしており、真下から奇襲をかけることも出来ない。


 嵐の壁の中は全てが拒絶された空間。その座標をレーダーなどで調べれば空白が写るだろう。何もない、何も検知できないが、その空間は空いている。故にそこに何かある。そのような世界に現れた異空間。捻曲がった空間。その性質ゆえに空間断裂すら阻む絶界。


 しかもその全てが死の風。水流はポンプ車も真っ青な勢いで嵐の壁目掛けて打ち出されるも、消滅。僅かに浸入した海水が水刃と化して襲い掛かるが、避けられ、散らされ、無為に終わる。


 両者決め手がない。両者ともに爪は剥がれ、鼻、耳、目、口。あらゆる穴という穴から鮮血が間欠泉のように吹き出し、筋系は悉く断裂している。


「カハッ……………

(そろそろ、限界か。魔力はもう雀の涙。死の風を全てぶつけても恐らく奴は生き残る。敵わなかった)


 万策尽き、死を待つのみとなった。


「オレの勝ちだ。諦めよ」

「あぁ、矢尽き刀折れ、舌を回す力も殆どなく、眼光を以て射貫こうにも目は血で何も見えん」


 されど不敵に笑い、もう既に見えていない目線をジギルへ向ける。眼光などないと言っているが、その眼は失明しても尚、煌々と揺めき輝く光を放っていた。


「……あぁ、だが‼それは諦める理由にはならん」


 ジギルが目を見開く。未だ尚諦めず、猪突猛進。風で動かない体を無理矢理押し、見えないのだから避けれないと割り切って、ノーガードで突き進む。


「チッ。馬鹿め。それでは唯の的だ」


 正面からレーザービームをぶつける。極大の虹の光が絢爛豪華に輝き、対象を呑み込む。それでも止まらず突き進む暴風塊。


「身に纏う風の全てが死の風か⁉戯け。それは貴様自身の身体をも蝕むであろうに。仕方あるまい。魔杖ルシファー、拘束解除。第一門、展開完了、第二門、展開完了。第三門、調整中。同時並列展開。第四から六門、展開。第三門、調整完了」

《魔杖ルシファーからの最終認証。第七門、展開しますか?》

「イエス‼」

《認証完了。全門、フルオープン。直列配置完了。魔力収束開始。マスターからの魔力供給を要求します》

「ええい、全部持っていけ!」

《了解。予測演算開始。敵到達まで残り……攻撃準備、確実に間に合わず》


 ジギルの持つ最高の武器、魔杖ルシファー。その脅威故に平時は封印している機構を解放、及び起動。


「戯け。オレが与えるのは攻撃ではない。……祝福だ」

《発言意図、理解。軌道修正完了。魔力装填、完了。システムオールグリーン》


 死滅覚悟、自爆の乾坤一擲。自らの体を風に任せ、投げる。大砲のごとく放たれた肉体が終にジギルを捕捉する。


「後は任せた。鬼神よ。其は死病運ぶ災厄の風。……全部、吹っ飛べェェェェッッッ!」

「天の恵みを地の豊穣を。其の風はきっと運ぶであろう。祝福の風よ。星の息吹よ!」


 暴風が吹き荒れ、海を吹き飛ばし、ドームを形成する。


 壮絶無比な潰し合い。直接破壊能力の一番低い風魔法によって巻き起こっている現象だと、何人が理解できるだろうか。余人の理解の範疇を越え、神代を越える神話の現象。


 ガリガリと、互いの魔法を削り合う。一歩踏み外せば死。神経を酷く磨耗する。その潰し合いを制したのは、



※※※※※※



「昔の我を見ているようだ。ここまで愚かだったとわ思わなかったな」


 昔、自爆でジギルを消し去ろうとした懐かしい思い出を回顧する。今となっては自らの命を捨て去る賭けなど笑止千万。不毛で馬鹿げている。ただ、昔はそんな簡単なことにすら気づけなかったなと、自分の愚昧さを呪う。必死ゆえに沢山の物を見落としてきた自分を。


「あの祝福を返すとしよう。呪われし機械よ。神造の心なき兵器よ。安寧の死を。もう貴様が、身を粉にすることはない。星の息吹。そして、死の風」


 全部、全部。命令も宿命も使命も、体から溶け落ちて、そして、庇護も保護も束縛も隷俗も運命も柵も無くなって、一瞬。その生の中で余りにも短い時間、唯一自由になった後、消えて塵となった。



※※※※※※



 落ちる、堕ちる、墜ちる。


 嵐の中、星の中、大海の中、そして世界の果てへ、


 パシッ。


 その手を掴むものがいた。


「死ぬな!」


 最後まで見届けた鬼神が、嵐の海を潜航し、その手を離さず浮上する。


 崩れ落ちた街を抜け、緩やかに倒れくる城壁を割り、そして暗澹の海から光輝の世界へと抜ける。


「カハッ。ゴホッゴホッ。ゲホッ‼」


 肺の中の水を吐き出し、今にも崩壊しそうな櫓の屋根の上で大の字に寝転がる。


「負けたのか」

「あぁ、だが生きている。生きている限りお前はやれる。そういう男だ。幾度となく致命傷を与えても這い上がってきた。下剋上でもなんでも出来るんだ。だから、死ぬな。お前の命は他者よりも数段貴いと言うことを自覚しろ。その双肩に掛かる重みを理解しろ」

「すまんな、我は、オレは駄目だ。あーぁ。結局、ただのひねくれた田舎者の小僧に出来るのはここまでだってことだ。……ははッ」


 自嘲気味に嗤う。卑屈にもなる。自殺覚悟の特攻が生きて帰れる程度に手加減されていなされた故に、実力差に打ちひしがれる。打ちのめされる。


「卑屈になるな。胸を張れ。貴様の敗北の原因は武器の質だ。最後もそうだ。我が放ったのは星の息吹たる祝福と豊穣もたらす風。丁度貴様の死の風の対極の風だ。故に、その概念と概念がぶつかり合えば互いに相殺し合う。であれば、後はただ純然たる出力の差だ。魔杖ルシファーの増幅能力がなければ、押し負けていたかも知れぬ」

「そうかよ。……生かされた上に慰められるとは、随分落ちぶれたもんだな」


 その言葉を聞いたジギルは顔をしかめ、露骨に失望感を醸し出す。怒り、嘆き、期待外れ。そう言ったものだ。


「戯け‼胸を張れといったであろう。そもそもオレに貴様を生かす気など更々無かったわ!そこの鬼神が助けたからこそ貴様は生きている。そうでなければ貴様は今頃海の藻屑よ。だというのに何故貴様は卑屈になる⁉張り合いがない‼オレが音に聞いた嵐の王は決して諦めぬ‼不屈にして無敵の王だ。ならば何度でも我が首を獲るくらいの勢いでなくてどうする」


 たじろぐ。こいつは何を言っているんだ、自分の首を獲りに来いとか頭おかしいのか?などと疑問が頭の中を駆け巡るが、そんなことは全て何もかも森羅万象一切がどうでもいいほど、


 ───愉快だった。


「プハハ。何だよそれ。……って言うか卑屈で悪かったな。元々はこういう性分でな。王と祭り上げられていた時は気を付けていたが、今はどうでもいい」


 自分は元々こうだと、割り切って笑う。


「確かにオレが負けたのは事実だろ?だからオレはお前に仕えるさ。そこでお前の執政を見る。もしそれが本来の目的と反したり、悪だと判明した時は、……死の風が容赦なく貴様の首を断つぞ」


 負けたのだから従うのは道理。されど、それが悪政であれば遠慮なく叛逆すると、最後、少し嵐の王に戻る。最後の警告。


「よかろう。まぁ、そのような日はこないと思うがな」

「抜かせ。完璧なんて誰にも出来ないだろ。……神でもな」

「あぁ、だからオレは神を、あの憎たらしい神々を越える!」



※※※※※※



「いや恥ずかしッ。恥っず。昔の俺、よくあんなこと言えてたな。………というかさっきもかなり恥ずかしかったけど」

「回顧しておいて感想はそれか。やはりそう簡単に再臨とはいかないか。トラウマとは時間をかけて向き合わねばな」


 十六翼天使のエリート型を倒し、一段落。だが休んではいられないのが悲しきかな現実だ。


「現状、王国は?」

「取り返されたな。聖女が王都入りしていたから出来る限りの嫌がらせはしておいたが」

「いやまぁアレは無理だろ。天使大量放出はキイテナイ」


 レバートの問いに二人が答える。


『全く、腑抜けたな。それで我が首が獲れるのか?』


 突如魔王からの念話。その場の全員が目を見開く。


「獲る必要も感じんのでな!……馬鹿正直に話すやつがいるかよ。こういうとこ傲慢なのかアホなのか」

『ンンッ。聞こえておるぞ?』


 適当に茶を濁したあと、毒づく。が、その毒舌は見事にジギルの耳にジャストミート。きっと彼には書類業務が大量に斡旋されるだろう。

 合掌。


「陛下。何用でしょうか」

『本題に移るか。端的に言う。王都を再奪取、そして神々の降臨を阻止せよ!』


 来たか。そう身構える。取られたら取り返し、また奪い返す。奪い合いの連鎖。神々をこの世界に降ろしたいヒト側と神々を神界に留めておきたい魔族側。平行線の奪い合いだ。


「さて、失態は取り返さなくてはな」

「精々暴れて陽動でもするか。……あぁ、全く、めんどくせえことこの上ないが、───嵐の王の出番だな‼」


 二人の長が陽動をしてくれると言うのだから頼もしい。先程の強さを見たばかりだ。大船に乗ったつもりで任せるレバートら四人。


「では我々はその間に内部へ侵入、儀式を破壊で宜しいでしょうか?」


 凉白が掌に向かって上から拳を打ち付ける。掌に乗っていた小石は粉々に粉砕され、跡形もない。


『あぁ、その石のごとく、再起不能なまでに潰してやれ。オレも天使を片付け次第向かう。国取りはそれからでもよい。先ずは儀式の破壊だ。無論、出来るな?』


 そんなことを言われ、期待を乗せられ、誰が否と言えようか。決して同調圧力などではない、確固たる自信を以てイエスと答える。


『では、作戦開始といこう』



※※※※※※



 王都 教会 神殿



「敵襲、敵襲‼」

「どうしましたか?」

「伝令します、聖女様。王都正門付近で先程まで王都を牛耳っていた魔族が暴れております。数は悪魔とオーガの族長と思われる二名。内、悪魔の方は先代魔王が失墜した時に暴れまわったという、嵐の王を名乗っております」


 その言葉を聞いた面々に緊張が走る。嵐の王といえば、数々の勇猛の英傑を葬り、先代魔王ですら殺せなかった聖女を殺しきった化け物。勇者の面々ですら、魔王の次に警戒すべき最重要魔族と伝えられている。


 最近は何故か戦場にそれらしき魔族が現れず、死んだものと去れていたが、


「あの悪魔の長が、嵐の王……?」


 聖女と命からがら、逃げ延びた皇帝が呟く。天使の足止めでギリギリ逃げおおせたのだ。獣王は瀕死だが。


「皇帝閣下は彼と何度か戦ったことがありましたね。私も戦闘経験はありますが……」

「あぁ。故に、そのような化け物とは。しかし、今【遠観】で映っているのは何だ?あれがこの間までの奴と同じだと⁉」

「───爪を隠していたのか、一時的に弱体化していたのか」


 ベールで顔を隠した神託者までもが、神殿の最奥から出てくる。相変わらず、どこを向いているのか、何を考えているのか全く分からないが、それでも警戒の色は見える。


 その時、


 パァン


 神殿の岩扉が軽い音と共に蹴破られる。


「おおっと、これはこれは、来たタイミングが良いのか悪いのか?帝国から尻尾を巻いて逃げてきた皇帝閣下と聖女様ではありませんか」


 そこに喧嘩を売るようにレバートが現れ、陰湿な笑みを浮かべ、挑発する。


「貴方は……!今まで何を‼」

「レバート君⁉」

「ちょっと魔王直属の特殊部隊とやらに喧嘩売ってな。ドワーフ国の黒い太陽は俺の仕業だ」

「あんな化け物たちに一人で喧嘩を売るとは、豪気だな」

「じゃああの狂犬は!?」

「貴様が祖国を⁉……敵を倒して護ってくれるのではなかったのか!」


 ドワーフ地下帝国からの難民が怒る。その中にはレバートと会った者も多数いる。


「あぁ。敵は殺したぞ?契約違反ではないな。その反動でちょっと国が崩壊しただけだろ。一応中には入れたし、あの娘は鍛冶をしていたぞ?狂犬は、知らないな。巻き込まれて死んだかもしれないが。責任は取らない」

「見殺しにしたって言うの!?いくら彼らが、……少しアレだとは言え、見殺しなんて」

「なっ、族長のご令嬢はまだあの国に⁉」

「戦場じゃ生死は自己責任だ。ああ、彼女はいい武器を造ってくれたぞ?」


 アベンジ・ヌスクを地に突き立てる。バターを焼いたナイフで切り取るようにスルッと、魔法で保護されている筈の神殿の床が切り裂かれる。


 レバートの黒炎を使って素材を融かし、鍛えられた品だ。レバートの持つ憤怒の対象、即ち、神聖な物への特効を持つ。更には黒炎の増幅など、徹底的にレバートの為の武器だ。


 実際のところは、鍛炉との合作なのだが、それは伏せておく。


「で、貴様は今更現れて何をしようとしている?」

「前にそこの神託者や聖女には前に言ったが……」


 アベンジ・ヌスクを神殿の奥、供物を捧げる為の台に向けて怒りを顕にする。


「神を喚んで何とかしてもらおうってのが気に入らない‼」


 槍が振るわれると、黒炎が斬撃を纏って飛ぶ。それを反射的に神託者と聖女が全力防御。勇者も皇帝も、武器を構える。


「───何を」

「ムカつくんだよ!俺たちを関係ないところから巻き込んで。死地に赴かせて、挙げ句の果てに俺たちはただの呼び水で?誇りもクソもなく神様とやらに全部任せようってか‼」

「我等を愚弄するか」

「んじゃあ何が違うんだ。言ってみろよ。ああ?」


 燃える。燃える。燃える。グツグツと岩をも沸騰させる灼熱が巻き起こる。耐熱ように魔法で保護されていない全ては燃え、熔ける。


「───見解の相違だな。──勇者を呼び水と言うかは議論の余地がある」

「無いな‼そんなものはァッ」

「落ち着いてください。レバート君、話せばきっと分かります」

「俺からしたらあんたたちが何でそっち側にいるのか不思議だな。先生、生徒の安全が最優先って言ってたあんたまで神に毒されて!」

「私は今でも反対で。それでもやるしか帰る方法はないから‼」


 交渉は最初から話し合いをする気がない相手には通じない。そして、レバートには神に協力するなどという選択肢は頭の中にはない。殺す一択だ。


「───彼の沈静化を。───殺すには、惜しい」

「難しいが、やるか」

「皆、なるべく傷付けないように」

「今にそう言えなくなるぞ?」


 レバートの言葉の意味を計りかねる全員。これ程の戦力が惜しくなくなる理由が何処にあるというのか。


 だが、レバートからすれば当然である。何故なら、互いに、創生以来の悠久の怨敵なのだから。今後も千年以上続く戦争の相手なのだから。


「もう言っていいですか?」


 レバートが先程までと一転。敬語を使い、誰かに許可を求める。何を言うのか、話し相手は誰なのか。その答えは直ぐに分かることとなる。


『よかろう。許可する。なに、完全に敵対し、今日でこれを片付ける以上、言っても言わずとも未来にはさして関わりない』


 念話。その相手は聞き間違うはずかない声。人類の最大にして最凶の敵の声。


『魔王、トイフレン・ジギル・アーラーンの名の下に許可する』

「「「「「ッ!?」」」」」


 驚愕する面々を他所に、少々、ジギルに先に見せ場を取られたが、それでも堂々と、レバートは名乗りを上げる。


「我が名はレバート。レバート・アーラーン(・・・・・)!魔王直属特殊部隊隊長にして、貴様らの首を断つ復讐者なり‼」


 復讐鬼の殺戮が始まる。

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