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タイムリミット一週間の世界征服

「ボクたちはね、端的に言うと君達の協力者サ」


 邪神、レゼブネラルを差し置き、遊興の神ゲレンの、最強の嘘つきによる独白が始まる。それはどんな役者や声優、あるいは詐欺師の語る言葉よりも美しく、耳に響く、妖艶な声音。


「もちろん、タダで協力する気は更々ないヨ。こっちだってやりたいことの百や千はあるからネ。まぁ、それは流石に欲張り過ぎかな。でも、君達は寧ろ無償の善意よりも取引の方が信用できるだろう。いつかベルフェゴールが言ってたネ。欲深き者こそが一番信用できる、とか」


 答えは肯定。無償の善意など、疑うべき対象以外の何物でもない。無償の善意を振り撒く者がいれば、そいつを真っ先に疑うべきだ。しかし、ここで伝説のサキュバスの名が出てくるとは。神話に語られる伝説の魔族たちは神とも知り合いだったのか。少し驚く。


 しかしこのままでは話が一向に進まないと判断したレバートが【声帯変化】を使用した、より低く、ハスキーな声に殺気を乗せて問う。


「もって回した言い方だな。結局何が言いたい。端的に要求を告げろ」

「あぁ、怖い怖い。ちょっとは待とうヨ。安心してネ、ここは時空から隔絶されているからネ。外に戻っても時間の経過はないはずだから」


 今一つ信用できず、どうしても疑ってしまう。たまにいる、疑わずに、直感的に信じられる者の真逆。対極に値する直感的に、絶対に信用できない者。これもある種の才能なのだろうか。ならばこんな才能は、これだけは絶対に要らない。


「あ、今、不敬なこと考えてるでしょ。チミィ、仮にもボクは神だヨ。まぁいいけどネ」


 いいんかーい。全員が内心で突っ込んだ。なんならレゼブネラルはゲレンの頭を叩いていた。


「イタタ、まぁ、要求は……──


 これまでのふざけた雰囲気を全て消した遊興の神。思わず唾を飲み込む。神々しい少女の姿に、不覚にも圧倒された。


「あの神を、いけすかない外来種どもを、どうか殺して欲しい」


 静寂が訪問する。三指を地に付き、深々と頭を下げる遊興の神ゲレンと邪神レゼブネラル。憎悪と、屈辱と、入り交じった様々な感情を渡された気がした。この二柱もまた、復讐者。レバート・アーラーンの同類なのだろう。


 最初の静寂の破壊者は魔王陛下であった。


「ハッ、良かろう。何、オレも諸事情あってあの神どもに多大なる殺意がある。利害の一致。素晴らしき哉。やってやろうではないか。ハハハハハハッ‼」


 そしてレバートは魔王ほど大声ではなく、先程の作ったハスキーボイスでもなく素の声。素の音量で答える。それは、つい先日まで非力な学生だった者の声。絶望に立ち向かうために三年の苦行の連続に耐えた男の確固たる意思。

 全幅の信頼をおける、遊興の神とは真逆の声。


「その復讐、叶えよう。我が憤怒に誓って」


 ゲレンの返事は、悠久の時を生きる老獪な者のそれではなく、幼子のような純粋なる者の声。長年蓄積した語彙の欠片もない言葉。見惚れる。美しいではなく可愛らしい。庇護欲をとても唆るものだった。


「ありがとう、ありがとう。本当にありがとう。ボクはここに誓おう。ボクの全てを賭けて協力し、対価を払うと、ネ」


 遊興の神は声高らかに宣言する。



※※※※※※



 結論から言うと、とても有意義な時間だった。帰ってきて見れば本当に時間は経過していなかった。ゼロ時間であれだけの情報を手に入れられたのなら上出来も上出来。


 遊興の神の加護も得られれた。凉白、カイザー、鍛炉は邪神の加護だが、俺だけはゲレンの希望もあり、遊興の神の加護とやらを手にいれた。効果は、よく分からない。


 勝負強くなる力。ここぞという場面で大きな賭けをしたときの成功率が増すという加護。実際どの程度かについてはまだ判断は下せないが、それなりに優秀そうだ。


 そして、俺が教わったことは二つ。先ず憤怒ノ魔眼について。元々憤怒ノ魔眼はゲレンの所有物らしい。大罪系、戒権系、美徳系の三系統、合計21もの最強の魔眼を所有していたらしい。

 が、しかし、戒権系と美徳系は情けないことに外来種の神にとられたとか。しっかりしろよ、遊興の神。


 過ぎたことはここまで、この魔眼。憤怒ノ魔眼。奴に言わせれば開花に限りなく近い蕾らしい。もうすぐ、惜しいところまで行っているが、あと一歩足りないらしい。


 年季、才能、時間、様々な要因が魔眼の開花には存在するが、こと大罪系においては単純にして至難。究極の感情が必要となる。


 神託者と出会ったとき、かなりいいところまでは行っていたらしい。故に、もし宿敵たる外来種の神に出会えば、自然とトリガーとなり、自動的に恐らく開花するだろうということ。


 そしてもう一つ。【操作】のスキルについて。操作はゲレンが残した唯一のスキル。神の遺産の一番のハズレ枠。使いこなすためには相当な才能が必要となる。

 因みに、余談だが、魔眼は正確にはスキルではないらしい。スキルやステータスというものが生まれる前から存在していたらしい。


 ともあれ、相当な才能が必要となる理由。それは【操作】の、一つのおおきなイレギュラー性故らしい。【操作】の力は運命を変える能力。


 世界革変のチカラ。


 遊興、ゲームの神を名乗りながら運命を【操作】するのは、そんなあからさまな超チート。大丈夫なのか?遊興の神は。ゲームするときに絶対に使ってはいけない能力だろう。

 ともあれ、遊興の神は宣言した。君ならば、世界の流れすら変えうると。


 難しいな。【操作】は。まだ、今一つ掴みきれない。何かが、何か足りない。何が足りないのかは全く分からないが。確かに欠乏だけは把握出来る。


 各々が課題を見つめ直す中、陛下が玉座から優雅に立ち、右手を前へ、そこにある何かを掴みとるように突き出し、拳を握りしめる。


「さて、我々は一週間で世界征服をしなければならない。我らこそは世界確変の矢。この腐ったステータス、神の呪縛を打ち破る。誰一人欠けても成せない苦行だ。そこで命令する。けして死ぬな」


 カツカツと靴音を高らかに、一歩一歩踏み締めるように歩き、俺たちの前へと進む。


「王国とアマゾネスの集落は軍に任せた。オレは獣王国と帝国を取る。貴様ら四人はエルフ及びドワーフの里を襲撃せよ。進路上にある街は全て制圧。蹂躙せよ‼」


 最も難易度が高いのが、武力主義、更に会談で聖女が在席している帝国。続いて獣王国。陛下はそれをたった独りで制圧すると言った。絶対なる自信。強者故の究極の傲慢。そこには確かな輝きがある。

 子供のようにただただ憧れた。


 それと同時に、俺たちも期待には報いなければならないという思いがより一層強くなる。


「何、その生を楽しめばよい。一週間で始める世界征服というのも面白かろう?」


 皮肉げに笑う陛下。後に第二次神魔大戦と語られる戦いの幕が上がる。

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