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遊興の神

「ほう、遊興の神……中立神を騙る輩か。外来の神共をこの世界から追い出したもののそれ以降は全く干渉せずにこの世界の危機を知らぬふりしている半端者が今さら何の用だ?」


 強大な力を感じる。神というのも納得の魔力の密度。神託者等とは格が違う。認識することすら叶わぬ常識の範囲外の存在。そんな化け物にあろうことか暴言を放つ魔王。


『魔王クン、確かトイフレンだったっけ。凄い名前つけるよネ。魔族の言葉で禁忌(トイフレン)


「貴様、死にたくないのであればその名で呼ぶな。形式上、初対面の相手には仕方なく名乗るが、なるべくならジギル・アーラーンの名で呼べ」


 静謐な殺気が降り注ぐ。矛盾しているかも知れない。でも、それでも静謐という言葉が相応しいと思う。静かに、冷たくて、鋭利な殺気。


『ゴメン、ゴメン。悪気はなかったんだヨ』


 謎の強力な魔眼を持ち、本来白眼である場所が黒く染まっており、その漆黒に浮かぶ紅き月のような瞳から親に忌み嫌われ、侮蔑を以てつけられた名。それがトイフレン。


 それを本人の前で言うことは死にたいという意思表明に等しいと、魔族最大のタブーにされている事情。神たる余裕故か、禁忌(トイフレン)という言葉を以て禁忌を破る遊興の神、ゲレン。


 ───一体なにがしたいのだろうか。


 その意図を図りかねる。声に抑揚はあるが、言葉では言い表せないような、ゾッとする虚無のような、享楽主義者を気取っているが、実は感情が抜け落ちているような錯覚を覚える。


「それに、……それを言うのなら貴様とて古語で嘘つき(ゲレン)であろう。我が名を馬鹿に出来る身分ではなかろう」

『正確には、僕の名前からとったのが古語での「嘘つき」だけどネ』


 相手を見極める。そのための知謀策謀の糸が言葉の一つ一つに張り巡らされた腹黒タヌキの化かし合い。居合わせ、顔を合わせずとも、気配から嘘の反応、真の意図を読み解く絶技の応酬。


『警戒はしなくていいよ。レゼブネラル、君たちの神にも話は通してある』


 虚空に向かって値踏みするような目線を向けていた陛下の眼が一瞬、驚愕に染まる。だが、嘘の気配が無いことを悟り、真意を問いただす。


「何が目的だ?いや、その前に顔を見せるのが筋というものだろう」

『いや、これでも結構ギリギリなんだヨ。下手に自分のテリトリーから出てこっちの世界にきたら奴等に観測されるしネー。招待するからサ、こっちに来てくれない?』

「よかろう。だが少しでも怪しい動きを見せてみろ、我が怒りは外来種ではなく貴様に向けられると知れ」



※※※※※※



 遊興の神の神域


 遊興の神は見た目は年端もいかぬ少女であった。金色の髪は短く切り揃えられ、紫の瞳は魔眼らしく、奇妙な魔方陣のような虹彩がある。服はこの世界らしくない恐らく石油原料の合成素材によって作られているものだろう。


 石油が発見されていないどころか、蒸気機関すら使われていない、火を使える程度のエネルギー革命第一段階の世界の者とは思えない、文明人らしい服装だった。


 この世界は魔法という摩訶不思議な力はあれど文明レベルは低く、原初の文明の少し後程度。魔法を家電や街の整備に使うこともせず、戦争利用してばかりだ。陛下に提言して魔法スキルの平和利用を進めているが、まだ初段階だ。


 もちろん、こんな外見でも、中身は悠久の時を生きる神の魂が入っている。境界越しに感じていた強大な力は相手のテリトリーに入ったことによってさらに増大している。


「さて、レゼブネラル、出てきなヨ」

「分かっていたか」


 遊興の神、ゲレンがどこかに話しかける。レゼブネラル、我々魔族が崇め奉る神がその姿を現す。その姿は威厳のある男性のもので、……


 ───やつれていた。


 彫刻のように刻み込まれた皺。長く、乱雑に伸ばされた紺の髪と髭は長年手入れをしていないことを感じさせる。


「はぁ、ちゃんと身だしなみの手入れを怠るなって言ったよネ。ハァ、全くキミという奴は。クレアベルが悲しむヨ。それに、自分を崇めている奴等を不安にさせてどうするのサ」


「……、そうだな。見苦しい姿を見せてすまない。奴等の侵攻を少しでも食い止める為に結界の強化に努めていたものでね」


 何か思う所があるのか、言葉の出だしは少し重い。しかしその後は優しい叔父のような口調で話し掛けてくる。


「ジギルには一度会ったことがあるが、他は初対面だね。私はレゼブネラル。地の神レゼブネラルさ。もっとも、邪神レゼブネラルの方が有名かもしれないけどね」


 少しの自虐と共にレゼブネラルが微笑む。

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