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神の降臨

 気づけば、手は自然と武器に伸びていた。右手に槍を、左手に大剣を持つ独特のスタイル。怨雷が迸る。抑えろ、制御しろ、この程度の呪い、飲み干せ、レバート・アーラーン‼


 何とか、魔眼に意識を奪い去られる前に踏みとどまる。ここで計画を崩しては陛下に会わせる顔がない。気づけば、聖女以外は皆、恐怖を浮かべていた。中には汚物を漏らしている者もいるが、それは無視する。


 足音を高らかに鳴らしながら、愚王と教皇を連れて神託者が現れる。ほとんどの者が初対面故、不可思議そうな顔をするが、それも一瞬。


 神託者から放たれるおかしな、狂気を孕んだ魔力にあてられ、平兵士共は皆一様に平伏す。一目で見て分かる。こいつは人間を辞めている。


 アレは人間何かではない。もっと穢れて汚い何か別の者だ。魔力が、濁りきっている。憤怒の泥のような魔力よりも、もっと。


「国民一堂聞け。神託が下った。神の御告げだ。これより、神の代弁者様が語られる」


 魔力式の拡声器によって教皇の声が王都中に広がる。あいつは何をしているんだ。また神託者とつるんで悪巧みでもしているのか?


 まぁいい。殺すのも面倒だから放っておいただけの男だ。あいつにできることなんてない。精々泣き寝入りくらいだ。それよりも警戒すべきは神託者。


「神の御告げを伝える。神代から時を経たこの地に、もう一度神が降臨なさる」


 嘘、だろ?こいつ、まじで言ってんのか?何でだ、陛下の予定ではもっと遅い、少なくとも一年近くかかるはず……


『至急戻れ。神共がやりおった。話をしているのなら手早く話を切れ‼今すぐ作戦を練り直すぞ』


 陛下から【念話】が入る。思念が頭を駆ける。何でだ、どうしてこうなった。贄がない状況なら世界にあの外来種の神が干渉して、割り込むにはもっと時間がかかる。


 魔族の神と遊興の神が神代に、あの外来種の神々に好き勝手させないために追放した筈だ。その術式を破れるのか?どうやって。何で今までそれをしなかった?


「神が降臨するとは、どういうことですか?神が邪神に世界に入れないようにされて、この世界の人を救えないから、私たちが送り込まれたのではなかったのですか?」


 担任教師、アナスタシアが混乱する生徒に変わって問いをかける。この世界に来るときに外来種の神に受けた説明はその通りだ。実際はあいつらが好き勝手したから追放されたのだが。


 原初、三柱の神がいた。今の魔族の神、そして中立としているが何処にいるか分からない遊興の神。外来種の神に殺された女神がいた。


 外来種の神々は女神を殺したことによってその権限を奪い、原生生物である魔族と敵対する種族を創った。それが人間やエルフ、ドワーフに獣人である。


 その蛮行に怒った魔族の神と遊興の神が外来種の神々を追放した。それが正しい真実の歴史だ。そしてこの世界に外来種の神々やその手先、所謂天使というやつらがが入り込めなくなった。


 その術式に穴を開ける役割が、俺たち勇者。この世界の生物として根付いている人間に近い生物に神の力を付与して送り込むことで術式に穴を開ける。


 それを無理矢理広げて神が入り込み、この世界を支配する。それが奴等の真の目的。勇者だ何だとおだてられたが、奴等は道具くらいにしか思っていない。


 陛下の推測ではそれを早めるための贄が俺である。その為、殺されかけた。恐らく教皇は依然会った時の反応を見る限り、能無しを切り捨てるくらいにしか言われていないようだ。


「そりゃ、俺ら送り込んだことで術式に穴が開いたからだろ。というか、最初からそれが目的だったんだろ、なぁ。神共はどうせ俺たちのことを道具としか認識してねぇだろうな。……神託者サンに神共よ、俺が死ななくて、贄がなくて時間がかかって残念だったか?えぇ?おい‼」


 餌を求める鯉のように口を開くクラスメイト。真実にたどりついている奴なんていないだろうから当然か。俺だって陛下がいなければきっと知らないまま死んでいた。


「疲れていらっしゃるようだ。十二分に休まれよ」


「逃げる気か?ハッ、逃げても無駄無駄。教皇から聞いたぞ、貴様が俺を殺そうとしたこと。その他諸々何もかも全部俺は知ってるんだよ‼いいか、今さらあんな昔のことはどうでもいい、ほじくりかえす気もない。俺は俺の復讐を成し遂げる。神共に伝えとけ。この世界に干渉するな‼貴様らが動いていると考えると虫酸が走る。うっかり殺したくなるくらいにな‼」


 駆ける。ここに来たときの何倍も速く。怒りを、憤怒を、怨讐をぶつけるように。行き先を特定されないように距離をとってから転移する。完全なる暴発だ。面目ない。



※※※※※



「見ていたぞ」


 陛下の開口一番はそれだった。何を?等と無粋なことは問わない。まず間違いなくあの暴発のことだろう。感情の制御が甘かった。どんな罰でも受け入れる。


「なに、気にするな。むしろすっきりしたぞ。よくやった。反省すべきはオレだ。隠し事は無駄だ。端的に告げよう。神共に保護していた魂を掠め取られた。貴様の同郷の魂を含めてだ」


 なるほど。原因は俺が殺した二人の魂を奪われたことか。そいつらを贄にしたんだろう。まさか陛下が出し抜かれるとは。


 ステータスとは、外来種の神々が設定した魂魄記録装置だ。これによって魂の軌道を記録し、その者が積み重ねたスキルを喰らう。それによって外来種は力を得ている。いわばこの世界は奴等の養殖場だ。


「悔しいがしてやられた。全ての予定が白紙になった。全種族の代表はもう集めてある。会議をするぞ」



※※※※※



 結果から言うが、収穫はなかった。


 今の状況を語るならば絶望が一番近いだろうか。それとも詰み、チェックメイトか。終わっている。そう判断せざるを得ない。


 元々の予定が年内に世界を征服、宗教の完全撤廃たが、完全出鼻から挫かれた。全ては神々がいないという前提条件の下に成り立っている。


「何か、何かないのか、逆転の一手は」

「最早正面から神を殺すか?オレ対神一匹なら何とかできるが……奴等のは数いる。その手を生かさぬ程愚かではあるまい」


『へぇ、それでも諦めないんだね』


「「「「「何者ッ」」」」」


『おお、全員の反応、ありがとネ。魔王クンに凉白、カイザー、鍛炉、そしてレバート。僕は神。遊興の神、ゲレンさ』

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