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神の謀略

「建物を破壊しておいて第一声がそれですか」

「直すからいいだろ」


 【無機物操作】で土や煉瓦を操り、元の位置に戻したり、接合したりする。その際にしれっと爆破用の呪符を仕込んでおくことも忘れない。威力はそこまで高くはないが、探知に悟られないお手製の呪符。聖女でも察知できまい。


「何、少し余裕がなくてな」

「先日、魔王と戦った後、どうなったのですか?参考までに聞いても?」


 嘘は【直感】系統のスキルによって容易に看破されるだろう。嘘ではないが真実ではない。曖昧な言葉で誤魔化す。至難を極めるな。感情的かつ衝動的な行動をとったが故の苦難か。冷静さを持つべきだったな。


「もし、魔王を殺したことを期待しているのなら残念だったな。圧倒的な実力差だった。まぁ死にかけた」

「つまり……逃げてきたと判断しても?」


 心の中で邪悪な笑みを浮かべる。漫画ならばニヤリというオノマトペがつくだろう。この言葉を引き出せた。この時点で勝ちは確定だ。


 無言を貫く。そしたら相手は勝手に判断してくれる。人は自分の都合のいい方へと物事を理解したがる。全く、愚かで解せないが、それを最大限に利用する。


「無言は肯定の証ととりますが」


 無言は肯定の証。古来より語られてきた定石。聖女はそれに見事に乗っかってきた。少し、悔しげに視線を反らす。どう見ても敗北を噛み締めているとしか思えないだろう。


「手出しをするなと言った者の末路がこれですか」


 何とでも言うがいい。この時点で負けているのは貴様らなのだから。よもや俺が陛下と、魔族と繋がっているとは想像していないだろう。


「あの、それくらいにしてください。彼も反省しています。今度は協力してくれる筈です」


 そう進言したのは担任のアナスタシアだった。生徒思いな根っからの教師と言うべきか。それが、その善意が利用されていると知らない。その姿に憐憫すら抱く。

 そして、悪癖とつ思いながらも、いつい口から皮肉が洩れでてしまう。


「協力したところで勝てないと思うがな。それこそ、──神でも連れてこない限りな」

「不敬ですが、残念ながら一理あると認めざるをえませんね。やはり一番の障害はあの魔王。アレをどうにかしない限りどうしようもなく、手詰まりですね」


 あ?てめぇ、どの口して陛下をアレ呼ばわりしてんだ。というヤクザの因縁のような感情をひとまず制御し、勇者として喚ばれたクラスメイトたちに声をかける。


「数が減ってるように感じるが、どうした?戦場の凄惨さに恐れをなして逃げ出したか?」


 苦虫を噛み潰すような表情でアナスタシアが口を開く。が、そのスピードは遅い。教師としては生徒が死んだことは受け入れがたいのだろう。


「二名、死なせてしまいました。正確には三名ですが、ジョナサン君は残機があったので生きています」

「いや、ゲームかよ!?」


 思わず突っ込んでしまった。しかし残機とはなんだ。死んでも死なないのは神か陛下くらいのものではなかったのか。雷電。横スクロールのゲーム、懐かしいな。新作は3Dになってたっけ。


 そう言えば唯一、一ヶ月無休憩で戦えるという意見に同意していたな。その内脱皮しだしても驚かないぞ。


 しかし、説明されれば、まぁ納得できる。タネも仕掛けも大有りだったな。通りで、再生封じの呪いをかけていても復活できた訳だ。あとは……残機の数の確認でもするか。


「……ンンッ。その残機?とやら、何個くらいあるんだ?」

「生産ペースが一週間に一つだからな、そこまで多くはないな。あと2つだ」


 生産ペースとはなんだ。機械か、ホムンクルスか人形か何かか貴様は。生物のクローンでも作っているのか?厳密には同一人物ではないのか?もしくは、人形だけ作ってそこに魂を移す方法かどちらかだな。



※※※※※※



 私、聖女ことミレーナは勇者の一人であるレバートの話によって魔王の脅威を再認識する。態度は勇者の中で一番悪く、普段何をしているかすら分からない要注意人物だが、実力は認めざるをえない。


 召喚されて最初に出会った時の謙虚さは、彼ら勇者から教わった、無限に等しく続くという宇宙の遥か彼方に消えてしまったのでしょうか。


 戦場を傲慢に、慢心に満ちた笑いで駆け、崩壊させる規格外。理不尽の権化。その上、頭までキレる外道。戦績はアレの規格外さを支える一柱たる宵闇ノ魔眼とは真反対のシロ。つまり全戦全勝。アレに挑んだ人間、エルフ、獣人、ドワーフ全ての種族が負けている。悪の根源にして神に仇なす者。


 即ち「神敵」


 アレによって何人が死んだことか。断じて許されることではない。私の故郷だって、住民は避難できたものの、種族差という圧倒的に隔絶された壁に阻まれ惨敗し、土地は奪われ、兵は蹂躙され──私情は挟まない方がいいですね。


 何やら皮肉していた筈のレバートが焦って突っ込んでいるようにもみえますが……。それはおいておきましょ!?


 途端に、その場の魔力が上書きされるような魔力の流れを感じる。視界が揺らぎ、全神経がささくれ立つ。こんな存在するだけで周囲の魔力の全てを味方にするかのような存在。アレ以外には一人しかいない。


 ───神託者。神の言葉の代弁者。神の御告げを聞き、それを伝えるメッセンジャー。


 途端に、別方向から、先程の流れるような魔力の変化ではない。横から全力で戦鎚で殴られる、そう表現したくなる暴力的な魔力の乱舞。空間の魔力の密度の急激な増加に伴う嵐。


 原因は───レバート・マクロン


 一拍遅れて、威圧と殺気が吹き荒れる。今まで感じた彼の殺意が洗練されたモノだとしたら、これは無制御の、まるで圧倒的な力を持った赤子が振るうかのような殺意。



※※※※※



 その者に、会ったことはない。見たこともない。だけど、憤怒ノ魔眼は叫んだ。アレが、今近づいているアレこそが、我が復讐の目標だと。仇敵、神託者だと。


 憤怒ノ魔眼は焚き付ける。どんなにこの魔眼の呪いを呑み、受け入れようとも沸き立つ殺意。圧倒的な憎悪。赦さない。何があろうと、決して。


 ───殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せェッ‼



※※※※※



 同刻 魔王城


 焦燥、憤怒、そして絶望に近い表情をする。普段の彼を知る者ならありえないとまで言い、断ずるだろう。きれぎれに口から紡がれる言葉が、ことの深刻さを表現する。


「……やり……おったな、外来の……神共(グズ)が‼」


 魔王は、その瞬間、間違いなく










 ───恐怖していた。

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