戦後
魔国、首都
「此度の戦は快勝‼人間率いる人族同盟は大損害。対する我が軍の犠牲は微少‼今宵は祭り。遊べよ遊べ!この賑わいを以て散った命への弔いとしよう‼」
陛下の演説が終わると、すぐさま太鼓が鳴り響き、笛が吹かれ、音頭に合わせて踊る者、露店にて食べ物を買うもの、様々な者が入り乱れ、祭りが始まる。
戦死者が出たときは騒ぐことが、この国流の葬儀らしい。天に登った霊に対して、祭りの賑やかさを見せることで、「貴方のおかげで私たちは生きられています」ということを伝えるらしい。
「さて、今宵は遊び尽くすぞ。仕事は忘れよ」
「今回は防衛戦で土地を盗れた訳ではないので財政的にキツいのでは?」
「補給部隊を狙った遊撃が成功してな、酒や食料、武器等を奪取しておる」
そんなこともしていたのかと、驚きを通り越してもはや呆れや諦めに近い感情すら湧いてくる。根回しが早い。まるで未来でも見えているかのようだ。実際に見えていると言われても驚かないが。
「というか私って何ですか?思わず吹き出すところでしたよ」
「同意する」
凉白とカイザーから、戦闘中に使っていた一人称について追及をうける。答えあぐねていると、陛下まで話に興味を持ち出した。
「何だ?面白い話でもあったか?」
一人称に私と使っていたことを凉白が説明すると、案の定というか、予想はしていたが、やはり大笑いされた。祭りで人の出払った城内に笑い声が反響する。
「フハハ、フハハハハハ、ハッハハハハハハ‼ククク、ああ、痛覚軽減のスキルを持っているのに、久しぶりに痛みを感じたぞ。王宮日記に書いておこう。魔王、腹筋崩壊す、とな」
「いや、俺という一人称と一番かけ離れた一人称を使うことで万一にも分からないようにと思いまして」
痛覚軽減のスキルをも越える腹筋の痛みの方がおかしいのだが、それを注意する者はいない。流石にスキルも余りのおかしさに笑い転げて痛みを感じるところまではカバー仕切れないのだろうか?
「それであれば貴様のことが露見する可能性は低いだろうな。何せこのオレでさえ余りの意外さに笑い転げるほどだからな。ククク、思い出すとまた笑いが再発してきおったわ」
「そう言えばこの倉庫から適当に掻っ払ってきた刀、どうしたらいいですか?」
「あぁ、それか、というかボロボロではないか!どんな使い方をしておる。だから常日頃から頑丈な武器を使えと言っておるであろう。どれ、【鑑定】。・・・・呪詛返しをマトモに喰らったか。仕方ない、武器工房に行くぞ」
※※※※※※※
「なんじゃ、祭り好きのおんしが祭りに行かんとこっちに来とぉのは珍しいのぉ。気でも狂おうたか?」
「もう歳だろう少しくらいは休めばどうだ?若作り老婆」
「聞こえとるぞ。我が最高傑作の若返りの霊薬の力じゃ。恐れいれい。・・・・ところで、なんのようじゃ」
着いてすぐさま皮肉の応酬が始まる。若返りの霊薬とかいう生物の絶対の法則をねじ曲げた品の話が出てきた気がするが。女性が聞いたら狂喜乱舞するな。凉白が鼻息を荒くしている。
恐らく話に聞いていたゴブリンの長だろう。陛下が唯一苦手だと言っていた。成る程。その事にこの応酬で納得した。
「こいつだ。たぶんアホみたいに武器を使い潰す。修理をしてやれ」
「なら、専属の奴がいた方がいいかのぉ。ああ、その武器の使い手か、なら丁度良い、おい!若僧‼」
工房の奥に向かってゴブリンの長が呼び掛ける。
「何だ?ババア!こちとら今忙しいんじゃ!」
「魔王陛下がここにおるぞ‼」
「マジか!あの職人泣かせの!?」
職人泣かせのって、過去に陛下は何をやらかしたのだろうか?疑問に思っていると、それを読まれたのか、「職人泣かせ」と呼ばれる理由を、陛下が説明する。
「何、昔ゴブリンのどんな職人よりも高いクオリティの品々を作ってな、付いた渾名が『職人泣かせ』、あとは『努力殺し』あたりか」
レバート、凉白、カイザーの意見は、交換せずとも、完全に一致した。それ即ち、「うん、何も聞かなかったということにしよう」である。
「何でぇ、ババア?」
「若僧が偉そうにすな、仮にも魔王陛下の前じゃぞ?」
「でもババアは何も気にしてねぇだろ。それによく云ってるじゃねぇか。工房ではどんな権力者よりも職人の方が偉いって」
「その職人より凄腕なんじゃがな。自己紹介せい」
「次期工房主、鍛炉だ」
元ネタ解説
大爆笑事件某金ぴか慢心さん




