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カースウェルに戻り、外遊で調子を崩したレダンの回復が必要と理由をつけて、レダン、ガスト、ルッカ、シャルンは王宮に籠った。不平不満を漏らすサリストア、未練一杯のバラディオスは、それぞれの領地に戻り、実証なら協力しようと申し出たミラルシアのみ滞在を許された。
いつかガストと共に剣を鍛錬していた庭、そこに面したテラスに一同は集まり、ガストの研究資料、ハイオルトで見つけたラクレス・ハイオルト・エリクシアの残した書物を広げている。
「さて、先の2匹の龍に従うなら、龍を呼び出す時にどこかに紋章のようなものが現れるはずですね」
ガストは既に呼び出したシシュラグーンの紋章、ジュキアサルトの紋章を書き写したものを示した。
「紋章はそれぞれに違いますが、現れる大きさや紋そのものは変わらない。また、現れる部位は失ったり傷ついたりした部分であることが多い。だから、この紋章そのものに『花咲』の力が宿るのかと考えましたが、どれほど精密に再現した図を描こうとも、龍は呼べないし、躍り上がる水や疾る雷は出現しない。ミラルシア様のお話によれば、失った手で触れると発動する。つまり、この紋様だけでは『花咲』は生まれず、別の要因が必要なのでないか。これが一つの結論です」
「ふむ。とすると、俺が炎龍を呼び出せば、検証できる資料が増えると言うことか」
「その通り……こう言う時にはあなたの丈夫さが役立ちますね」
にっこり笑ったガストは、レダンを休ませるつもりなど毛頭ないのだろう。
「幸にこの庭は、王家ゆかりのものでも入りにくい場所です。存分に呼び出して大丈夫ですよ」
「人の体だと思って」
舌打ちして見せたが、レダンも同じことを考えている。
「陛下」
心配そうに振り向くシャルンに、大丈夫だと笑って見せて、レダンは少し目を閉じた。右目が微かに重く厚く感じる。その重みを感じたまま、目を見開きながら命じる。
「従ぜよ、ムリャムリュン」
鋭い痛みが走って、右目から熱い物が零れ落ちるのを感じた。シャルンが息を呑み、ガストが凍りついたから、ただの涙ではないのだろう。
けれど、確かに龍は応じた。空中にもやもやとした大気が溜まり、ゆっくりと集まりながら温度と色味を帯びていって、赤黒い低く垂れ込めた雲のように厚みを増す。洞窟内では明滅する鮮やかな紅の幻影だったが、今目の前に顕現しているのは指先で触れそうな実感と重さを感じる巨大な体躯だ。一際濃い紅がまっすぐ上に伸びたかと思うと、爆発四散するように周囲へ分かれ、またそれぞれの分岐に赤黒い雲が絡みついて見る見る実体化した龍は、ゆっくりを鼻先を下ろしてレダンの前に顔を寄せた。
熱気がある。非常に高温の何かが顔のすぐ側で、レダンの忍耐を嘲笑うように上下に動く。
ふと感じたのは、これらの龍は基本的にはシャルンのものではないかという閃きだ。シャルンの体を媒介にするならば、全身傷ついてしまうから、シャルンに近しい者の体を使って顕現し、主人を守っているような。
「レダン…そのまま目を見開いていて下さいよ」
「紋章が見えるのか? どこだ?」
「通常なら目の中というところですが、何と言うか、右目の前の少し離れた空中に浮かんでいますね」
話しつつ、ガストは必死に紋章を写しとっている。
「時々揺らめいたり動いたりするんで見えにくいんですが……今までの紋章と似てる部分も多い……もう少し……はい、よし、写せました」




