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地下の広間からなだらかに降りる通路を、色艶の失せたガーダスはのろのろと進む。側に人なら一人二人が通れるほどの隙間があったから、一同はガーダスに付き添い、黙々と同じように道を辿った。
老ガーダス、おそらくはそう呼んでいいのだろう。見上げるほど大きな棒状の体は、進めば進むほど速度を落とし、体の表面をひんやりと冷やしていく。
「…シャルン」
「…大丈夫、なのでしょう?」
レダンの緊張の混じった声に、シャルンは微笑みながらガーダスに指を伸ばした。
あれほどのガーダスに囲まれ、竦むこともなく冷静に観察していたレダンなのに、真隣のシャルンが指を伸ばして触れようとしただけで怯えるとは奇妙なことだ。
先頭のバラディオス、サリストア、続くルッカとガスト、レダンとシャルンを挟んで殿を務めるミラルシアが、それとなくシャルンを見遣ってくる。
細い指がガーダスに触れると、一瞬相手が息を呑む気配がしたようで、シャルンは思わず立ち止まった。
「反応した…」
ガストが呟く。
「シャルンに、というより、そいつに、だな?」
「ええ、そのようです」
右手の甲に浮かび上がる水龍の紋章を眺めながら、シャルンはそっと掌を当てる。と、ガーダスの内側が少し温かくなったような気がした。促されるように、老ガーダスは歩みを始める。
「まるで…」
シャルンは思わず口にした。
「何世代も前のお祖父様に触れているようです」
身動きができなくなり、一歩進むのに昔の何倍、何十倍も時間がかかる老人と一緒に歩くと、このような感覚だろうか。
「そうかも知れん」
レダンが柔らかく同意した。
「彼らがどれぐらいの時間を生きているのかは知らぬが、少なくとも俺達よりは長生きなんだろう」
「うんと昔から……ハイオルトに棲んでおられたのですよね」
シャルンが話しかけると、再び立ち止まる。それからまたぼつぼつと歩みを始める。
「どこまで行くんだろう」
ガストが前方を透かし見た。
「迷うことはなさそうだが」
バラディオスが来た道を振り返る。長い、けれど一本道だ。
三度老ガーダスは立ち止まり、シャルンの掌に促されるように、またゆっくりと進み出す。
「……道が登り出したぞ」
「え?」
レダンの声にサリストアが足元を見下ろした。
「確かに。それに、気をつけて。左右の溝が深くなってきた。この先道幅が狭くなるかも」
言われてシャルンも足元を見た。レダンと2人並んでガーダスに付き添って歩けていたものが、通路が広がるのと同時に左右に溝が彫り込まれ、1人がかろうじて側を歩ける幅になってきている。
「シャルン、前へ」
「え?」
「どうやら、このご老体は君の導きが必要らしい。掌を当ててやらないと進まなくなってきている。寄り添ってやりたまえ、今だけ俺は嫉妬を収めるから」
「はい、陛下」
むくれた声に微笑んだ。嫉妬しないと言いつつ、口調が既に拗ねているのが可愛い。
レダンに命じられて、シャルンはバルディオス、サリストア、ルッカと場所を入れ替わった。レダンを背中に感じながら、先頭に立って歩き続ける。登りに変わった岩場は負担がかかる。よろけそうになっては、レダンが背後から支えてくれた。
「陛下…」
「うん」
シャルンが指摘するまでもなく、レダンは気づいていたようだ。暗闇の通路が薄明るい光に満たされている。前方から差し込む淡い光、それをガーダスも感じ取ったのだろう、シャルンを置き去る勢いで進み始める。
「待って」
思わずシャルンは呼びかけた。
「待って……待って、まだ行かないで…っ」
出会って数時間、それも一度は襲ってくるかも知れないと感じた相手なのに、こうやって掌を当てて暗闇を歩くうちに、ごくごく親しい者と散歩するかのような気持ちになっていた。人ではないのに、つい唇を突いたことばは、
「お祖父様、まだ私と共に…!」
「シャルン…っ!」




