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「いやああっ!」
シャルンの高い悲鳴が響いた時、レダンの胸に愛おしいとも誇らしいとも言えぬくすぐったい感情が溢れた。同時に自分の非情さに呆れもした。
「男と言うのはどうしようもないな」
「は? 何それ、今それを言う?」
サリストアが怒りに瞳を煌めかせて振り返る。
「シャルンが泣いてるじゃないか! あんな中途半端な声をかけるから!」
ああ、もう、と地団駄踏みそうになってはいるものの、目の前の巨大なガーダスに完全に気を緩めているわけではない。
「今からでも、こいつはやめとけって説得してこようかな、私」
「正しい判断ですね」
こちらも唇を歪めたバラディオスが冷ややかな口調で断罪する。
「あれほど心配させて平気な男だとは思いませんでした」
「知らなかったんですか、初めからこうですよこの人は」
せっかく庇ってやったのに、恩も忘れてガストまで口を揃えた。
「…まあ、この状況を見抜いたのは多少褒めてもいいとは思いますが」
冷や汗ぐらいは滲んだのだろう、頭上高々と動くガーダスの体を見上げて、額を擦った。
ガストの背後から追いかけるように現れたガーダスに、命の危険があると感じて走ったのは間違いない。次々と現れるガーダスに退路を塞がれ、ここまでかと覚悟を決めたのも嘘ではない。
だが、1匹目のガーダスが頭を下ろして足元を掘り込んだ一瞬、相手が自分達に全く意識を向けていないと気づいた。
確かに囲い込むように這い出てきたガーダスが迫っているが、どの個体もレダン達を気にしていない、いや、気づいていないと言った方が正しいか。
「レダン、何を!」
「静かにしろ」
レダンが剣を収め、すぐ間近を這うガーダスに近づいて行くのに叫ぶガストに命じ、ゆっくりと手を伸ばす。
艶やかな表面だった。磨き抜かれた飾り石のような、近づけば顔が映り込むのではないかと思えるぐらいの滑らかな体に、軽く息を止めて掌を当てる。
ざわっ、と表面が動いた気がした。
だがそれだけだ。
レダンが触れたままで、ガーダスは静かに歩みを続けて行く。よくよく見れば、体の下に細かな毛のようなものがあって、それが波立ちながら体を運ぶのだった。
「…羽虫のようなものか」
レダンは苦笑しながら離れた。
「おい……なんてことしやがる」
すぐ側に、剣を構えたままのバラディオスが近づいてきていた。いざとなればガーダスを斬り、レダンを確保してくれるつもりだったのだろう、緊張に青ざめた顔で微かに呼吸を乱している。
「正気か?」
「俺達など、餌でさえないらしい」
「手は?」
サリストアが剣を収めて尋ねてくる。
「なんともなってないのか」
「ああ。意外に肌触りは悪くないぞ」
「……ったく、寿命が縮んだぞ」
サリストアは大きな息を吐いて、顔を振った。
「早くシャルンを安心させてやれ、泣かせたくない」
「ああ、そうだな」
レダンは少し離れた岩場を振り仰いだ。大丈夫だ、安心しろ、と笑顔を見せて呼びかける。
「シャルン」
「陛下…っ」
掠れた小さな声が戻ってきた。続いて、
「いや…嫌です、陛下…っ」
「あれ?」
「返答がおかしくないか?」
サリストアも訝る。確かにルッカに押さえられながら、懸命に手を伸ばすシャルンは、幼子のように必死で、あまりに可愛らしくて、レダンはつい見惚れてしまい……今に至る。




