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坑道に入ってどれほど経ったのかは定かではないが、水を補給した休憩よりなおしばらく奥に進んで、一行は立ち止まった。
「ここに来て、これですか」
ガストが嘆息するのも無理はなく、前方に小さな広間のようなものがあり、そこに四方八方に通路が伸びている。先ほどから巡っていた道よりも狭くなった通路の先の場所だった。
「地図には…もう載ってないか」
「採掘跡もありませんしね。ここまでは入ってないんでしょう」
レダンと共に地図を広げたガストが額の汗を拭う。
「……駄目だな、この先もかなり長そうだ」
「あちらの数本も、少し先で分岐している。試しに入るにも時間がかかるね」
様子を見に行ったバラディオスとサリストアが難しい顔で戻って来た。
「この一番奥は、まさか秘境パルディエに繋がってるなんて言うんじゃないだろうな」
ガストと同様、首筋に流れ落ちる汗をバラディオスが擦った。
「今夜はここで休む。ルッカ、ガスト支度を」
レダンの命で、なだらかそうな岩場を選んで各自が敷物を重ねた。
「シャルンはここへ」
「でも」
導かれたのはレダンの膝の上だ。壁にもたれ、レダンそのものが柔らかそうなソファに変わったと言いたげに手招きする。
「陛下がお休みになれません」
「あなたが固くて冷たい場所に横になると考えるだけで眠れなくなる。俺の安眠のためにここへ来てくれると有難いが」
「…はい」
そっと腰を下ろした膝は今まで歩いたせいもあるのか温かかった。しっかりとした弾力でシャルンを支え揺らぎもしない。
「奥方様、これを」
「ありがとう、ルッカ」
差し出された小さな器にはスープが入っていた。温かくはないが、しっかりと味がついていて、炊き込まれた野菜と肉も柔らかく美味しい。一緒に渡されたパンを口に運び、同じようにそれぞれに食事を摂る周囲を見渡すと、どの顔にも疲労が伺えた。
「何かが襲って来そうな気配はないし、見張りは1人で十分でしょう。先にお休み下さい」
バラディオスが最初の張り番を買って出てくれて、灯りを保ちつつ交代していくことになった。
「お休み、シャルン。疲れただろう」
「……お休みなさいませ……陛下…」
そっと優しく胸に抱き寄せられて、もう少し起きていようと思った努力は虚しかった。緊張と疲労に押し流されるように眠りに落ちて、ふ、と目が覚めた時、周囲が真っ暗でシャルンは体を強張らせた。
「…っ」
「…大丈夫」
低い声が耳に届く。
「大丈夫だよ、シャルン」
「…レダン…」
いつの間に目が覚めていたのだろう、レダンがシャルンを抱えたまま、静かに剣に手を伸ばしている。邪魔になってはならないと膝から滑り降りた矢先、視界の端に灯りが戻って来た。
「…どうした、ガスト」
見張りを交代していたのだろう、明かりを掲げたガストが難しい顔で通路の一つから戻ってくる。
「いえ…こちらの方に何か光るものが見えた気がしたんですが」
レダンの問いに首を傾げながら答えるガスト、その背後。
「ガスト !! 走れっ!」「っっ!」
巨大な影が現れた。
レダンが吠え、シャルンを抱えながら立ち上がる。跳ね起きたルッカにシャルンを預け、駆け戻ってくるガストに走り寄る手には剣が引き抜かれている。遅れを取ったとその後からサリストアとバラディオスが抜剣して追い、ミラルシアとルッカに庇われるように岩壁に押し付けられたシャルンは、通路からぬっと突き出された白く鈍く光る塊に息を呑んだ。
大きい。
通路一杯を埋めるような、むくむくした白い虫のようなものが這い出してくる。
「…は…っ、こいつは」
ひび割れたような笑い声がサリストアから漏れる。
「デカすぎるだろ」
バラディオスの声も引きつっている。
「レダン!」
「騒ぐな」
ガストが戦闘態勢を取れるまで庇っていたレダンが、素早く周囲に視線を巡らせ、遠くから見て居たシャルンも気づいた。
「……これは、何とも」
ミラルシアが呆然と呟く。




