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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3 〜花咲姫と奔流王〜  作者: segakiyui
16.2つ目の願い

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2

「お役目、お役目、かあ」

 レダンは唸りながら廊下を歩く。他国の王族が供も連れずにふらふらと、と微妙な視線が纏わりつくが、そこはさすがにアルシアだ、僅かに殺気を漏れさせれば、静かに気配が引いて行く。

 ガストの部屋に寄ると、シャルンが部屋に戻る前に少し話したそうで、確かに地下通路内は薄明るく見えていたそうだ。シャルンを閉じ込めた奴は外から手を伸ばしたと言うから、地下通路でシャルンを追い詰めた奴らとは違うのだろうが、捕えたはずの猿は消えていたから、そちらの正体はわからない。

 もう一つ気になることがある。

「シャルン?」

「…陛下?」

「入ってもいいか?」

「はい、もちろんです」

 扉の外で優しく尋ねると、意外に元気な声が聞こえてほっとした。扉を開けると、ベッドに体を起こしたシャルンが、微笑みながら迎えてくれる。くしゃくしゃに汚れていた髪の毛も、擦り傷だらけだった手足も、今は綺麗にされて膏薬を塗った小さな布を当てて包帯され、痛々しくはあるが落ち着いて見える。

「お腹は空かないか?」

「大丈夫です。先ほどルッカが温かな飲み物を用意してくれましたから」

 飲んで、ここが温まりました、と胸元を押さえる手首に巻きついた包帯に、体の奥が痛くなった。近寄り、ベッドに腰掛け、手首を掬い上げて口付ける。

「もっと早く行けば良かった」

「十分早く来て下さいました」

「こんな怪我をする前に」

「でも、それならば、あの『ガーダスの糸』は見つかりませんでした」

「それは、そうだが」

 上から眺めていただけでは、あの蓋が何かは気づかなかっただろう。下方に沈んだ岩だと思って通り過ぎていたかも知れない。

「あれは『ガーダスの糸』だと思うか?」

「はい」

 シャルンは迷うことなく頷いた。

「ルシュカの谷で間近で見ましたし触りもしました。それに…」

 シャルンはきゅ、と手を握った。

「あれは繭のように見えました」

「繭?」

「小さな虫が羽化する時に体を包むものです。糸を巻きつけたようなものもあります」

「あなたは『あれ』を何かの殻だと言うんだね?」

「はい。上から眺めた時も幾つも幾つも繭があるように見えて…」

 ごくりと唾を飲み込む。

「中のものはどこへ行ったのだろうと考えて、怖くなりました」

「…そうか」

 微かに震えたのに気づいて、レダンはベッドの上に乗り上がり、シャルンを抱き寄せてやる。

「あなたはそれを懸念したのか」

 ガストの声が耳の奥に過ぎる。

『これ、すんごくヤバイ考えですが、あの地下通路、何かが掘り進んだ跡だと考えると、あの一定間隔の幅や高さが納得できますね。「そいつ」が縦横無尽にうろうろしたから、迷路みたいなものが出来上がってるって。で、もっと突飛な考えですが、「そいつ」は岩を喰ったりしてませんかね。岩を喰いながら地面の下をうろうろしてて、喰った岩が「そいつ」の中で溜められてって』

「ガストが考えたことなんだが……『ガーダス』と言う生き物がいる、かも知れない」

 シャルンはレダンの話を聞いて目を丸くしたが、小首を傾げて考え込んだ。

「陛下は……『ガーダス』と言う岩を食べる生物が居て、その生物が『羽化』する時に作るのがあの繭……『ガーダスの糸』だとお考えですか?」

「それだけじゃない。まあ、『そいつ』をとりあえず『ガーダス』と呼ぶとする」

 こくんとシャルンが頷く。

「『ガーダス』はミディルン鉱石の粒子、みたいなものを探して岩を喰うんじゃないかな。体の中に溜めてって、『羽化』する時に『ガーダスの糸』を吐き出して、それを脱ぎ捨てて去って行く。『ガーダスの糸』にはミディルン鉱石の粒子が凝縮されて、そこへさっきみたいに岩が落ちたり地中深く埋められたりして、ミディルン鉱石になる」

 話しながら、レダンは妙にぞくぞくした。何かとんでもない秘密に近づいている気がする。それをシャルンがことばにしてくれた。

「陛下は、ルシュカの谷で作られているレースや糸にも、ミディルン鉱石が持つような『力』が入っているかも知れないと仰るのですね?」

「そう言う…事になる、な」

 鉱石を苦労して掘る必要はない。『ガーダスの糸』が大量に手に入れば、ミディルン鉱石と同じ力が手に入るかも知れない。それを知られれば、ハイオルトだけではない、カースウェルもダフラムの標的になる。だが、それよりも。

 気になっていることを確かめるのは今かも知れない。

『私達は「地下迷宮」を見つけたのではありませんか?』

 蘇る声と微笑み。

 シャルンは『ガーダスの糸』とミディルン鉱石の繋がりには気づいていなかった。ただ『地下迷宮』はミディルン鉱石で作られていると想像はしたことがあるだろう。なのに、なぜ。

「…陛下」

 ふいとシャルンに身を寄せられて、レダンは我に返った。

「お身体が冷とうございます」

「あ…ああ、済まない」

 緊張に冷えていたのか。

「一つ、尋ねたいことがあるのだ」

 声が震えそうで困る。この扉は開けないほうがいい、そんな予感がする。

「なんでございましょう?」

「あなたは、あの蓋の上に落ちた時、『地下迷宮』を見つけたと教えてくれた」

「…はい」

 記憶を辿るようにシャルンはゆっくり頷く。

「『地下迷宮』はカースウェルの昔話だ。そこは紫色に輝く石で作られ、魔法がある」

「はい……」

 レダンが何を言いたいのかとシャルンは訝っている。

「あなたは、『ガーダスの糸』を見つけただけで、『地下迷宮』があると教えた。けれどもそれは、あそこにミディルン鉱石の層があると知る前だ。もちろん、今話した『ガーダス』に関する仮説も、まだ知らなかった……なのになぜ?」

「…あ」

 シャルンは息を呑んだ。レダンはもう一度繰り返す。

「なぜ、あなたは、『ガーダスの糸』が『地下迷宮』の在り処を示すと『知っていた』のだろう?」

 

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