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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3 〜花咲姫と奔流王〜  作者: segakiyui
15.光の繭

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「なっ…?」

 何が起こった?

 レダンは戸惑いながら周囲を見回す。

 薄黄色の淡い光に包まれて、レダンは柔らかな草原にいる。草原と感じたのは、細く揺れる無数の草のようなものが周囲にたなびき、ある場所では渦を巻き、あるところでは絡み合っているからだ。体の下にも同様のものが厚く敷き詰められているようで、落下の衝撃はほとんどそれが吸収してくれたらしい。

「岩の蓋じゃなくて、こいつが積み重なっているのがそう見えたのか」

 呟いて我に返り、慌てて腕の中を覗き込む。必死に抱き締めてしまっていたから、逆にぶつかった時の振動が伝わって気を失ってしまってるかと思ったが、ゆっくりと顔を上げたシャルンにほっとした。

「無事だったか」

「…やっぱり陛下だったのですね…」

 紅潮した頬に嬉しそうな笑みを浮かべて、シャルンは続けた。

「落ちて行くときに、目を閉じなくて良かった」

「え」

 思わずぎょっとした。

「目を開いてたのか?」

「はい」

「あんな高さから落ちているのに?」

「はい。ですので、陛下が手を差し伸べてくださったのが見えました」

「…ああ…そういう…事か」

 初めて得心した。あれほどの距離、どれほど飛び出しても指先を触れることすら難しいと思ったが、シャルンがレダンを見つけて自ら手を伸ばしてくれたから届いたのだ。そうでなければ、たとえ下がこのような有様であっても、全く別の所に落ち、この細く絡み合う草の中で互いを見つけるのは難しかったかも知れない。

「…よくぞ、目を開いていてくれた」

「はい?」

「俺はてっきり目を閉じて気を失っていたかと思った」

 そうであれば、今すぐには抱き締めてやれなかったかも知れない。

「……ご心配をおかけしました」」

 褒めるとシャルンは恥ずかしそうに頬を染めた。

「岩の蓋ではなかったようだな」

「…はい」

 周囲を見るように促すと、シャルンもようやく体を起こし、静かに見渡して目を見開く。その姿を薄明かりの中で改めて見ると、ドレスを引き裂き手足に括り付けて、まるで男の子のようだ。汚れて傷んだ靴、頬にも小さな擦り傷ができていて、心細かっただろうに必死に頑張っていてくれたのだと感じる。

 愛おしい。

 とにかく何をしていても、どんな格好をしていようとも、シャルンには愛しさしか感じない。

 視線に気づいたのだろう、ふとシャルンが振り向いた。

「…猿に遭われましたか?」

「猿?」

「白い小さな猿です。人のことばを話し、私の気持ちを揺さぶってきました。何匹もおりました」

「…そんな気配はなかったな」

 レダンは眉を寄せた。

 シャルンのことが心配だったとはいえ、それほど腑抜けていたつもりはない。追っ手や暗殺者がいれば気づいたはずだ。ましてや、洞窟の猿などという珍妙なものがいれば、真っ先に目に入っただろう。

「どんな揺さぶりをかけてきた?」

「…私が、カースウェルの王妃としては不足だと」

「っ」

「陛下の伴侶として隣にいてはならないと」

「そんなことはない!」

 思わず声を荒げた。

「誰だ、そんなことを言う奴は!」

「陛下」

「いやもう誰でもいい、ここから戻ったらすぐに捜索隊を編成して虱潰しにして探し出してやる。次には同じことを言い出せぬように、猿だろうが人だろうが、生まれて来ぬ方が良かったと言う想いをさせてやるぞ!」

 これほど頑張ったシャルンに対して余りにも馬鹿馬鹿しい内容だが、似たような噂を耳にしないわけでもない。ちょうどいい機会だ、レダンの意志を知らしめて、今後シャルンの耳に噂一つも入らないようにしよう。

「陛下」

「案ずるなよ、シャルン、俺は」

「わかっております」

 ぐっと握った拳にそっと手を載せられた。

「大丈夫です、レダン」

「シャルン…」

「足りていようと足りていまいと、あなたの側に居たいのです。それがカースウェルであろうと、どこか他の場所であろうと、今ここでこうして一緒にいられることが、私の望みの全てでございます」

「シャルン…」

 胸が絞られた。愛しく恋しく、堪らずに堪らずひき寄せ唇を重ねた。柔らかくて温かくて、これほど身の内に力を満たしてくれる存在無しで、今までどうして生きてきたのだろう。今までの自分は、一体何を拠り所としていたのかさえ、もう思い出せない。

 静かに熱を味わって、名残惜しく唇を離し、もう一度しっかり胸に抱き、それからシャルンを覗き込んだ。

「さあ、私の元にあなたが戻った。もう怖いもの無しだ。こんな物騒な場所から抜け出して、一旦王城に戻ろう。サリストアとミラルシアが行方不明だ。色々作戦を立て直さなくてはならん」

「お2人とも、行方が分からないのですか?」

 シャルンが驚いたように瞬く。

「ダフラム絡みの痺れ薬を矢で射られた可能性が高い。地下迷宮探しは、ことが落ち着いてからだ……あなたには申し訳ないが」

 母親の手がかりが欲しかっただろうにと不安になると、シャルンはゆっくり首を捻り、じっと周囲の細い草を眺めている。

「大丈夫だ、ガストは落ちていないし、縄も持ってきている。走った道はほぼ真っ直ぐだったから、言うほどに追いついてくるだろう」

「いえ、陛下」

 シャルンは静かに首を振った。

「もう探すことはないかと思います」

「いや、シャルン、出直すだけだ、地下迷宮はきっと探し出すし、あなたの母上についてもきっと」

「陛下」

 振り向いたシャルンが微笑んだ。

「私達は『地下迷宮』を見つけたのではありませんか?」

「え?」

「これは…『ガーダスの糸』そっくりです」

「!」

 言われてレダンは急いで手近の草を掴み取った。確かに、ルシュカの谷で山積みされていた『ガーダスの糸』とよく似ている。

「…ガストが…この地下通路の壁にはミディルン鉱石が含まれていると気づいた」

「ミディルン鉱石が?」

 シャルンはこれも知らなかったようで、またも驚いた顔になっている。

「ミディルン鉱石と……『ガーダスの糸』……一体どう言う関係が………」

 訝しく可愛らしく小首を傾げる。

「レダン! そこに居ますか、レダン!」

 響き渡った大声に、レダンはにやりと笑って顔を上げた。

「そらな、言った通りだろう、あいつは……………っ」

 声のした方向を見上げて、視界に入ったものに息を呑んだ。

「陛下?」

「…シャルン……見ろ」

「はい? ……あ」

 シャルンも同じものに気づいたらしい。見上げたまま、固まった。

「レダン! 返事して下さい! しないと岩を落として生きてるか確かめますよ、それでもいいんですか!」

「ガスト! 降りて来い!」

「はあ? 降りるんじゃなくて引き上げるんでしょうが!」

「違う、降りて来い! 『地下迷宮』があったぞ!」

 ガストが戸惑う崖の下、土と岩の合間に幾重にも層になった、ミディルン鉱石の鉱脈が薄紫に輝いていた。


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