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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3 〜花咲姫と奔流王〜  作者: segakiyui
14.薄闇の猿ども

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4

「……よし」

 一瞬歯を食い縛り、レダンは立ち上がった。

「それなら安心だ」

「え?」

「シャルンを殺すはずがない、そうだろう?」

 そうであってくれと祈りながら、続ける。

「そいつらにとってシャルンは、生きて、元気でいてくれねばならぬはずだ。迷宮の方向を示し、辿り着く道を先立って案内できるほど元気でなくてはな」

 そんなことはない。

 身動きできなくとも、ことばで答えられればいい、目線で知らせられればいい、その程度で『生かしておけば』いい、そう考える輩はいくらでもいる。

「十分休んだ。進むぞ」

「…はい」

 向きを変えたレダンは、ふと気づく。

「シャルンには」

「え?」

「ひょっとするとこの通路は、暗闇ではないのかも知れないな」

「……ああ…なるほど」

 それなら、こんなに速く動けるのもわかりますね。

「奥方様の目には、ここはどんな風に見えているんでしょう」

「松明をつけろ」

「はい?」

「俺達が近づいていると知れば、奴らも焦る。隙が出来るかも………っ!」

 突然、鋭い刃で背中から貫かれた気がして、レダンは振り返った。

「シャルン?」

「どうしました?」

「明かりを…つけろ」

 身体中の毛が逆立っていく。

「…だめだ、間に合わん…っ!」

「レダン!」

 遠い闇の中で、何かがぶつかる音がした。小さな悲鳴が聞こえた。それだけを頼りに、ガストの叫びを置き去って駆ける。足元は不安定で、蹴りつけると崩れる。だがそれよりもなお不安なのは、胸の温もりが突然奪い去られたように小さくなって消えていくことだ。

「シャルン……シャルン…だめだ……まだだめだ…っ」

 吐く息に絡む自分の声は幼く聞こえるほど頼りない。両手を大きく振り、神経を研ぎ澄ませて、暗闇の中を気配だけを追って駆ける、と、不意に目の前が開けた。

 薄青い光の中、崖の向こうに大きな岩が釜のように抉られて、そこに蓋が載せられたような奇妙な形に彫り込まれている。天井は闇で見えない。けれども、その彼方、上の棚から小さな影が飛び出すのが見えた。姿形ははっきり見えない、翻るはずのドレスもない、けれどふわりと一瞬空中に浮いた影を、誰が見落とすだろう、闇の中、その姿だけを一心に求めて走ってきたのに。

「シャルン!!」

 口から絶叫が弾けた。

「くそっったれ!!」

 ためらうわけもない、駆けてきた速度を更に上げ、力の限り崖の端を蹴り、水に投げ込まれた小石のように落ちていく相手に跳ね上がる。

「シャルン、シャルーンっ!!」

 両手を差し伸べた。体を必死に伸ばした。こんなに無防備に体を広げて地面に叩きつけられれば、骨と言わず身と言わずぐしゃぐしゃに砕かれるだろうが、その時はシャルンも一緒だ。むしろレダンの体を岩との間に挟み込んで、少しでも彼女に痛みがなければ、それでいい。

 けれど、こんな風に跳ね飛ばされて、シャルンは気を失ってしまっているだろう、レダンの声さえ届かないのではないか。

「シャル……っ!」

「陛下…っ!」

 ぞわりと身体中が震えた。

 闇を落ちる視界の中、落ちるに任せていたシャルンが髪を乱して確かにこちらを振り向き、両手を伸ばす。その指先がかろうじて掌に掛かった次の瞬間、レダンは渾身の力で握り締め、引き寄せ、抱き締めた。

「レダ…ン…っ」

「黙ってろ…っ!」

 しがみつく小さな温もり、閨で甘く解ける体を腕の中にちゃんと収めて、思わず漏れたのは微笑みだ。シャルンを助けられなかったのは悔しいが、最後が一緒ならそれも悪くないと思ってしまう自分の傲慢さに呆れながら、叩きつけられる痛みに目を閉じ覚悟した、その矢先。

 ぼふ……っ。

「っっ??」「レダ…っ??」

 2人は巨大な羽毛に包み込まれるようにやんわりと受け止められた。

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