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これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3 〜花咲姫と奔流王〜  作者: segakiyui
12.迷宮の女王

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1

 カースウェルの王と王妃がアルシア各所を回られる。新たな女王となったサリストア様の治世の確認と両国の友好を深められるためである。

 噂は諸国を駆け巡った。

「…ダフラムに対する防衛線の構築だとか、物見遊山の気楽な旅だとか」

 馬車の中でサリストアは指を折って数えて見せる。

「もちろん、ミラルシア殿下の再興だとかの話もある。鋭い奴は鋭いよね」

 シャルンとレダンはきちんとした装いだが、サリストアはいつもの銀髪ではなく赤茶色の髪に染め、右目に革の黒い眼帯を当てている。見えにくくないかとのシャルンの問いには、一時期訓練のためにしていたことがあるから大丈夫との返答だった。

 地下牢は王城の片隅にあり、ミラルシアのたっての希望で面会することになったシャルンは護衛をつけられた。その護衛がサリス、今のサリストアの姿だ。

「物見遊山にしては物騒な場所から始めるものだな」

「勘弁してよ、レダン」

 サリストア、改めサリスは肩を竦める。

「地下牢の奥に地下通路への道があるのは知ってるだろう?」

「地下通路?」

 シャルンは瞬いた。

「地下迷宮ではなくて?」

「いざという時のために、海近くの塔に繋がる通路があるんだ。もし地下迷宮があるとしたら、その通路の何処かから繋がってるんじゃないかと思うんだよ」

「なるほどな、だからルッカが知っているのか」

「王族を守るのが近衛の役目だからね。地下通路の先に『花咲』への道があると言う御伽噺もよく語られるし」

 けれど今はミラルシアが封じられているから、おいそれとは誰も近づけない。

「話を聞いた後に、少しその先を進んでみようと思っているんだ」

「だから、なるべく軽装で、とおっしゃったのですね」

 足首が見えるドレスの長さに思い至って、シャルンは頷いた。

「地下牢はあまり綺麗じゃないしね。その先の通路はもっと汚い」

「大丈夫ですわ」

 シャルンは微笑む。

「坑道や地下洞窟も歩いたことがありますし」

「…何させてんの、レダン」

 眉を寄せるサリストアに、レダンは視線を反らせる。

「シャルンの行くところが俺の行き先だ」

 はいはい、と溜息をついたサリスが、ふと思いついたように尋ねる。

「シャルンは泳げるの?」

「泳ぎ、ですか」

 水の中に入って手足を動かして進む、と言う経験はない。

「したことがありません」

「へえええ」

 にやりとサリストアが笑った。

「じゃあ、一度は海に行こう」

「おい、反乱分子と関係ないだろう!」

「レダンに来いとは言ってないよ? 溺れさせちゃ悪いからね」

「陛下も泳ぎはされないのですか?」

「…得意じゃない」

「はっきり言えばいいのに、泳げませんって」

「得意じゃない」

 しつこく繰り返すレダンに、シャルンは微笑む。

「では、私とともに習いましょう」

「ええええっ」

 声を上げたのはサリストアだ。

「私が教えるの?」

「この一件が落ち着いたら、ご褒美に」

 シャルンが笑み返すと、サリストアはちらりとレダンを眺めた。

「だってさ」

「……善処する」

 レダンは心なしか怯んだようだ。


 地下牢は薄暗くじめじめしていた。貧しい生活に慣れているのならともかく、華美に装い、夜会を繰り返した女王が入るには、余りにも粗末な部屋、エイリカ湖の『祈りの部屋』の方がまだ明るいだろう。

「参りました、ミラルシア様」

 灯した明かりを掲げ、シャルンは開けられた扉からゆっくりと入った。

「…よくぞ、来られた」

 静かな声が応じる。

「明かりはそこへ。椅子がある。座っても良い」

「ありがとうございます」

 示された木のテーブルに明かりを置き、側の椅子に腰を下ろす。正面の壁際に座っていたミラルシアが座り直してシャルンを見た。

「…条件は聞いておるか?」

 背後で扉が閉まる音がした。微かな物音はレダンとサリスがそれぞれに扉の外に控えた音だろう。

「お話があると伺いました」

 シャルンはまっすぐミラルシアを見た。

 かつて城の中で、あれほど鮮やかに咲き誇っていた姿はない。質素な下女のような1枚もののドレスに薄い上着を羽織り、銀髪を後ろで紐で1つにまとめ、足には木靴を履いている。青みがかった緑の瞳は光を弱め、それでも不思議に唇は赤かった。

「…紅はつけておらぬのじゃが」

 シャルンの視線に気づいたのだろう、ミラルシアは微かに笑った。

「失礼いたしました」

 対するシャルンは、いくら地下通路を歩むために簡素にしたとは言え、厳然として王族の装いだ。ミラルシアが落差を感じても当たり前だが、それでも相手に怯みはなかった。

「話の対価に、私を再び玉座につけようとする者の名前を話す、そう聞いたか?」

「はい」

「知らぬ」

 がたっと見えない気配が扉の外でうろたえた。すぐさま飛び込みそうなのを堪えたようだ。

「許せ。初めから、そんな話はあり得ぬし、知らぬのだ」

 青緑の瞳が信じるか、と尋ねている。

「…では、ミラルシア様は私とお会いになるために嘘をつかれたのでございますか」

「そうなるな」

 唇の片端を上げた顔に、シャルンは既視感を覚えた。

 この気配、この様子はレダンに似ている。正も邪も、全てを飲み込み決断する王の顔だ。


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